第二話 神命

 近衛このえ高等女学院 紅葉もみじ


 アタシは普通科と同じ授業を受けられる、この時間が好きだ。


 この授業中だけは普通でいられる、そんな気がするのだ。


 アタシは篝屋かがりや紅葉、この女学院の五年だ。


 頭がよくなくとも、授業の内容は大体分かる。


 人として必要な授業なのだ、特殊科は二学級ある。


 甲と乙だ、甲学級はいわゆる完成されたといってもいい者たちが入る場所。


 乙学級はまだ力が発現していないが素養がある、又は修行中の者が入る学級だ。


 アタシは修行中だという自己的な理由で、乙学級に無理やり進んだ。


 本来の実力でいえば、甲でも問題ないといわれたがアタシの気が収まらなかったのだ。


 まだ師匠には遠く及ばない、それが分かるからこそ乙学級なのだ。


 だが一つ違和感がある、女学生の履く袴は今一つしっくりこねえそう思うのだ。


 足先をすぼませ脚絆のようにしてはいるが、それでも違和感があるのだ。


 小袖も、たすき掛けを愛用している。


 ただこの学級というか特殊科は、様々な経歴を持つものが集まるくせ者みたいな科だ。


 よくこんな科が学校に存在していられるものだと思うわけだ、それが近衛の特殊性なのだろう。



 御霊神宮/休憩所 みこと/美空


「はふう」とわらわはゴロゴロと動いた、畳の上である。


 こうするのが日課とでもいうように動く、コレが気持ちがいいのだ。


 心地よいともいう、邪魔さえ入らなければ。


 気配があった、戸の向こうに……。


「またゴロゴロしていたのですね!」と語気が少し怒気になっているものが来ていた。


 名を美空みそらという、わらわたちの監視役の一人で一番巫女の中では偉い。


「美空もゴロゴロせぬか、気持ちいいぞ」と誘う、火に油になるのは分かっているのだ。


 この心地よさ加減に負けて、いつも手を出してしまう。


 虎の尾を踏む行為だといわれても、わらわはするであろう。


 そっと美空の様子をうかがう、目が笑ってない。


 雷の一歩手前、だと分かった。


 雷が落ちる前に退散するのじゃ、わらわはコソコソと社務所に向かう道に戻った。


 元は歩き巫女で、食うや食わずの生活をしていたのじゃ。


 ここで固定給をもらいながら、巫女の職に就けるのじゃから文句はいえんのじゃ。


 わらわの若さでは本来は女学校というところに、お金があれば通うらしいのじゃが。


 そういうところには、とんと縁がない。


 だが今の生活も悪くはない、今は大家も優しくいう事が無い。


 どこかの財閥の者で、老後の楽しみだと聞いている。


 まあそこが皆のたまり場になっとるので、仕事が終われば帰ってからたまり場に顔を出すことが今のならわしじゃ。



 御霊神宮/境内 美空


 私はよく神命を帯びる、電波といえばそこまでなのだが。


 何かが起きることを予知することができるのだ、今日もどこかで人が襲われる。


 この神命で伝えられるものは一般的なものではない、襲われるということはあやかし絡みで人が襲われることを示すものだ。


 だがどこだ? そこまでは、伝えられなかった。


 私に指示を出せるものは特級の能力者で、私たちの上役になるお姫様がいるのだ。


 彼女以外からの命は、私たちには関係がない。


 使いが来ることもあれば、式が実際にふみを運ぶこともある。


 そういう能力にたけたお方だ、陰陽師でもある。


 だが真の姿は、夢見ゆめみでもあるのだ。〔夢で未来を見る未来視のようなもの〕


 私は鏡を見た、私は麒麟の御神器を二つ正確には三つ以上所有している。


 一つはこの麒麟の銅鏡でいつも首から提げている、もう一つは麒麟の短刀でいつも懐に持っている。


 その他は一旦麒麟の銅鏡を触り念じないと出て来ない、霊鎧の緋鎧と麒麟の大太刀である。


 よっぽどのことがない限り、鎧を呼び出すことは無いがそういうものである。


 今は鏡には何も映らない、私しか映らない。


 そして境内から伸びた参道のほうに目を向ける、人力車ではなく車が来ていた。


 黒塗りの高級車だ、目立つのですぐにわかる。


 黒衣を着た使いと思しきものが私に向かってやってきた、「姫の使いです」と丁寧にあいさつをする。


「これをどうぞ」と文を私に渡す、そのまま渡すと社務所に向かった。


 私はいつもの溜まり場に直ぐ向かう、そういう取り決めがなされているのだ。


 使いは、神社の長に話に行くのだろういつも通りだ。

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