退魔奇譚

第一章 洋獅子

第一話 洋獣

 風祭探偵社 吹雪


 渡来種とも書く、それを洋獣と読む。


 当て字である、居たとしてもそうは読まれないであろう。


 春の初めごろの話、大型犬に襲われ噛み殺されたと思しき遺体が見つかって一大事となった。


 だが襲われたはずの袋小路の近くに住む者には、悲鳴も何も聞こえなかったという証言が得られただけであった。


 当然裏は取ってある、間違いようがない。


 官憲に顔が利くのをいいことに、官憲の遺体安置所で検分に立ち会った。


 私には外科医としても資格を持っているので、立ち合いを許可され様子を詳しく拝見できた。


 獣の分類は明らかに大型分類で、噛み跡などの照合からライオン(獅子)に該当すると判断されたが死者の家族はそんな獣は飼ってないという。 


 事件の起こった近所にもそんな大型犬は飼ってない、という報告しか受けていない。


 明らかに、厄介ごとの臭いがした。


 官憲に解決を家族が望んでいたが、官憲の領分ではないだろう。


 我々も姫からの文や指示、いや口利きが無ければ動けない。



 御霊神宮 美空


「本宮は、厄除け、縁結び、諸事円満成熟、開運招福、商売繁盛、夫婦円満、子孫繁栄の御利益があります」と私は問いに笑顔で答えた、いわゆる営業スマイル的なものだ。


 厄払いに来たらしいのでそのまま案内を続け、権禰宜ごんねぎ宮戸みやとさんに引き継いだ。


 その足で、非常勤巫女の務め具合を調べるべく社務所に向かった。


 その際に噂を聞いてしまうが、素早く立ち去り穢れを避けた。


 妖魔あやかしの話のようだったが、詳しくは聞いていない。


 社務所には三名の非常勤巫女が詰めているはずだったが、一人居なかった。


 休憩中らしい、正規巫女は私を含めて三人在籍する。


 非常勤巫女は総勢十五人である、この広い社を切り盛りするのにはそれでも少ない。


 男性陣に頼むわけにもいかない、同じ四級されど違う。


 私の袴の色は朱ではない、浅黄色なのだ、同じ正規巫女でも緋袴を他の二人は履いている。


 正規の資格試験を受けて受かっているからであるが、そこが違いであるといえた。


 政府が区分けを取っ払ったためできたことだといえた。


 だが私は別の階位も持つ、検非違使での階位だ。


 そちらの階位はこちらの階位とは違う、一級を持つのだ。


 秘密組織といっても階位が無いと始まらない、ここの非常勤巫女の一人も同じように検非違使での階位を持っている三級ではあるが正式な階位だ。


 何かあって公にできない、妖魔あやかしが出たらこちらの階位のほうが有効になるのだ。


 神社のおさはこのことを知っている、自らよりも上の階位の者が居るということとそれが誰であるかということだ。


 長は二級上の宮司だ、この社にいる限りは一級を持てない。


 そういう宿命だ。



 おおとり高等女学院 かおる


 私は授業の合間の休みを持て余していた、元々できる上に知識をさらに付けているのだ。


 できないわけはない、それに密法の修行もあるのだ。


 暇な時間なんて、ない。


 私は頭を剃ってない、いわゆる破戒僧に該当する。


 袈裟もまとわない、女であることを捨てないのだ。


 だから高等女学院に、普段は通っている。


 だがそれでいいのだ、特に仏さまから怒られたりはしていないからだ。


 私はいわゆる神童と呼ばれる類の特殊な才能を秘めた者らしい、そして荒行を終え開眼も済んでいる。


 仏罰が下ったことはないし、神罰が下ることも無い。


 今まで、それでやって来たのだ。


 話しは変わるが、この地域には珍しく女学院が二つある。


 一つは私が通う、この鳳高等女学院である。


 もう一つは近衛高等女学院という名前だ、近衛の名前を冠する特殊な学院である。


 普通科と特殊科を備えていることで、有名だ。


 本格的に特殊なのはその特殊科に居る人材たちだ、選りすぐりの特殊な人材が揃っていると聞く。


 私も最初はそこを勧められたが、木を隠すには森の中というように普通科のみの鳳高等女学院にしたのであった。


 ただでさえ目立つ外見なのに、さらに特殊科のような特殊なところに在籍するなんて気が知れない。


 私は普通の人とは異なる、いわゆる先祖返りとされている。


 長く綺麗な白髪で色白なのである、そして極めつけの赤い瞳だ。

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