第2話

 何言ってんだこいつ。ガチのヤベー奴か。やっぱり関わらない方がいいタイプの人間かもしれない。人は見かけによらない。

 しかし、よく見るとやっぱりかわいかった。長い黒髪はサラサラで、顔立ちははっきりしている。制服は紺のスカートに紺のブレザー。胸の赤いリボンが可愛い。ありがちな制服だが、普通にかわいい。

 誘惑に勝てなかった。

「神様なのか」

 可愛らしい制服の神様が気になってしまい、話しかけてしまった。

「そうですよ。恋の神様です。女神、って呼んでくれていいですよ」

 女神、か。なんだか制服姿の女子高生には似合わない言葉だが、なかなか面白い。

「なんか悩んでることあるでしょ。聞いてあげてもいいよ」

 そりゃなかったらここに一人でなんか来ないわ。

 思わず心の中で突っ込んでしまった。

 気づいたら彼女のことについて考えていた。


 彼女とは去年同じクラスだった。入学式で一目見た時からかわいい子だなとは思っていた。鎌倉は高校生活初めての行事、遠足でみんなで行った場所だった。バスで鎌倉に向かい、班別で寺院や観光スポットを巡るごくごく普通の遠足だ。その時は同じ班ではなかったのだが、どこかでほかの班と合流し、そのままごっちゃになって行動していたため、たまたま彼女と話すことができた。

 今思えばラッキーだったな。僕の班は極めて真面目で、鎌倉五山をすべて巡る気でいただろう。お昼に彼女の班と合流し、大仏と鶴岡八幡宮を見に行きたいとうちの班の女子が言わなかったら、五山制覇していたことだろう。彼女はクラスではおとなしい方だが、そのルックスと周りの女友達のおかげで(せいで?)いつも周りには人がいた。

 鎌倉で話せたのは、まだクラスでの勢力図が固まっていなかったからだ。

 遠足の後、クラスで彼女と話すことはほとんどなかったと思う。出席番号が近いわけでもなく、席替えでも近くになったことはない。話せるのは毎回の定期テスト最終日だけだった。


「ねぇ、聞いてますぅ?」

 神様(?)、女神(?)は気づくと隣に座っていた。

 ふわっとなんだかわからないいい匂いがした。


 彼女とは教室では話さないものの、テストが近づくとそのたびに連絡していた。テスト最終日に午後にどこかに行かないか、と。相手の部活の予定がわからなくても、テスト最終日は基本的に部活はないため誘いやすかった。遠足の後の初めての中間試験の最終日にデートに誘うのはさすがに勇気が必要だったが、仲良くしてみたいという思いが勝った。場所はどこでもよかった。落ち着いて話の出来るところがいいが、おしゃれな穴場のカフェを知っているわけもなく、かといってスタバじゃ話しにくい。いろいろ考えた挙句、新宿御苑に誘うことにした。ちょうど新緑の季節で心地いいだろうと思ったし、公園ならどこでも話せそうな気がした。LINEで誘うと、彼女からの返事は〈OK!〉というスタンプだった。とても嬉しかった。新緑の新宿御苑は5月にしては肌寒かったが、日向は暖かかった。二人で日向のベンチに座りながら、たわいもない話をした。

 それからは定期テストのたびに必ずどこかに二人で行った。一緒に帰るわけではなく、必ず現地集合で。周りにどう思われたいというわけではないが、噂されるのはお互いに厄介なことだったと思う。


 でも今年の秋、二学期の中間テスト最終日。初めて断られた。理由は教えてくれなかった。唖然としてしまった。テスト前に連絡することは欠かさなかったが、逆に言えばテスト前以外は特別話すこともなく、高二では違うクラスになってしまったこともあり、距離が遠くなってしまっていた。断られるのが怖くなって、今回も誘おうとは思ったものの、結局誘えなかった。一学期の期末終わりに海に行きたい話で盛り上がったが、夏は混んでるし暑いから、冬に行こうと話していたのだ。


「ねぇ、今彼女のこと考えてたでしょ」

 どうしてわかるんだよ。

「神様だからね。彼女、どう思ってるか気になるでしょ」

 女神は言った。彼女を知っているのか?

「私神様だからわかるんだよね、いろんなこと」

 思わず聞いてしまった。「彼女は?」

 彼女は僕のことをどう思っているんだ?

「それがわかったら恋愛沙汰で苦労しないよ」

 女神はそう言って苦笑いした。

「センパイは彼女に好きって伝えたことある?」

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