冬の海と神様

緑風渚

第1話

 何やってるんだろう、僕は。

 横須賀線に乗りながらそっとため息をつく。

 車窓を眺めていると、徐々に建物が高くなったり低くなったり、見慣れない景色が続いていく。午後の変な時間だからか席に座っている人もまばらで、よそよそしい。

 2学期の期末テスト最終日。午前中にテストは終わり、部活はない。友達も待たずに、一人で山手線で品川に向かった。品川駅は思ったより大きく、駅の表示を頼りに横須賀線のホームに向かう。

 鎌倉方面であることを確認して乗り込む。行き方はだいぶ前に調べたきり調べてないからうろ覚えだが、おそらく大丈夫だろう。



 電車のドアが開くと、風が一気に吹き込んできた。磯の香りがほのかにする海風が、凍えるような冬を伝えてくれた。冬の海ってこんなにも寒いのか。

 何分ぐらい揺られていたのだろう。改札を出るとき、パスモの残高を見ると思ったより電車賃がかかっていた。帰りはチャージしないとな。

 浜辺までは目と鼻の先だ。にしても寒い。手袋、マフラーをしててもどんどん体温が奪われていく。

 冬の湘南は夏からは想像もつかないほど寒々しかった。空は白と灰色の雲に覆われて、太陽は見えず、人もいない。

 砂浜に腰を下ろした。砂も冷たい。当たり前か。

 若いカップルが一組だけ海辺を歩いていた。二人とも楽しそうにしゃべっていて、何を話しているのかは全くわからないが、そこだけとても暖かそうで、冬じゃないみたいだ。見ているこっちが恥ずかしくなるわ。

 彼らを見ていると、なんだか自分が場違いな気がしてきた。

 僕は彼女のことが好きだったのだろうか。やっぱりわからない。

 砂浜についた手に砂がくっつく。このまま砂浜に沈んでいきたい。だんだんゆっくり冷たい砂の中に。


「セ~ンパイ、何してるんですか?」

 いきなり後ろから声を掛けられ、びっくりして思わず振り返った。

 目の前には女子高生が立っていた。見たことない制服。うちの学校ではない。この辺の子なのか。

 というかこんなかわいい後輩を僕は知らない。

「海眺めてるだけだよ」

 っていうかお前誰だよ。いきなり話しかけてきて。そう言いかけてやめた。そんな元気もないし、関わらない方がいいかもしれないと本能的に感じた。

「なんだか寂しそうですね。彼女にでもフラれたんですか」

 女子高生は笑いながら話をつづけた。いや女子中学生か。どっちでもいい。

「黙ったってことは、さては図星ですか?」

 煽ってくるな、こいつ。

「お前何だよ。いきなり話しかけてきて」

 萎えていた神経に触れてきたその声に、思わず反応してしまった。

 彼女はニヤニヤ笑っていた。

「神様、って言ったら信じますか?」


 

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