一番大きなカップ形のアイス
人のいない東京の街は気味が悪いくらい静かだった。自転車をこぐ音がビルとビルを反響して、より一層寂しさを誇張させる。ただ、普段だと経験できない特別感もあって人類未踏の洞窟に入ってくようなそんな感覚も覚えた。
「すっごい音響くねー!」
香奈が嬉しそうに大きな声で叫ぶ。その声がやまびこのように何度も響いていく。本当に地球からみんないなくなっちゃったんだな。
しばらく自転車をこいでいると喉が乾いてきたのでコンビニによる事にする。
「商品並んだままだねー」
「隕石の話から避難まですごい短かったからね。」
「これ全部自由に持ってっていいのかー!なんだかお金持ちになった気分!」
香菜はお菓子とかジュースとか好き勝手に取り出していく。
私はいつも飲むほうじ茶とパンを2個。あと、念の為カップ麺も数個リュックに詰める。
「アイス食べようよ!」
香奈が明るい声で棚の裏から話しかけてくる。
確かに秋になってきたとはいえ、まだ9月の上旬、風は涼しいものの日差しは強く、汗も少しかいている。
アイスが入っている冷凍食品のコーナーへ向かう。アイスはカップアイスや棒アイス、コーンに入ってるアイスといろんな種類のものがあった。今思い出してみると独り暮らしを始めてからわざわざ買いにいってまでアイスを食べたいと思ったことがなかったので、まる一年ぐらい食べてなかったかもしれない。
「私はこれにしよーっと!」
そう言って香菜はその中の一番大きなカップ形のアイスを手に取る。香菜らしいといったら香菜らしいチョイス。私はチョコ味の小粒のアイスが6個ぐらい入ったものを選ぶ。
「一通り食料集めたしそろそろ都市部に行こうか。車とか探そう。」
「そうだねー」
そう言ってコンビニを出ようとしたときだった。
コンビニから20mぐらいの距離に人影が見えた。
暗い店内から明るい外へ出たせいで視界が眩しくいまいちよく見えない。目が慣れてくると人影の正体は成人した男性であることがわかる。手には何か持っている。
誰だろう…よーく目を凝らすとそれが金属バットであることがわかる。
赤い液体が滴っている。
あれはマズそうだ…早く逃げないと。
香菜に警告しようとした、だがもうすでに遅かった。
「あれ?あそこに誰かいない?すみませーん!人ですかー?」
あぁ…まずい…
その男はこちらに気づくとしばらくその場に立ち止まったあと、バットを構えて走ってきた。
「香菜!自転車に乗って!早く逃げるよ!」
「え…どうして…?人がいるのに…」
「いいから早く!」
香菜は不思議そうに自転車に乗り込む、おそらくバットの血に気づいてないのだろう。
慌てて自転車に乗りこみ、必死で自転車をこいだ。しばらくして後ろを見ると、もうその男はいなかった。
「…っ香菜!あの人っ…絶対やばい人だったよっ…!手に凶器持ってたし…っ!」
「えぇ?そうかなー?」
「いい?いま地球に取り残された人は、私達みたいに宇宙船に乗り損ねた人と、わざと乗らなかった人の2種類いるの…っ!わざと乗らないような人なんて変な人しかいないから、もしまた人がいても無闇に話しかけちゃ駄目だよ?!」
「はーい…」
説教された子供みたいに香菜はへこむ。
それよりも、さっき人に会って気づいたけれど、確かに私達だけが地球に取り残された訳ではなさそうだ。無用心に夜外を出歩いたりしたら殺されたりするかもしれない。今後気をつけないと。
私達はその後も東京の中心に向かって自転車をこいでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます