旅立ち

眩しい光が瞼の隙間から差し込んで目が覚める。

自然な目覚めは本当に気持ちがいい。以前なら毎朝聞こえていた車のうるさいエンジン音も無く、ここまでスッキリした朝は久々かもしれない。


すぐ横では香奈がお腹を出して寝ていた。そっとタオルケットを掛けてやる。

洗面台に向かい、顔を洗う。水道が止まっていないのは本当にありがたい。なんで人がいなくなったあとの地球に水道や電気を通すのだろうと思っていたが、もしかしたら地球に取り残された人たちへの延命処置だったのかもしれない。


とりあえず朝ご飯を食べようとキッチンを物色し、数枚残っていた食パンをマーガリンだけ塗ってレンジでチンして食べる。

テレビをつけるが流石にどの局も放送はしていなかった。放送休止の画面がより一層地球の終わりを思わせる。


サクサクと音を立てながら少し焼き過ぎた食パンをかじっていると寝ぼけた様子の香奈が起きてくる。


「おはようごさいまぁす…」

自分もおはようと挨拶を返す。凄く気の抜けた香菜の挨拶に、彼女の朝の弱さをわからせられる。

「朝ご飯は自分で適当に作ってね」

「はーい」

香奈が冷蔵庫を物色する。

コンロの火をつける音やまな板の上で具材を切る音、何かをフライパンで焼く音がキッチンから響いてくる。朝から一体何を作っているんだろう。


しばらくするとバターのいい香りがこちらにまで漂ってきた。

すると香奈がこちらに戻ってくる。

「じゃーん、香奈特性オムライス、モーニングえでぃしょんでーす!」

レシピの名前は知っている言葉をとりあえず使ってみたような酷いセンスだったがオムライス自体はとても美味しそうだった。

「朝からよく食べるね。」

「食べれるときに食べとかないと!」

香菜はいただきますと元気に唱えて、ガツガツとオムライスを頬張っていく。


「そういえば昨日話した旅の話だけどさ、具体的に何の計画も立ててないけどどうするの?」

「うーん…」

香菜はしばらく考え込む。

「まぁ…適当で良いんじゃない?その時その時思いついたところに行こうよ!」

確かに、そのぐらいのほうが気楽でいいかもしれない。食料はそのへんのコンビニとかスーパーとかから持ってけば済む話だし。

「そうしようか」

「じゃあ一番最初はどこ行くー?」

少し考えて、旅に向けた準備をしなくてはと思う。

「とりあえず東京の都市部に行っていろいろ物資とか集めたほうがいいんじゃない?車とかも大きいの見つけたいし。」

「確かにそうだね!じゃあ最初の目的地は…東京スカイツリーにしよう!」

黙って頷く、窓から東京スカイツリーの方向を見る。やはりすごい存在感。信号待ちとかは無いから、自転車に乗れば40分もあれば着くだろう。

「じゃ、荷物まとめよっか。」

「はーい!」


香菜は自分の部屋に走っていく。

私も大きめなリュックを持って荷物をまとめる、パジャマとか、水筒とか、使う場面が多そうなものを荷物にまとめる。タンスを物色していると埃を被った少しぶ厚目の本が出てきた。開いてみるとそれがアルバムであることがわかる。思わずため息が漏れた。過去はあまり思い出したくない。アルバムの中から1枚だけ写真を抜きとって財布にしまった。


他に何か荷物は無いかと部屋中を探し回っていると外から香菜の私を呼ぶ声が聞こえる、準備が終わったんだろう。多分もう持っていくものはないだろうと玄関のドアを開ける。

外は秋を思わせる乾いた涼しい風が吹いていて、とても気持ちが良かった。“旅立ち”という言葉が頭に浮かび、少しだけ心をときめかせる。

「おまたせー」

「あれ見て!」

香奈は東の空を指を指す、その先には赤く光る小さな点が見えた。

「隕石ってもしかしてあれかな?」

「そうかもね」

「1年後にはあれが落ちてくるのか…」


1年後地球を滅ぼすであろうそれは、不思議なほどに美しく輝いていた。

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