宇宙船は彼方
私はどうやら1年後に滅亡する地球において行かれたらしい。
普段こんなに寝過ごすことなんてないのにどうしてだろう。
正直置いてかれた実感が沸かない。もう一度望遠鏡を覗いてみてもやっぱり見える景色は変わらない。
どうにかして助けを呼べないだろうか…
スマホを開いてみるがやっぱりインターネットは繋がっていない。
どうやらもう助かる道はないみたいだ。
人生諦めが肝心ってことよ。
…そういえば、一緒に宇宙船に乗る約束をしていた香奈はどうしたんだろう、迎えに来てくれてないし…置いてかれたのかな、唯一の友達だったんだけど。
明日からどうすればいいんだろう。不思議と死への恐怖とかそういうのは全く無い。まぁ、今まで散々な人生だったし悔いもないよね。
「ぶらぶら地球旅行でもしようかなぁ」
ここまで楽観的な自分もおかしなものだな、と自然と笑えてくる。
とりあえず普段なら出来なかったようなことでもしてみようかな、なんて気持ちで玄関のドアノブに手を掛けようとした、そのときだった。
突然インターホンのチャイムが鳴る。
…もしかして、今までの全部ドッキリだったとか?
玄関のドアをそのまま開く。するとそこには、見覚えのある茶髪のショートヘアの少女が立っていた。
「瑠美っ!!!!」
少女はそのまま私に飛びついてくる。
「香奈?!宇宙船に乗ったんじゃなかったの?!」
暗くて顔がよく見えなかったが、声ですぐに誰かわかった。
「良かったよぉぉぉぉぉ…………!!!」
香奈は涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっていた。
「起きたらっ…もうっ…外真っ暗でっ…みんなもう出発しててっ…怖くてっ…」
香菜の訴えは泣き声と混ざってほとんど聞き取れないが、よっぽど怖かったんだろうな、ということは伝わってくる。
「香菜も寝坊したってこと…?」
「うんっ…」
「…とりあえず…部屋入っておいで?」
「うんっ…」
座り込んで鼻をすすっている香菜にそっとティッシュ箱を渡す。
「本当に宇宙船は飛んでいっちゃったのかな…?」
香菜は不安そうな声で聞いてくる。
「…多分。集合時間も過ぎちゃってるし、全世界で同時に出発してるはずだからもう地球上には宇宙船は無いんじゃないかな…」
「そんなぁ…じゃあ私達このまま死んじゃうってこと…?」
しばらく黙り込む。
多分そうなんだろう、でもここで香菜を肯定したら香菜はうずくまってしまう気がする。
「…旅でもしてみる?」
自然と口から出ていた、自分でもなんでこんなこと言ったのかわからなかった。けど、香菜はなぜかさっきまでの泣き顔からは想像もできないような期待に満ち溢れる表情をしていた。
「…それ…なんかいいね!旅しよ!旅!山とか遊園地とか行こうよ!」
急に香菜はウキウキし始めた。昔から香菜はこういう脳天気というか、楽観的というか、そんなところがある。まあ、そんな香菜の存在のおかげで今まで私もなんとか生きてこれたって節はあるんだけど。
「なんだか楽しみになってきたなぁっ…!明日に備えてもう寝ようよ!」
ついさっきまで寝てたから、なかなか寝れそうには無いが、外も暗いしすることも無いので黙って頷いて布団の準備をする。
「どこ行きたいかなー…海とかもいいなー!他にも地球に置いてかれた人はいるのかなー?」
ずーっと香菜は独り言を続ける、そんな香菜独り言を聞いているとだんだん眠くなってきた。
1年後とはいえ、死を目前にした人間がこんなに寝られるもんかねぇ…
自分の思う以上に自分は現状を客観視してるんだな、と改めて思わされ、また嘲笑気味に少しだけニヤニヤしながら深い眠りに落ちていった。
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