昔フラれた幼馴染の家に住むことになりました。問題だらけの大家族付き。

空賀くも

第1話 幼馴染の家へ


告白。それは勇気を出して好きな人へ自分の気持ちを伝えることだ。


「――私はその関係になりたくない...」


…そう言い、その場から走り去っていく後ろ姿を俺は今でも鮮明に覚えている。


幼稚園の頃から遊んでいた幼馴染の女の子に

小学校の卒業式の後、ここしかないと思い告白した。


そして失恋。


ここでその人との関わりが終わってしまうのであれば、この失恋はただの黒歴史。

悲しい経験だったなどと笑い話にでもなっただろう。俺もそうなるかと思った。

しかし、運命の神様はオーバーキルが大好きらしい。


「――まさか同じ高校で隣の席になるなんて...」


そう。この俺、三谷佐希みたにさきは頑張って高校受験をして入った高校にて、


俺の初恋で初失恋の人、奈峰水沙なみねみずさと同じクラスになった挙句、


最悪の席替えによって隣の席になるという気まずさの地獄に落とされていた。



仲直りしたいという気持ちも強いが、あいつは俺のことが嫌いなはず。


諦めだ。


だからもうあんまり関わらないようにしよう。


と、思っていたのだが。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「…くっそ懐かしいな」


俺は右手にスーツケースを持ち、花栗さんの家の前で「ああ、これ現実なんだ」と絶望していた。


今日から俺はここに住む。らしい。


きっかけは親の転勤。

ウチは色々あって母子家庭だ。私立高校の受験でもあり、お金の心配もしたのだが、実は母さんは有名企業の正社員として働いており、お金の心配は無かった。


だが、高校に受かり喜んでいた頃に母さんの転勤が決まる。

母さんは転職しようかとも言ってくれたがそれだと逆にお金の心配が出てくる。

かといって一人暮らしは流石にまずい。


どうするどうすると言っていた所で、母さんがクラスの名簿を見て一之瀬水沙

という名前に気づき、助けてくれと連絡。


子供の仲は関係なくママ友はママ友のままだ。


何を血迷ったのか奈峰千冬なみねちふゆさん(母親)は「ウチ来るか!元々子供しかおらんし!」

などと発言。無事住むこととなった。なぜだ。いやありがたいんだけれども。


そうして今に至る。


母さんは母さんで転勤の準備のため来れず、俺一人家の前で立ち尽くしていた。

荷物はもう運び込まれていて、俺が来ることはもうわかっているはずだ。

あとはインターホンを押してこんにちはするだけだ。


だが俺はインターホンを押そうとしようとして止まり、また押そうとして止まる。

それを20分弱繰り返している。もう明らかに不審者だった。


「・・・何してんの」


後ろから声が掛けられた。…少し聞き覚えのある声。トラウマな声でもあるが。


「…奈峰さん」


こうして顔が合うのは小学生ぶりだろう。

改めて見るとやっぱり可愛い...いや、何考えてんだ俺は。


「…何?なんか顔についてる?」


「い、いや...ちょっと驚いちゃって」


緊張で言葉が出てこない。


「…とりあえず家入るよ。うちの兄妹たちも来るの知ってるから安心して。」


そうして家の中へ。


にしてもこの家はだいぶデカい。二階建ての一軒家だけど、外から見たときは

奥行きがかなりあった。かなりの大家族のようだ。


リビングらしきところに入り、

ソファに案内され座る。


「「...」」


沈黙。まぁ気まずい。


耐えきれなくなった俺が口を開く。


「・・・奈峰さん、その、千冬さんは...?」


お礼を言おうと持ってきた生菓子もあるし、取り敢えず何か話題を。


「え...?いないけど」


「へ?」


「いや、ウチはパパは海外で働いてて、ママは転勤で土日祝しか帰ってこないよ。

てか三谷の家のママの手伝いに行ったって聞いたんだけど...?」


母さんからはそんなこと一切言われていない。ちなみに今日は土曜日だ


「…この家には平日両親が二人ともいないってこと?」


「うん。ウチは6人兄妹で子供だけしかいないの。上二人は大学生だから...

多分大丈夫大丈夫」


「そ、そっか...」


――つまりこの家に普段住んでいるのは子供だけ。


色々母さんに問い詰めたいけれどこの状況でスマホはいじりずらいし、

なにか空気が緩まるもの...あっ。これだ。


「えっと...これあそこの和菓子屋さんのイチゴ大福なんだけど...食べる?」

確か好きだったでしょあそこの大福。」


来る前に買っておいたイチゴ大福。こいつは昔から食べるのが好きだったはず!

これでなんとかなってくれ。


「それ、何個あるの?」


「え?確か四個買ったはず...あっ。」


六人兄妹だったら全然足りない。母さんこの家の事ちゃんと俺に教えといてくれよ...


「ふふっ...大丈夫。今はこの家に四人しかいないから。

早く食べちゃお、それ大好きなんだ。」


何かがおかしかったのか、クスクス笑いながらそう言った。


「…それなら良かった」


「さ、お姉ちゃんと兄貴呼んでくるから、その箱開けちゃってて。

三谷、兄貴とお姉ちゃんとは面識あったよね?」


「う、うん。」


そのままリビングのドアを開け花栗さんが部屋を出ていく。


「…忘れられてたわけじゃなかったんだ」


何かを言った気がするが、俺には全く聞こえなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


少したって、リビングのドアが開いた。


「…おおー!!!佐希君待ってたよー!!懐かしいな!」


「佐希君、久しぶりだね。…めっちゃ背大きくなったなぁ」


「あ…はるかさんと恭哉きょうやさん!お久しぶりです」


この二人は、俺がこの家に遊びに来た時に、時々

水沙...いや、奈峰さんと俺、遥お姉さんと恭哉お兄さんでゲームをして遊んでいた。


「おっ、菓幸屋かこうやさんの大福!いっただきまーす...うまいうまい」


「遥お前さっきトイレから出たとき手洗ってたっけ?」


…昔から全く変わってないようです。


「佐希君、さっき見たら部屋ビニールだらけだったけど大丈夫?」


「え。マジですか」


「マジマジ。ありゃ結構かかるぞ~

…まぁ安心して、恭哉が手伝いまくってくれるから。」


「勝手に決めんなよ...まぁ別に良いんだけど」


思ったより部屋が汚いらしいので、恭哉さんに手伝ってもらいつつ荷物の整理を。

荷物が全部包装されていたりしてかなり時間がかかる。もう外は真っ暗に。


二人で片付けしていると、部屋をノックする音が。


「…そろそろご飯にしようか二人とも?佐希君おなか減ってる?」


「あっ、ちょうどお腹減って来てます。」


「よし、今日の飯当番は...全員だけど先週休みだった水沙!恭哉は水沙手伝え。

私と佐希君はここでのんびりしとくから。」


「だから勝手に決めんなって...」


一旦切り上げてリビングへ。パワーバランスは遥さんが圧倒的に上らしい。


恭哉さんと花栗さんは慣れた手つきでキッチンに入っていく。

『飯当番リスト』と書かれたその身にホワイトボードには、

曜日別に水沙恭哉秋葉全員土日と書かれている。


「あの、遥さん」


「ん?どした佐希君」


「俺の当番は何曜日になりますかね...?」


「おお、働き者だね~とってもありがたいけど、まだこの家にも慣れてない

だろうし、それは左希くんがこの家に慣れてからだね。」


「…はい!」


それからは少しだけどうでもいいことを話したりして、夜ご飯を待った。

手伝おうともしたけど、担当以外ダメ~と言われた。この家のルールなのだろう。


「ご飯できたぞーカレーやっぱ楽!うまい!短時間!」


「…秋葉あきば呼んでくる」


三十分ほどたち、夜ご飯となった。



「初めまして。花栗秋葉はなぐりあきばです。中三です。

秋葉って呼んでください。よろしくお願いします。三谷さん。」


「こちらこそよろしくお願いします...」


上の階から降りてきた秋葉さんとは初対面だ。こっちも軽く自己紹介をすませ、

取り敢えず夜ご飯を食べることに。


・・・そういや秋葉さんと遥さん顔がそっくりである。二人とも美人。

というか奈峰家基本的に顔立ちの良い人しかいない。


俺の顔は...まぁその話は置いておく。


「カレー余ってるなら明日の昼はカレーうどんだねぇ」


「いや月曜日までカレーを持っていきたい...作るのめんどい」


「先週も同じ会話してただろお前ら」


この4人はすごい仲が良さげだ。みんな笑顔。

母子家庭の俺にはこの光景は結構眩しい。



ご飯を食べてそのままお風呂に入り今日はもう疲れただろうし寝ろ!

とのことで少し早いけどもう寝ることにした。


タイマーをセットし、目をつぶる。疲れからか俺はすぐ眠りについた。
























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