第12話 薬草採取

「夕食まで時間があるから、どんな依頼が貼り出されているか見に行こうぜ」


 登録証を受け取ったアランは早速ルイスに提案してきた。依頼を受ける、受けないは別として、どのような依頼が貼り出されているかを確認する程度なら問題なさそうだとルイスは考えた。


「ああ、いいよ」


 ルイスは同意し、2人で依頼が貼り出されている掲示板を見に行くことにした。


「えっと、俺たちのランクはEランクだから、受けられるものは・・・ほとんどDランクからで、Eランクで受けられる物ってないじゃないか」


 アランの言う通り貼り出されている紙を1枚、1枚確認してみたが、ほとんどの依頼はDランクからとなっていてEランクでも受けられるものは、僅かしか残っていなかった。


「魔物をドバーッと倒したり、どこかのお嬢様を警護するような華やかなものはないんだな。Eランクで受けられるものは、ほとんどが店や工事現場の雑用とかそんなものばかりだな」

「そう言う依頼は危険が伴うから、仮にEランクでも受けられる物があったとしても受けない方が良いと思うよ」


 剣を持ってバサリと切りつけるような動作をしながらアランが言った。ルイスは先ほどまで受付嬢のミアが言っていたことを忘れているアランに釘を刺した。


「わかってる、わかってるって。魔物とか出てきても倒せる自信がないからな」

「魔物の討伐は無理として、これなんか受けられそうだね。森で薬草採取だって」

「草むしりか・・・。仕方ないな。これで手を打っておくか」

「おい!」


 見るだけと言っていたアランが、ルイスが止める間もなく依頼の書かれている紙を1枚剥がした。


「これルイスと一緒に受けまーす」

「さっきまで2人のやり取りを見ていたのだけれど、ルイス君も本当に受けるの?」

「1人で行かせると心配だから、仕方ないので一緒に行きます」


 1人で行かせるのは心配になり、ルイスはアランとパーティを組むことにした。


「わかったわ。森の浅い所だから危険は少ないと思うけど、危ないと感じたらまず最初に自分の身を守ることを考えなさいね。はい、それじゃ受理します。では、これが今回の採取リストです。特に個数の指定はないから、一定の条件を満たしている物は従量に応じて依頼達成としてギルドで引き取るわ」


 ミアがアランが剥がした依頼書を受理した。彼女は心配そうな表情をしながら、ルイスとアランに言った。


「それじゃ夕食までにパパッと終わらせてしまおうぜ」

「わかった」


 比較的危険は少ないと言われていても全く安全というわけではない。不安を感じつつルイスはアランとともに森に向かう為に冒険者ギルドを後にした。



「ほほぅ、初めての依頼か。で、どこまで行くんだい?」


 街を出ようとしたところで、ルイスとアランは衛兵に止められた。そして街の外に出る理由を尋ねられた。理由を話すと、どの辺りまで行くのかと尋ねられた。


「薬草採取に森の方までいこうと思っています」

「そうか、Eランクの採取なら森の浅いところだから大丈夫そうだな。森に入って急に周りが暗くなり始めたら、もうそこは森の浅いところではない。すぐに明るいところまで戻るんだぞ。浅いところでは絶対とは言わないが、危ない魔物の出現率は低いといわれている。だが、森の中が薄暗く感じられるところでは、危険な魔物の遭遇率がぐんと上がるんだ。気をつけて行くんだぞ」

「「ありがとうございます」」


 親切な衛兵は、ルイスとアランに森に入る際のアドバイスをした。2人はお礼を言って街の門をくぐって外に出た。


「ルイス、ここが森だ」

「へぇ。結構深そうだね」


 森は街を出てから歩いて数分のところにあった。平地なので木々で塞がれてどれくらいの広さがあるのか、この位置から測ることはできなかったが、ルイスは大きな森と言うだけは理解できた。


「森の浅いところは道もあるから比較的簡単に入ることができるんだ。


 さすが地元民と言うだけあって、アランは慣れた様子で森に続く小道を進んでいった。そのあとをルイスはトテトテと付いていった。


「どうやら同じような目的で来ている者もいるようだな」

「そのようだね」


 小道を進んでいくと、道から少し離れたところで座り込み、草をむしって袋の中に入れている人を時々見かけた。恐らく同じ種類の依頼を受けて薬草採集に勤しんでいる冒険者だろう。


「寮で見かけた人もいるね」

「まあな。基本あの学園に通う者は金銭的余裕がないからな。俺たちと同じように冒険者の依頼を受けてお金を稼ぐ者もいると思うぞ」


 中には同じ寮で見かけた人物もいた。彼らは薬草集めに集中していたため、2人が通りかかった際も気が付かれることはなく、ルイスとアランも悪いと思い声を掛けなかった。



「よし、この辺りで探してみようか」

「そうだね。パッと見回した感じだと競合する冒険者の姿もないし、指定された薬草も生えているから良いと思うよ」

「そうなのか?」


 アランは驚いた表情で言った。ルイスは彼が何に驚いているのか、わからなかったがその理由はすぐに知ることとなった。


「えっと、葉っぱの形状は・・・これは違うな。これか? いや、違うな」


 アランは冒険者ギルドで貰った集めてくる薬草が書かれている紙を見比べながら、必死に薬草を探していた。


「あった。あった。うわぁ、いっぱいある。よいしょ、よいしょ」


 一方ルイスは、草をむしるようにブチブチと薬草を引き抜き、持ってきた袋の中に放り込んでいった。


「おい、おい。ルイス。草むしりじゃないんだぞ。適当な草を袋の中に入れたらダメじゃないか」

「え? これ依頼書に書かれている薬草だけど?」

「そんな訳あるか。この紙に書かれている薬草の特徴を確認しながら、指定された物だけを入れるんだぞ」


 アランは薬草の書かれた紙をペラペラとルイスの前で振りながら言った。


「何なら、その紙で確認すると良いよ」


 そう言ってルイスは、袋の中に手を突っ込み、適当に薬草を掴んでアランに渡した。


「えっと、この葉っぱの形状は・・・。あっ、本当だ。書かれている特徴と同じものだ。すまん。だけど、ルイスは集めるときに紙なんて見ていなかっただろ?」

「基本的にこの手の薬草は全て覚えているから、名前さえわかれば、あとは集めるだけだからね」


 ルイスはそう答えた。城には薬師という職業の者が常駐していて、必要に応じて薬などの調合も行われる。常時使われるような薬草は城の中で栽培されていて、王女の教育の一環として薬師による薬学の勉強も行われていた。その中では城で栽培されている薬草についてのものもあり、種類や用法など幼い頃から頭の中に叩き込まれていた。そのため、1つ1つ特徴を確認するまでもなく、見ただけで薬草だと判別できた。


「すげえな。もしかして薬師でも目指しているのか?」

「いや、そういうつもりはないけど。アランは薬草の種類が良くわからないんだよね? なら、ここにたくさん生えているのは全部指定された薬草だから、よろしく。僕は他のところを探してみるよ」

「ありがとう。助かる」


 ルイスが作業していた場所をアランに譲り、ルイスは森の少し奥まで移動した。


「おっ、これは、あのリストの中で買い取り額が1番高かった薬草だ。たくさんあるじゃないか。やったーっ!」


 ルイスは、群生している買い取り額の1番高い薬草を見つけ、ルンルン気分で薬草を袋の中に入れていった。


「アラン、作業の方はどう?」

「ああ、この辺り一帯は刈り尽くしたぞ」

「すごい、すごい。僕の袋もいっぱいになったし、そろそろ戻ろうか」

「そうだな」


 薬草でいっぱいになった袋を持ったルイスとアランは街に戻ることにした。



「初めての依頼だったんだろ? あの短時間でこれだけ集めてくるなんて、すごいじゃないか」


 街に戻ると、出る前にアドバイスをしてくれた衛兵が驚いた様子で話しかけてきた。


「コイツか薬草の知識を持っていて、そのおかげでたくさん集められたんだ」

「へぇ。知識持ちか。それなら効率よく集められそうだな。葉っぱなんて素人が見たら全部同じに見えるから、最初は大変な仕事になるし、持ち帰った薬草もただの草だったりするときもあるから、結果が出るまで安心できないが、その心配も不要という訳か。いい友達を持ったな」

「本当に俺にとって勿体ないぐらいの友達ですよ」


 アランはルイスの頭を撫でながら衛兵に答えた。


「あっ、そうそう。一応決まりだからこの街に住む者の証しを提示してくれ。ない場合は入街税がかかるからな。ほい、確認させて貰ったよ」


 アランとルイスは冒険者登録証を衛兵に提示し、街の中に入った。



「すみません。依頼の品を集めてきました」

「おかえりなさい2人とも。この様子だと無事に薬草採集はできたようね。集めてきたものを確認させて貰うわね」


 ルイスとアランはその足で冒険者ギルドを訪れて、集めてきた薬草を受付嬢のミアに渡した。


「すごいわね。あの短時間でよくこんなに集めてきたわね。それにこの薬草は希少性が高い上に、判別が付きにくいから素人はなかなか集められないものよ。本当に物凄い量を集めてきたわね」


 希少性が高い薬草とはルイスが集めてきたものである。ミアは感心した様子でそう答えた。


「はい、じゃあ依頼達成として今回の報酬ね」

「えっ? こんなに?」

「適正買い取りよ。だから金額は間違っていないわ」


 受付カウンターには報酬として3万Gが置かれていた。


「またよろしく頼むわね」


 報酬を受け取り、ルイスとアランは冒険者ギルドを出た。


「もしかして普通に働くよりも良い仕事じゃないか?」

「今日は、運が良かっただけだよ」

「まあな。ルイスがいなかったら、ここまで稼げなかったからな。あっ、そうそう、借りていたお金を返すよ」


 アランはルイスから借りた冒険者登録用の費用を貰った報酬から返済した。


「それじゃ寮に帰ろうか」

「そうだな」


 報酬という臨時収入を得て、懐事情が少々暖かくなった2人は寮に戻ることにした。

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