第11話 冒険者登録

「思ったよりも昼食でお金使ってしまったなぁ」


 アランが自分の財布を開けて中身を確認しながら言った。


「そりゃ、オムライス1つでも良いお値段だったのに、2つも頼むから」

「むぐっ」


 ルイスに正論を言われ、アランは何も言い返せなかった。


「よし、決めた。夕食まで時間があるし、お金があるうちに冒険者登録をしておこう。本当にお金がなくなってしまって、登録料も払えなくなると困るしな。働き口がないときの最終手段だが、準備だけはしておこう」


 アランは金策の手段のひとつとして冒険者登録をするようだ。


「アラン、もしかして冒険者登録するのってお金がいるの?」

「当たり前じゃないか、登録証は身分証明にも使えるからさすがにタダじゃ発行してもらえないよ」

「そうなんだ」


 冒険者ギルドに登録するにはお金が必要だとアランが話した。


「ルイス、おまえもお金がなくなると困るから、一緒に登録に行くか?」

「そうだね。ついでだから一緒に行くよ」


 ルイスも登録しておいた方が後々役立ちそうだと判断し、アランと一緒に冒険者ギルドに向かうことにした。



「よし、着いたぞ。冒険者ギルドだ」

「ああ」


 アランの案内でルイスは冒険者ギルドの前にやってきた。昨日もこの前を通ったので場所は覚えていたのだが、この街に不慣れだろうと気遣ったアランに申し訳ないと思い、知らないふりをして付いてきた。


「いつ見ても入るのためらうけど・・・よし、ルイス、いくぞ」

「わかった」

「って、袖を掴むなよ」

「ごめんごめん。無意識のうちに掴んでた」


 初めての者を寄せ付けない雰囲気が漂う、冒険者ギルドのドアを開けようとしたアランが振り返り言った。ルイスは無意識のうちにアランの服の袖を掴んでいた。言われてそれに気が付き、慌てて手を離した。


「よし、今度こそ入るぞ」


 ギギギと擦れる音がして冒険者ギルドのドアが開いた。そしてアランとルイスは様子をうかがいながら中に入った。


「へぇ。ここが冒険者ギルドか。酒場なのかな? 飲食スペースもあるね。えっと、こっちが側が受付かな?」


 ルイスは中の様子を見ながら言った。飲食スペースには数人の冒険者が飲食をしていた。1人で黙々と食べている者、数人のグループで話をしながら食べている者。中には昼間からお酒を飲んでいる者までいた。


「おい、ルイス。まずは受付で話を聞いてみようぜ」

「ああ」


 アランとルイスは冒険者登録のやり方がわからないので、受付で聞いてみることにした。


「すみませ~ん」

「はい、いらっしゃい。今日はどのような御用かしら?」

「あの、僕たち冒険者登録をしたいのですが」


 受付のカウンターは3か所あったが2か所は使用されておらず、1か所だけ職員が座っていた。その職員にルイスが声を掛けた。


「新規の登録ね。もしかして学生さんかしら?」

「「はい」」


 受付のお姉さんの質問にルイスとアランはそう答えた。


「登録をするのは問題ないのだけれど、学費や生活費を安易に稼げると思ってないわよね?」

「「ギクッ」」

「あら、その様子だと図星ね。念のため言っておくけれど、冒険者という職業は常に危険と隣り合わせなの。それを覚悟しているのなら登録の手続きをするわ。どうかしら?」


 受付のお姉さんは身振り手振りを交えて真剣な表情で説明をした。


「ゴクン。すごい。動く度にポヨンポヨンって。あいたたた。ルイス、いきなりつねるな」

「真面目な話をしているときに、そんなところを見ているんじゃありません」


 真面目な話をしているのに、アランの視線は受付のお姉さんの胸元に行っていた。やや露出度が高い服装のため、谷間もハッキリと見える上に動くたびにプルンプルンと動いていた。その動く物体に目がくぎ付けになっていたようだ。


(くっ、何か悔しい気がする)


 ルイスは少々モヤモヤした気持ちになり、アランの手をつねっていた。


「・・・えっと2人とも真面目に聞いている? それでも登録する?」

「はい、はい。します。します」


 アランは受付のお姉さんと仲良くなりたいのか、即答で返事をした。


「あなたはどうかしら? まあ、人によっては身分証明にもなるから登録証だけ欲しいって言う場合もあるから、取りあえず登録だけって言うのもアリだけど、もし、お金を稼ぐ手段として依頼を受ける気があるのなら、それ相応の覚悟が必要よ」

「わかりました。ではお願いします」


 ルイスは現段階で依頼を受けるかはわからないが、取りあえず登録だけすることにした。


「では2人とも、この用紙に名前と住んでいるところ、それに必要事項を記入して頂戴」

「「わかりました」」


 冒険者登録用の用紙を渡され、ルイスとアランは必要事項に記入をした。


「えっと、アラン君とルイス君ね。それじゃ登録料として1人5000G頂くわね」

「えっ、そんなにするの?」


 登録料を聞いたアランの顔が青ざめていた。


「はい、5000G」


 ルイスは財布から5000Gを取り出して支払った。


「ルイス、一生のお願い。お金貸して」

「・・・仕方ないな。後で返してよ」


 ルイスは仕方なく、アランに足りないお金を貸した。


「はい。確かにお預かりしました。ただいま登録証を用意するのでしばらく待っていてくださいね」


 そう言って受付のお姉さんは席を立ち、奥の机で作業を始めた。



「お待たせしました。ではアラン君の登録証ね。それとルイス君の登録証。なくすと再発行に手数料がかかるから気をつけてね。ようこそ冒険者ギルドへ!」


 アランとルイスは受付のお姉さんから冒険者ギルドの登録証を受け取った。


「それでは簡単に説明するわね。まず始めに冒険者ギルドに登録するとEランクから始まるの。それから実績を積んでいくとD、C、B、Aと上がっていくわ。依頼を受ける場合は、あそこの壁に紙がいっぱい貼ってあるでしょ? その紙を剥がしてここの受付に出して頂戴。あと、剥がすときに気をつけていただきたいのが、受けられるランクが指定してある依頼があるの。基本的にそこに書かれているランクより下の冒険者は受けられない決まりになっているの。でもね例外があって、冒険者同士でパーティーというものを組むと、メンバーの中で最もランクが高い人に合わせたものが受けられるの。その場合、下のランクの人は相当苦労することになるから十分注意が必要よ。下手をすると自分の命が危険にさらされるわ」


 受付のお姉さんは冒険者ギルドのシステムの説明を始めた。


「依頼を達成した場合は、その証拠となるものを受付に提出すると、依頼完了となってお金が支払われるわ。後、期日までに依頼を達成できなかった場合、依頼を何らかの理由で遂行ができなくなった場合は失敗扱いとなり、違約金が発生したり、冒険者ランクが降格になったりするペナルティが課せられる場合もあるから気をつけて。あっ、そうそうパーティーを組む場合は、受付で申請手続きをしておいた方が良いわ。お互いの話し合いでパーティを組んでもいいのだけれど、分配で揉めたときはギルドとして介入しないから、よほど信頼した相手と組まない限り、申請をするのをお勧めするわ」


 続いて依頼の達成や金銭に関する説明があった。


「あと、未成年の君たちには余り関係ないかもしれないけれど、隣にはお酒の提供を行っている飲食店が併設されているわ。登録証をみせると割引になるけど、食事をするだけなら構わないけど、お酒は絶対に飲んじゃダメよ」


 受付のお姉さんに念を押されてしまった。金額がどれくらいの設定なのか、あとで確認する必要があるが、割引が効くのなら使えるかもしれないとルイスは思った。


「説明は以上ね。では、今回の件はミアが担当いたしました。また御用の際にはお声かけください」


 ミアと名乗った女性はペコリと頭を下げた。


「せっかくだし、どんな依頼があるか見ていこうぜ」

「まあ見るだけなら」


 アランに言われるがままルイスは、依頼の書かれた紙が貼り出されている掲示板を見に行くことにした。

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