第13話 授業開始(その1)
「さあ、今日から通常の授業を始めるザマス」
翌朝、学園に登校したルイス達は朝のホームルームを受けている。この時間で今日の連絡事項などが伝えられる。時間割については前日に知らされているので、それに沿ったような形で行われる。午前中はホームルームのあとに1時限と2時限の授業があり、昼食を含む昼休憩があり、午後は3時限と4時限の授業が行われ、それが終わるとホームルームがあり、その日の学園生活が終わる。各授業は90分程度あり、比較的長めの時間設定となっている。
「では休憩のあと1時限目を始めるザマス」
朝のホームルームが終わり、そう言って担任のシルビアは教卓の横にある教員席に腰掛けた。どうやら授業が始まるまでこの場所に留まるようだ。監視されているように感じ、皆雑談などもせず静かに授業を始まるのを待つしかなかった。
(いよいよ授業か。楽しみだなぁ)
学園での授業はどのようなものなのか興味があるルイスは、早く授業が始まらないかと楽しみに待っていた。
カランカラン♪
そして休憩時間が終わると鐘の音が聞こえた。どうやらこの音が授業開始の合図らしい。
「では、商科の授業を始めるザマス。まずは皆さんには簡単な文字を覚えて貰うザマス」
そう言って黒板に、あ、い、う、え、お、に相当する文字を書いた。
(え? もしかしてここから始めるの?)
ルイスは驚いていた。これは文字の勉強を始めるときに1番初めにする内容だ。既に幼少期の時点でこの辺りの勉強を済ませているルイスにとって、今更勉強する必要もない基本中の基本と言える内容であった。
(えっと、みんなどんな感じで授業を受けているのかな?)
ルイスは、他のクラスメイト達がどのように授業を受けているのか、気になり周囲を見渡した。真剣に話を聞いている者、勉強を面倒くさそうにしている者、既に文字の学習を終えている者は暇そうにしていた。ルイスの席は教卓前の最前列である。当然キョロキョロと周りを見ると先生から丸見えであった。
「何をキョロキョロ周りを見ているザマス。授業をしっかり聞いていたかテストするザマス」
そう言ってシルビアは黒板に書かれていた文字を全て消した。
「さあルイス君、私が書いた5つの文字を黒板に書いてみなさい」
「はい」
シルビアに言われて、ルイスは黒板前に移動した。そしてスラスラと指定された5つの文字を黒板に書いて見せた。
「正解ザマス。あなた、文字を既に取得しているザマスね。では、次の行も書いてみるザマス」
「はい」
ルイスは先ほど5つ書いた文字の隣に次の5文字を書いた。
「正解ザマス。もう、戻っていいザマス」
シルビアに戻るように言われたルイスは自分の席に戻った。
(ちょっと、すごく綺麗な字を書くじゃない。消すのが勿体ないわ)
などとシルビアが思っていたのだが、ルイスに悟られてしまうと教師としての威厳が保てないため、なるべくふだんの口調を意識しながら、ルイスを席に戻した。そのあとシルビアはルイスが書いた文字をそのまま使い、授業を進めた。
「はい、では今日教えたところは、しっかりと復習しておくザマス。1限目は終わるザマス」
シルビアがそう言った瞬間、終了を告げる鐘が鳴った。片付けを終えすぐに教室から出て行った。
「ふぁああああぁ。ルイスも災難だったな。俺も文字は事前に習っていた口だから、退屈で仕方なかったよ。あっ、そうそう、ザマス先生がずっと教室にいたから行けなかったから、連れション行こうぜ」
1限目の授業が終わり、アランがルイスに話しかけてきた。
(つっ、連れション。良い響きの言葉だなぁ)
連れションとは、男同士で一緒にトイレに行って用を足す行為である。幼いときに拾った薄い本にもそのようなシチュエーションがあり、憧れていた行動である。
「行く、行く」
普段は低い声を心がけていたルイスであったが、嬉しさの余り思わず声のトーンが上がってしまった。その声を聞いたクラスメイト達はなぜか顔を赤くしていた。
「おっ、おい、急に変な声で言ったら驚くだろ?」
アランも顔を真っ赤にしていた。そして照れた口調でルイスに言った。
「驚くって何に驚くんだい?」
「そうだよな。俺何に驚いたんだろう」
ルイスの問いにアランは冷静になり、答えることはできなかった。周りのクラスメイト達も同様で不思議そうな顔をしていた。興味がなくなったのか、それぞれ思い思いに休憩に入った。そしてルイスとアランは連れだってトイレに向かった。
(男子校だからそうなるよね)
男子校なので当然のことながら学生用トイレは男性用しか存在しない。
「うわぁ混んでるな」
「本当だ」
同じように我慢していたクラスメイト達が既に複数ある小便器の前に並んでいた。アランはその最後尾に並んだが、当然のことながらルイスは同じように並ぶことができない。
「僕、こっちだから」
「ルイス、そっちを我慢していたのか。そりゃ辛かっただろ。今は空いているから使われる前に早く入ると良いぞ」
ルイスは個室を指差しアランに言った。すると彼は別の意味で察したようであった。
(ふ~っ、スッキリ)
ルイスは用事を終えて個室から出た。
「ルイス、随分早かったんだな。相当我慢していたんだな」
「そっ、そうだね」
ルイスが出るのを待っていたアランが声を掛けてきた。ルイスが大きい方を相当我慢していたと勘違いしているようで、彼は心配した様子であった。
「大丈夫だから、教室に戻ろう」
「そうだな。もうすぐ2時限目だからな。戻ろうぜ」
ルイスとアランはトイレに別れを告げて、自分達の教室に戻った。
カランカラン♪
休憩時間が終わり、2時限目の授業が始まった。
「では工科の授業を始める。わしゃ、工科担当のジョージと言うもんだ。よろしく頼むぞい」
程なくして教室のドアが開けられ、白髪交じりの年配の男性教師が入ってきた。そして簡単な自己紹介をした後、授業に入った。
「工科は建築や土木といった街作りに必要な知識を学ぶ教科じゃ。今回は建築について話をしよう。建築とは・・・」
(なるほど、へぇ~、そうなのか)
商科の授業とは異なり、最初の授業ということもあり、建築に必要な材料、工具など基本的な説明であったが、ルイスは初めて聞く内容で、とても興味深く話を聞いていた。
カランカラン♪
「ふぉっふぉっふぉ。もう時間のようじゃな。では終わりにするかのう」
2時限目の終了を告げる鐘が鳴ったのを聞いたジョージはパタンと教本を閉じて授業を終わった。そして緩やかな足取りで教室から出て行った。
(さて昼休憩だけど、昼食はどうしよう)
昼休憩になったのだが、寮では朝晩の食事は用意されるが、昼は用意されず、学園でも給食はなく、各自で用意しなければならない。
「ルイス、昼ご飯どうする?」
「うーん、確か校内には学食か購買があったね。どっちにする?」
事前の説明では校内には昼食のみを提供する学生食堂、通称学食と呼ばれる飲食店と、文房具など学園生活で必要な物を販売する購買と呼ばれる小さな店があり、そこではパンと飲み物といった簡単な飲食物も取り扱っている。校内で完結させようと思うと、これに食料を持参するという手もある。基本的にこの3択となる。ルイスとアランは事前に食料を用意していないので、消去法で行けば学食か購買のどちらかを利用することとなる。
「昨日稼いだことだし、あの店に行かないか?」
「あの店というとヤオイオアシス?」
「よく店の名前覚えてたな。さてはルイスもあの店気に入ったんだな」
懐事情が僅かだが改善したアランは、昨日行ったメイド喫茶に行きたいようだ。昼休憩は比較的長めの時間設定になっていて、校外で食べてはいけないという決まりもないので、食べに出ること自体は問題ない。飲食店が並ぶところまで、学園から余り距離も離れていないので、店に滞在する時間だけ注意すれば往復も可能であった。
「よし、そうと決まれば時間が勿体ない。急いでいくぞ」
「おい、まだ誰も行くなんて言って・・・手を引っ張るなぁ」
アランに手を引かれ、半ば強引にルイスは学園から連れ出されてしまった。
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