第7話 与羽 in 組事務所
「…ちょっと
「ちょっくら友達んとこに…」
「友達…?」
呼び止める栞里さんを残し、私は外に出た。
竜二さんの家の正面玄関は反対側にあり、アパートと隣の家の間にある隙間が近道らしいのでそこを横歩き気味に通る。
途中、ダイニングキッチンの窓を開けてきた栞里さんに「そこから先、怖い人が住んでるよ!」と警告されたが「承知の上です」と返して、室外機などを避けながら進んだ。
中盤あたりで、左側から生垣が…竜二さんの家の生垣が見えてきた。ここを出て左に行けば、正面玄関が見えるだろう…
立派な家の玄関は、なんともイカつい面構えだった。扉に手をかけ少し横に引いた。鍵がかかっていないとは、なんと無用心な…
今の私に「迷い」の2文字はない。思いきり扉を開けて、叫んだ。
「たのもー!!」
3人の家主は玄関へと駆けつけた。
「なんだお前は!」
「名を名乗れ!」
「地獄に落ちな!」
「もう落ちてるよ」
それぞれが怒鳴りつけてくるが、怖くはなかったのでついツッコんでしまった。
「…この声はもしやとは思ったが、与羽じゃねぇか。なんでこんなとこにいるんだ?」
3人に続いて、少し遅れて竜二さんも部屋から顔を出した。
「遊びに来たのだ。おもてなしは地味なもので構わない。私はただ、『とらや』の羊羹をつまみながら、
「どこが地味なんだよ!」
「そこまで景気よくねぇわ!」
「”やめてホントにろくろ首” ってなんだ!」
「与羽よ…お前はハリウッドセレブか…」
分かりやすくジェスチャーで羊羹とお茶を表現したのに、竜二さんにまでツッコまれてしまった。3人目はやはりトンチンカンだ。
「というかですね? この家から怒鳴り声が聞こえてきたんですわ…もしやウチの竜二をいじめてるんじゃあ…ないでしょうねぇ?」
ひとまず腕組みをして挑発してみる。
「ウチの竜二…お前、竜二のなんなんだよ」
3人の中で一番大柄(というより太り気味)で、いつも最初にツッコミを入れるリーダー的な男がすごんだ。
「生前からの深ぁい仲だよ…」
「いや、きのう知り合ったばかりだ」
間髪入れずにぶった切られてしまった。
「お前なにしに来たんだよ。用がねぇならさっさと帰れよ!」
リーダーはそう言った。
「そういうわけにはいかないんだ、これが。あんたらカタギじゃないでしょう。確かに彼との付き合いは短いかもしれねぇ…だが、共に語らったひと時は半端なものじゃねぇんだ! だから
ガニ股で右手を差し出し、いわゆる「お控えなすって」のポーズをした。
「…心配しなくていいさ。お嬢ちゃんの肝が据わってるっつうことはよく分かったし、そもそもここは地獄だから、暴力を振るったりしちゃあ面倒なことになるんだ」
リーダーは苦笑いしつつも優しい口調でそう言った。
「それはよかったです。ヤの付く人とはいえ、罰があたるのは怖いんですね!」
場を和ませるつもりで笑いながら言った。
「…当たり前だ」
「悪いことはできねぇよ」
「今晩泊まっていきなよ!」
「遠慮しておきます」
なんだかんだありつつも、しばらくこの家でくつろいだのち、お
「お騒がせしました。家も近いですし、これから仲良くしてくれると嬉しいです」
「歓迎するぜ。…ところでお嬢ちゃん」
「はい?」
「『お控えなすって』のポーズしてたけど、あれは挨拶をする前にするやつだからな?」
リーダーはそう教えてくれた。
「そうなんですか!? 勉強になります。…じゃあ、私はこれで。…バイバイ竜ちゃん!」
「おーい。竜ちゃんって呼ぶなー」
羊羹もお茶も、安物ではあったが美味しかったぞ。3兄弟よ…
★ ★ ★
「いやぁ、最初はどうなることかと思ったけど、なんとか終わったな!」
ラミーは机に突っ伏しながら言う。
「ああ…けどさ、朝にチャリアス様がなんか言ってなかったか? 俺らになんたら法案のアレコレを任せる! …とかなんとか…」
「…まぁ、そんときはそんときだろ! 今はとりあえず、重圧から解放された気分に浸ってゆっくりしようぜ!」
ガチャッ…
「ラミーくんとガルシアくんいるー?」
嫌な予感っつうのは的中するもんなんだな。チャリアス様が、休憩所のドアを思いっきり開けてきた。
「はいっ! おりますっ!」
とっさに出たラミーの声は裏返っている。
「いきなりの大役を任されて疲れてるだろうけど、ここで2人に大事なお知らせがある」
チャリアス様は人差し指を立てながら言う。
大事なお知らせ…?
「…と、言いますと?」
「明日から2人には、Dブロックで監視をおこなってほしいんだ!」
「…え?」
「…え?」
またハモった。Dブロックだと?
「労働をサボってたり、倫理に欠ける獄人がいたら点数つけてって! 2人には午前と午後に分かれて動いてもらうからね」
Dブロックというと…悪人ヅラと生意気小娘がいるブロックじゃねぇか!
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