神都イリスティア
剣と魔法のファンタジーRPGである『ブレイブソウルファンタジー』は主に5つの勢力がぶつかり合い、協力し合い、紡いでいく物語である。
この世界の人口と土地の半分以上を占め、主に普人種と呼ばれる、魔法などの様々な技術を利用する人種が中核となり構成されるクラウン王国。
獣人や森人や竜族など普人種とは違う特徴を持ち、普人種からは一纏めにして亜人種と呼ばれる者たちから構成される、多くの部族や集落などが集まって出来たトリエスタ連合国。
他の二国と比べて土地こそは非常に小さいものの、この世界の最高神を主神とする国教を掲げ、その影響力は計り知れない、神族と呼ばれる神の末裔を頂点に置くラキス聖国。
この世界を纏め上げている大きな括りの国家陣営が3つの他、商人などの中立陣営や、貧民街を中心とする暗黒街陣営の、国家に属さない陣営の2つ。この5つの陣営を対象に、主人公がどの勢力にどの程度肩入れをするかによってストーリーの大筋が決まり、そこからサブストーリーなどをこなしていくことで、そのストーリーに関連した様々な変化が魅力となっている。なっていた。
そしてここ『神都イリスティア』はブレイブソウルファンタジーの主要な舞台となる場所であり、主人公の始まりの地でもあり、ステラ達が住んでいる都市でもある。
この世界の最高神であるイリスの名を冠しているこの土地は様々な種族から神聖視されており、また、それぞれの国家の中心にある土地ということもあり、過去にはこの土地の奪い合いが勃発し、大きな戦争にまで発展したことがある。その時代であれば、ここを制した国こそが、世界を統べる権利があるのだと信じられていた。
しかし、それも今となっては昔の話。
決着が付かないまま膠着状態が続き、痛み分けと終わった戦争の後。それぞれの疲弊しきった国家が、建て直しの為にあくせくしている所、国という立場に囚われないはみ出し者達がその地に集まった。彼らは生まれも種族も関係なく、争うことにしか目が行かない自国に嫌気が差し、国を捨てた異端者たちだった。
そんな彼らが尽力し、ただの集まりでしかなかった集落が都市と言われるまで発展を遂げたのがここ、神都イリスティアだ。
来るものの種族を問われることのないここは、完全中立都市としての立場を確立しており、王国、聖国、連合国に挟まれながらも、それらの軋轢を緩和し共和の道を促す役割を持っている。その努力は着実に実っており、武力ではなく調和を選択肢に入れた各国が神都の外周にそれぞれ主要拠点を築き上げ、対話を重ねていくうちにいつからがそこが、まるで首都のように大きな都市としての役割を持ち始めた。西に王国。北に聖国。東に連合国。そして、南には貧民街。今ではそれらすべてを含めての神都イリスティアと呼ばれることすらある。
そういったこともあり、本来の神都の外周部に近づく程、それぞれの国の文化や特色が強く現れるようになり、逆に中心部に近づくほど、それらが合わさった新しい文化や技術が多くみられるようになる。
新しい文化や技術は当然、商業面から見ても魅力的に映るものであり、それを取り扱おうと様々な商人達が集まり続け好循環を続けている。商人であるステラの父親もその例に漏れず、大きな波に乗った張本人でもあり、成功した結果が現在の地位でもある。
そんな神都の中心部は現在、それぞれの国家交流の為の施設が多く存在する。特に将来有望な、国を背負っていくだろう若者たちの交流は必要不可欠なものと捉えられており、ゲームのストーリーの目玉でもある学園生活もその一環から来るものだ。
様々な種族。様々な思想。
それぞれの思惑が絡み合い複雑化しているものの、今の世界情勢は一昔と比べれば比較的安泰していると言えるだろう。
その平和が続くのは今の内だと知る者は、この世界にはごく少数しか存在しないが。
神都イリスティアの西部にある商店街。王国側に位置するがゆえに、魔道具や魔法技術など、普人種の得意とする王国の文化などが色濃く表れているそこに、ステラ達マリーゴールド家の邸宅はある。
王国貴族という肩書きを持っているので勘違いをされやすいのだが、マリーゴールド家は王国民ではなく、神都イリスティアに所属する中立的な立場を持つ市民だ。あくまで王国を懇意にしている商家というだけであり、貴族としての肩書も、王国への貢献を称された名誉職のようなものであるので、面倒な義務や責務といったものとは無縁である。
とはいえ王国を贔屓にしている事は間違いなく、主な取引相手も王国に根付いてる者が多い為、他の者たちからは王国側の人間として見られている。商人という立場上どこかの太いパイプを懇意にするのは当然の事であり、貴族という肩書は王国内に販路を伸ばすのに非常に都合が良い物ではあったのだが、反面、生命線の一つを王国に握られる事にも繋がっている。
ステラの父であるカールは、商人を囲い込む王国の策略にまんまと嵌ったとも言える。
(だからこそ、まずはそこも改善していかないと・・・)
この先何が起こるかを知っているステラは、凄惨な未来を回避する為の術を模索していた。
現在彼女は妹のリリーと共に商店街を練り歩き、父親の職業である商売の勉強、という名目で、簡単なおつかいに出掛けている。
紙に書かれたいくつかの購入リストとそれを買う為のお金の入った革袋。それを使って如何に安く買うかを試されており、残った分は自分達のお小遣いとして、自由に使ってよいと教えられている。
食材、日用品、魔道具、薬。多種多様な物がリストが書かれており、一つのお店では確実に揃えきることは出来ないようになっている。
何処で売っているのかを理解し、相場を比べて何処で買うのかを考える。そういった勉強を兼ねてのおつかいだという事は理解できる。
しかしながら、だ。
(お父さんもお母さんも甘すぎるわよ。こんなに渡されたって、下手な買い物しないとどうしたって余るじゃない・・・)
ステラは腰に下げていた革袋を覗き込み、様々な形や材質のメダルのようなものを確認する。前世のものとは違う質感や重さのそれはこの世界のお金であり、当然ながらこの世界でも非常に大事な物である。
ひし形の銭貨。五角の銅貨。六角の銀貨。
正確な数は確認していないが、それぞれ数枚ずつ袋の中に入っているのは見えた。金貨や聖貨といった高額な取引に使う貨幣こそないものの、おつかいと称して持たせるには、あまりにも常識から外れていると言えよう。
これらは勉強の意図も兼ねてはいるのだろうが、渡されたお金は購入リストの物を考えなしに買ってもお釣りが余るだろうと予想出来る程であり、どちらかといえば、彼女達が遊ぶためのお金を渡したとも言える。
(子供にこんなにも持たせるなんて、私の家は裕福なのね。でも、無駄遣いはしないようにしないと)
前世では貧乏生活を送り、苦労だってしていた。いくら余裕があるとはいえ雑に使うのは躊躇われるため、ちゃんと大事に使おうとステラは決意する。
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