第2話 出会いとドロップ缶
彼女の第一印象は、寡黙な人。
それでいて他人に一切の興味もない、冷たく思われてしまう人というのを行動の端々から感じた。
それは付き合っても変わらなかった。
感情の色もカタチも、見えづらくて解らないから。いつも何を考えているとか、どうしてそんなにコーヒーが好きなのかとか、俺は何も知らなかった。
だから一度だけ、どうしてドロップ缶のアメにこだわるのかと聞かれたときは驚いた。
だけど俺は嘘をついた。
「ちっちゃい頃から好きなんだ」
その回答だけで彼女は満足したのか、あとは何も聞いてこなかった。
本当はその頃にドロップ缶のアメを食べたことなんてなかった。
どうしてそんな嘘をついたのか、自分でもわからないが、多分、知られたくなかっただけなのだろうと思う。
「…泣いてるの?」
そう言って、小3のときに転校してきた女子から、泣いていた自分にドロップ缶を差し出してくれたことを。
「ありがと…」
あのときあの子がくれたハッカ味のアメは、多分今まで食べたものの中で一番まずかった。まずすぎて何に泣いていたのか忘れたほどだ。
今度は違う意味で泣いた俺を、あの子は必死に慰めてくれた。
それから俺たちはそれ以上関わることもなく、あの子は小4の秋に転校していった。
俺はその時、後悔するということを知った。
あの子と、遊んでみたかった。もっと話してみたかった。どんな遊びが好きだとか、何が嫌いとか、彼女を知ってみたかった。
でも、それはもう叶わない。あの子は俺の全然知らないところへ行ってしまった。
今どこで何をしているのか、俺のことを覚えているのかすらもわからない子のことを、確かめる術を俺は知らない。
だから、もしももう一度会えたのなら、その時は時間を埋めるように話をしたい。
ドロップ缶のアメを食べながら、いつもそんなことを思っている俺を、彼女が知ったらどう思うだろうか。
酷いと言うのだろうか、寂しいと思うのだろうか。
それとも、ただ話を聞いた後にコーヒーを飲みながら「また会えたらいいね」なんて言葉を表情1つ変えずに言うのだろうか。
俺が君と付き合っている理由が、忘れられなかったあの子と似ているからだと知ったら。
彼女はもう、微笑みかけてもくれなくなるかも知れない。
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