第12話ー宝石の名前

 ガーネット。

 それが、リクに授けられた地位であり、新しい名であった。これからは「ガーネット」と名乗れ、とお達しがあったことに対し、反発をおぼえなくはなかったけれど、なにしろ突然すぎて意義を唱えられなかった、というのが正直なところだ。

 その地位と名を授かったのと同時に、宿を引き払わされ、部屋を用意された。おそらくは、軍本部の敷地内の。おそらく、というのは、その部屋へは迷路のような通路をいくつも歩かされたのちに辿り着いたからで、要するに、帝都にも軍本部にも詳しくないリクには正確な位置がつかめていないのである。

「……で?」

 リクはため息交じりに低く声を出した。

「俺たちはこれから何をさせられるんだ?」

 大会が終了してから、すでに三日が経過していた。その間、行動範囲に制限がある以外は特に何の指示もない。

「さてなあ」

 ガイが余裕そうにしているのを、リクは軽く睨みつけた。ちなみに、ガイに与えられた地位と名はオニキスである。

「どうしてそう呑気なんだよ、お前は」

「まあそう焦ることもないだろ? そうそう、あの栗色の髪の女の子だけどさ」

「ああ、お前が負けた女?」

「その言い方やめろよー」

 口を尖らせはするものの特に気を悪くしたふうもなくガイは笑う。リクはガイのそういうところが少し羨ましくもあった。

「で、その女がどうしたんだよ?」

「ああ、あの女の子、ハンナって名前なんだってさ」

「へー」

 栗色の髪の女……、ガイがいうところのハンナは、軍本部の北門で武人大会の受付をしていた女である。そのことからも帝国や軍とのかかわりがある者であろうと予想はついていたし、実際、大会後にリクたちの地位と名を通達したのも彼女であった。宿を引き払わせ、この部屋へ案内したのもそうだ。女の子、とガイは言ったが、年齢はおそらくガイよりも上のはずだ。

「なんだよ、反応が薄いなあ。もうひとつ、わかったのがさ、ハンナはジークの妹らしいぞ」

「え、そうなの?」

 リクは目を丸くしつつ、大会の際に対峙したジークの姿を思い出し、妙に納得する部分もあった。そう言われてみれば、あのふたりはなんとなく似ているような気がしたのだ。

「そのジークを大会で手こずらせた少女が、ネイ。もとは旅芸人だったらしい」

 ジークがリクと対戦する前の相手のことであろう。七名に絞られた参加者の中に少女と呼んで差し支えのない年頃の者がいたことを思い出し、リクはふーん、と頷いた。

「ずいぶんと詳しくなったな?」

「いろいろ情報収集してたんだよ。お前がチョウ・ホウタツとばっかり遊んでる間にさ」

「遊んでねえよ」

 リクは眉を寄せた。暇にまかせてホウタツと手合わせしていたのは事実だが、それを遊びと取られてはかなわない。ホウタツは確実にリクよりもすぐれた剣の使い手だ。手合わせをすることで学びとれることは多い。

「俺たちは戦闘技術を買われてここにいるわけなんだから、腕を磨くのは当然だろ」

「まあな。真面目だな、リクは」

 どこか微笑ましそうにガイが言うのに対し、リクがむっとして言い返そうとしたとき。部屋のドアがノックされた。

「失礼するぞー」

 やってきたのは、ジークだった。彼がハンナの兄であると知ったことで、栗色の髪と温和な笑顔がなんとなく以前より違ったものに見えてくるから不思議だ。

「ふたりとも、ちょっと出てきてくれないか?」

「いいけど……、何か用?」

 リクが小首を傾げると、ジークは笑顔を意味ありげなものに変えた。

「お待たせしました、ってとこかなー」

「は?」

「君らの……、いや、俺たちの役割についてご説明がある」

 役割。それはつまり、リクに授けられたガーネットという地位と名の意味が分かるということであろう。ジークはたしか、サファイアだったはずだ。

「ご説明がある、ね……。一体どこの誰からご説明があるんだ?」

 ガイが口元をニヤリと歪めながら尋ねた。ジークもまたニヤリとして見せる。

「エリザベータ皇女殿下さ」

 皇女殿下、という言葉に、リクは反射的に息を飲んでいた。

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