第11話ー結果
はじめ、の合図が出ても、リクは動かなかった。いや、動けなかった。どう動いていいのかわからなくなるような感覚を、リクはずいぶんと久しぶりに味わった。
「っは……。こういうときって、大抵いい結果にならないんだけどさー」
リクは笑いながら呟いた。口に出して言ったことで、少し、いつもの調子を取り戻した。
「大抵、がひっくり返ることもあるかもしれないよねっ、と!」
ひょう、と鋭く振るわれたホウタツの剣を、リクはすんでのところで受け止めた。
「おしゃべりなんだな」
ホウタツが低く言った。愛想のない調子だったが、その声は少し面白がっているようにも聞こえた。
「いや、無口な方だよ、普段はね」
「そうか」
ギリギリと剣を交差させて、リクとホウタツは強いまなざしを合わせた。右にも左にも、容易には動けなかった。それはリクばかりでなく、ホウタツの方も同じだった。しばらくの睨みあいののち、交差していた剣を離すと、ふたりとも同時に大きく飛びのいて距離を取った。そこから次の行動に移るのは、ホウタツの方が一瞬、速かった。速かったのに、リクにはゆったりとした動きに見えた。まずい、と瞬時にわかった。瞬時にわかったのに、間に合わなかった。
ダンッ、と鈍い音がした。
「かっ、は……」
ホウタツの右足が、リクの腹を思い切り蹴ったのだ。リクは咄嗟に身をかわそうとしたがかなわず、大きく吹っ飛んだ。なんとか急所を避けることだけは、できた。
げふげふと咳き込んで地に伏したリクの頭の上で、そこまで、という声がして、おおお、と周囲のどよめきが聞こえてきた。
「手を貸すか?」
リクがよろよろと身を起こすと、ホウタツがすぐそばに立ち、見下ろしていた。その顔に勝者の喜びはかけらも浮かんでいなかった。
「ご親切にどーも」
ひらひら手を振り、リクはホウタツの申し出を断った。ホウタツがわずかに微笑んだように見えた。
「いい防御だった。強いな、お前」
「……それ、勝った方が言うか?」
リクは呆れ声を出して立ち上がった。
「申し遅れた。チョウ・ホウタツだ」
「知ってる。なんか、有名人なんだって? あ、俺はリク」
今頃になって名乗りあっている自分たちのことがおかしくなって、リクは笑った。負けたことに対する悔しさよりも、ホウタツへの興味の方が大きかった。
武人大会は、チョウ・ホウタツの優勝で幕を閉じた。参加者には全員に、わずかなりとも金銭が支払われたらしく、穏やかに解散になった。上位、七名以外は。
「さーて、ここからどうなるかな」
いつの間にかガイがリクの隣に来ていて、ニヤリと笑った。順位決定戦の結果、七名の中には残ったらしい。七名の中には、ジークもいたし、リクと第三回戦で当たったルカもいた。あとは女がふたりで、そのうちひとりはガイが負けた栗色の髪の女だった。もうひとりは驚くほどに若かった。少女と呼んで差し支えない年頃に見える。
「どうなるか、ねえ」
リクは武人大会のあとのことを何も考えていなかった。ただ、なんとなく、この七名は残るべくして残ったのではないかという気が、していた。
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