第8話ー栗色の髪の男と、女

 リクとガイは、第二回戦もなんなく勝ち進んだ。勝ち残る参加者は、一回終わるごとに半分ずつ減ってゆくわけで、第二回戦を終えた時点で八名となっていた。リクからも、この八名はいずれもそれなりの使い手に見え、ふるいにかけられた結果、本当に実力を持った者だけが残ったという印象であった。

「八人、かー。じゃ、あとひとり落ちるって感じか」

 のんびりと呟く声が聞こえ、リクは顔を上げた。栗色の髪の男が隣にいた。リクに視線を向けられ、少し恥ずかしそうに笑う。

「あ、聞こえたかい? どうやら、約束の褒賞と地位をもらえるのは、上位七人らしいんだ」

「そんなことを、どこで?」

「そのへんで兵隊さんが話してるのが聞こえたのさ。あ、俺はジーク。君、勝ち残ってるよな。初戦を見たよ、大きな男を相手に鮮やかだったなあ」

 ジークと名乗った男は、にこにこと語った。年のころは二十代半ば、だろうか。一見、緊張感がないようでいて、身のこなしには隙がなかった。リクは内心で警戒しつつも、表には出さぬようにつとめた。

「俺はリク。あんたも勝ち残ってるよね。短剣にしては長めの得物を使ってた……、タガー、というんだっけ」

「そうそう。中途半端な長さなんだけど、これが俺にはちょうどよくてね。っていうか、君の剣は変わってるよな、レイピアっぽく見えるが、それともちょっと違うみたいだし……」

「これは……」

 リクが自分の剣に手を添わせながら話だそうとしたとき、番号が呼び出された。

「次! 一番と十五番!」

「はいはーい。一番は俺でーす」

 ジークが声を上げ、手も挙げた。そして、リクの方をちらりと振り返る。

「話の途中だけど、失礼させてもらうな。まあ、またあとで必ず会える。じゃあな、リク」

 立ち去るジークの背を見送ってから、リクはちらりと対戦表に目をやった。ジークの番号・一番の位置を確認し、リクはハハッ、と声に出して笑う。

「必ず会える、ってそういうことか。……そりゃあそうだよな、勝つつもりだよな、どちらも」

 第三回戦、ジークもリクも勝ちを収めれば、お互いが次の対戦相手になる。にわかに高揚感が増してきて、リクの眼が輝いた。深紅の瞳が、鈍く燃えるような色になる。

「まずは、もう一戦勝たないと、な」

 リクの対戦も、そろそろ始まるはずだった。先にガイが対戦していたはずだ、と演習場を見回すと、すでに始まっているらしく歓声が沸き起こっていた。リクも観戦の輪に加わる。

「え?」

 ガイの対戦相手を見て、リクは目を見張った。艶やかな栗色の髪を顎のあたりできれいに切りそろえた、女性だった。その顔に、リクは見覚えがあった。

「北門にいた女……。参加者でもあったのか……」

 三日前に武人大会の参加申し込みをした際、リクたちに名前を尋ねて黄色い紙を渡してきた女だった。参加の受付をした者が出場もできるとはどういう仕組みかと思わなくはないが、それよりも驚くべきは、ガイが、その女相手に苦戦していることだった。

 とにかく動きが速いのである。ガイも決して遅くはないが、体格にこれだけの差があれば身のこなしにも大きく差が開く。つまりは、速さではない部分で相手を凌駕せねばならぬわけなのだが、女はガイの戦い方を見抜いているのか、できるだけ距離を取らせぬように動き回っていた。

「ガイ……、これは……、負けるぞ」

 リクが思わずそう呟いたとき、女が下段から短剣を突き上げた。その短剣はガイの鼻先をかすめるようにして額に突きつけられ、そこまでっ、という声が響いた。

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