巫女はいない
ツヨシ
第1話
車で走っていた。
特に行先も決めず、気の向くままに。
そして山のふもとにさしかかった時、鳥居を見つけた。
――こんなところに神社があるんだ。
俺は行ってみることにした。
境内にはいると、一人の若い巫女が境内を竹ぼうきで掃除していた。
二十歳くらいなのだろうか。
かなりの美人だ。
気にはなったが、いきなり神社でナンパというのも気が引ける。
俺は巫女を無視して本堂に行った。
参拝していると、どこからともなく神主が出てきた。
老人と言っていい見た目だ。
「参拝ありがとうございます」
「いえいえ、ところでこの神社は、巫女さんと二人でやっているのですか?」
俺がそう言うと、神主が少し驚いたようだ。
「いえ、ここには巫女はいません。私一人です」
「えっ、さっき会いましたけど」
「どこで?」
俺は神主を巫女のところに連れて行った。
巫女は相変わらず下を向いたまま、境内を掃除している。
「あそこにいますよ。あの人、知らないんですか」
返事がない。
神主を見ると、口をあんぐり開け、驚愕そのものといった顔をしている。
しばらくしてから神主が言った。
「どこに。巫女なんてどこにもいませんが」
あんなにもはっきりと見えるというのに。
神主を見ると、もはや顔は青ざめ、脂汗までかいている。
しかもその目は、しっかりと巫女をとらえているのだ。
――なんなんだこの状況は。
俺は一応言ってみた。
「すぐ目の前にいますよ。巫女服の若い女性が」
「巫女なんてどこにもいませんよ。巫女どころか誰もいないじゃないですか。変なことを言う人だなあ。私は忙しいのでこれで失礼させてもらいます」
神主はそう言うと、逃げるようにどこかへ行ってしまった。
俺は神主の消えた先をしばらく見ていたが、やがて巫女に近づきよく見て見た。
どこからどう見ても生身の人間だ。
妖怪や幽霊の類なんかにはとても見えない。
「どうしました」
俺の視線に気がついた巫女が言った。
「いえ、なんでもないです」
俺はその神社を後にした。
いろいろと気になることはあるが。
神社のその後のことは、俺はなにも知らない。
終
巫女はいない ツヨシ @kunkunkonkon
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