数字と人との関わり
荒川馳夫
マイナス×マイナス=?
僕は入学して間もない中学生だ。今は数学の授業を受けている。
数学の〇〇先生が説明をしているが、どうにも引っかかる部分があった。
「いいか。マイナスにマイナスをかけるとプラスの符号がつくんだ。しっかりおぼえておくんだぞ。テストでは間違えるなよ」
僕が引っかかったのは「マイナスにマイナスをかけたらプラスに変わる」の部分。
「どうして、プラスになるんだろう?」
授業が終わった後も、その部分に関心が注がれてしまっていた。
給食や掃除の時間、部活動中、そして帰宅した後でも僕の頭の片隅では
「マイナス×マイナス=プラス」
の式がモヤモヤしながら存在し続けた。
自分の頭であれこれ考えても答えは出てきそうになかった。
後日、僕は質問のために職員室へ足を運んだ。
僕は最初、他の科目の先生に疑問をぶつけてみた。
他の先生でも答えを知っているだろうと思ったからだ。
僕に返ってきた答えは様々だった。
「教科書にそう書いてあるから」
「昔の偉いひとがそう決めたから」
「私は社会の先生だから詳しい理由は知らない。数学の〇〇先生に聞いてくれ」
どの回答も僕の頭からモヤモヤを取り除くには至らなかった。
その時、〇〇先生が職員室に戻ってきた。早く質問しなくちゃ。
「おう、どうした。何か質問があるのか」
僕は意を決して〇〇先生に質問した。すると、
「なるほど、疑問に感じたから私に質問しにきたんだね。えーと、それは……」
〇〇先生は僕に親切丁寧にその原理を教えてくれた。おかげで、頭の中のモヤモヤはほとんど消え去っていた。
しかし、僕には新たな疑問が生まれていた。
「ありがとうございます。でも、これって数字にしか当てはまらないような気がします」
〇〇先生が興味ありげな顔をして、僕にこう聞いてきた。
「お、それはどういう意味だい?先生に教えてほしいな」
僕はなんとか言葉をつなぎ合わせて回答を試みた。
「人には当てはまらないと思ったんです。僕の友人が同級生に悪口を言ったら、同じ悪口でやり返された。しかも、同じようにではなくてより強い悪口に変わってしまった。僕がそれを止めようとしたら、僕にも悪口が向けられて……。マイナスにマイナスをかけたら、より多くの強いマイナスが生まれてしまったから、数字と人は違うんだなって」
〇〇先生は真剣な表情で僕を見つめていた。そしてこう言ってくれた。
「君は3つの良いことをしてくれた。1つ目は疑問をそのままにしておかなかったこと。2つ目はそれを調べるために、周りに聞いてまわったこと。3つ目は自分からそうできたことだ。誰かに言われたからじゃなくて、自分から分からないことを聞いてまわることは大人でもできないことが多いんだ」
僕は驚いた。疑問に思ったり、調べることをしない大人がいるとは思っていなかったからだ。
「ああ、それとね……」〇〇先生が最後にこう告げた。
「人の世界だとマイナスとマイナスがかけ合わさると、より強いマイナスが生まれるだけでなく、それが周りに悪影響を与える結果になることは多い。だけど、強いマイナスは少しのプラスが加わることで打ち消すこともできるんだよ。君が悪口を止めさせたいと考えたのは決してムダなことじゃない。君は立派だよ」
〇〇先生は問題解決のために、周りの先生に働きかけると約束してくれた。
僕の中の〇〇先生のイメージは様変わりした。そして、こう願った。
「僕は〇〇先生のような大人になりたい。いや、なるんだ」
数字と人との関わり 荒川馳夫 @arakawa_haseo111
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます