第16話女子会1
短い冬が過ぎて、春の暖かさが戻ってきたある日、トワ郊外の道を、賑やかな一団が歩いていた。
かたわらには大型犬ほどの大きさになっている八穂の相棒猫のリクと、小鳥の大きさに縮んで、リクの頭に止まっている、
一行は始終楽しそうにおしゃべりを続けながら、春の景色を楽しんでいた。
道端には白つめ草に似た白い花が咲いていて、どこからかチュンチュン小鳥の声も聞こえていた。
普通、大鷲のイツがいると、鳥は身を潜めていることが多いのだが、今日のイツは警戒をゆるめているせいか、周辺の小鳥も安心しているようだった。
「ほら、あそこ」
ミーニャが指さした先には、ピンクに染まった畑が広がっていた。
「うわあ、見事ね。きれい」
八穂が声を上げると、他の二人も立ち止まった。
「ここは、駆け出しの頃、よく農作業の手伝いに来てたのよ」
ミーニャが懐かしそうに言った。
「ミーニャが農作業?」
八穂が首をかしげると、ミーニャは笑った。
「故郷のソール村から出て来たばかりの頃は、なんでもやったわ。それに、ソール村は農村だからね。畑仕事は馴れてたし」
「そうなのね」
「そう言えば、ロッシ農場の依頼、よく受けてたわね」
思い出したらしいミュレが言った。
「そうなのよ、ミュレ。結構割の良い仕事だったからね。帰りに野菜をもらったりして、助かってた」
「それで、ここを使わせてもらえたんだね」
「そうよ、ヤホ。レンゲの花が咲いてるこの時期、ピクニックにいいなと思って。ロッシさんに聞いてみたら、快く許可してくれたからね」
「あのピンクはレンゲなのね、きれいだわ。刺繍のモチーフにいいかしら」
リリイが目をきらめかせた。
「レンゲは休耕地に咲かせておくのよ。冬にタネをまくと今頃咲くわね。でも、もう少しすると、土に
ミーニャによると、畑は連続して野菜を育てていると、痩せて栄養分が無くなってきてしまう。そのため、区画を区切って交互に植えて、一部は栄養を蓄えるため休ませておくらしい。
「野菜って、当たり前に食べてたけど、育てるには色々工夫があるのね」
八穂はレンゲ畑の端に着くと、神様ポーチから、ピクニックテーブルを出した。
「あらあ、ヤホこんなの持って来たの?」
ミュレがあきれたように笑った。
「おかしかった? 前に自宅前の屋台で使ってたヤツ」
「いやいや、直接地面に座るとばかり思ってたから、驚いただけ」
「椅子にすわれるなら楽よ、助かる」
リリイも意外に思ったようだったが、ニコニコしながら言った。
「私、ボアのソーセージを持って来たわ」
リリイが油紙に包んだ細長いかたまりをテーブルに置いた。
「ボア? エビルボアのソーセージ?」
「ヤホ、
ミュレが説明してくれた。
リリイの母親が西部地方の出で、スパイスを入れたボアのドライソーセージが名産らしい。
リリイはソーセージを薄くスライスしてお皿に並べ、ネギと細切り人参の甘酢あえを添えた。
「私は、トマトとチーズのサラダを持って来たわ」
ミュレは楽しそうに、バスケットの中から、大きな木のボウルを取り出した。
ボウルには、一口大にカットした真っ赤なトマトと白いチーズと、千切ったバジルが入っていて、ミュレは瓶に入れて持って来たドレッシングを回しかけた。
「あら、い香り。レモンのドレッシングかな」
八穂が言うと、ミュレはうなずいた。
「レモンと玉ねぎと塩とリーブ油。それから蜂蜜がちょっぴり。混ぜるだけだけど、サッパリで美味しいのよ」
ミーニャが出したのは、洋梨のような形の赤紫色の果物だった。
「ごめんね、私は料理はパスで。デザートにこれ、ダンジョンで
「ミーニャ、五階層まで行ってきてくれたの?」
八穂が驚くと、ミーニャは得意そうにニヤリとした。
「料理できないから、せめてこれくらいはね。まだ珍しいでしょ」
「なに、これ、初めて見るわ」
リリイが不思議そうに指で実を突っついた。
「ダンジョンで採れる実。まだあまり知られてないから、名前がないのよ」
八穂が言うと、リリイは目を見開いた。
「どんな味かしら、食べてみたい」
「それで、ヤホの料理は? 早く見せて」
ミュレが、八穂が手を掛けているポーチをのぞき込もうとした。
「私のはね、これです」
八穂がテーブルに乗せたのは、丸い大きなパンで、上にパン生地でブドウの実と葉っぱと、小麦の穂束の飾りがつけられていた。
「うわあ、何これ。ブドウと麦?」
「へええ、こんなパン初めて」
八穂がニコニコしながら、フタになっていたパンの上部を取り外すと、中にはカットされたサンドイッチがギッシリ詰まっていた。
「ハムとチーズと卵のサンドイッチです」
「えええ! パンをくり抜いているの?」
ミュレが声を上げた。
「そうなの、くり抜いたパンをスライスしてサンドイッチにしてる。面白いでしょ」
「びっくりした、でもおいしそう。はやく食べよう」
ミーニャはいそいそとテーブルに座ると,人数分のカップに果実水を注いだ。
うららかな春の日差しの中で、ワイワイ騒ぎながら、持ち寄りパーティーがはじまった。
リクは体を元の猫の大きさにもどして、レンゲ畑を駆け回っていた。イツは空から、リクを追うように飛びまわっていて楽しそうだった
四人は八穂が持って来たベリーの果実水で乾杯した後、持ち寄ったご馳走に手を伸ばした。
(次話に続く)
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いつも読んでいただいて、ありがとうございます。
このお話は、本編の方で、読者様にいただいたコメントをヒントにして書いたお話です。 仲津
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