第17話女子会2
「リリイ、ボアのソーセージ、スパイシーでおいしいね」
「ほんと、お酒が欲しくなる」
ミーニャが残念そうに果実水を飲んでいた。
「今度は飲み会もいいわね」
卵サンドをパクつきながら、ミュレ。
「ミュレはお酒飲めるんだ」
「たまにはね。ヤホだって飲むでしょ?」
「あー 、少しだけなら。でも積極的には飲まないかな。お酒のおいしさがわからなくて」
「サラダおいしい。トマトとチーズって合うのね」
リリイは皿に取り分けたサラダを、幸せそうにつついていた。
「良かった、気に入った?」
「ええ、ミュレ、今度家で作ってみるわ」
「あ、サラダ、私まだ食べてなかった。いただきます」
ミーニャは、立ち上がってサラダボウルを引き寄せた。
「ところで、ヤホ、その後、どうなの?」
「どうなのって、なに? ミュレ」
「トーヤさんと、どうなのよ。昨年の収穫祭でいい感じだったじゃない」
「えー なんで?」
「そりゃ、見てたから」
「ええ!」
「ふふふ、私の店で、花飾り買ってくれたのよ、トーヤさんが選んでくれて」
リリイがニコニコしながら暴露した。
「リリイったら」
「なあに、ヤホ、照れてる?」
「ミーニャ、からかわないで」
八穂は決まり悪そうにうつむいた。
八穂はこういう話題は苦手だった。特に自分のことになると、どんな顔をして良いのかわからないのだった。
「ほら、言いなさいよ。私たちの仲じゃない。ちゃんと知ってるんだから」
「なによ、ミュレ。知ってるなら言わせなくても」
「それは、ヤホの口から直接聞きたいんじゃないの、ねえミュレ」
「そうそう、興味あるでしょ、リリイも」
「まあそうね、聞かなくてもわかるけど、ちゃんと聞きたいわね」
三人が悪気のない顔をしてニコニコ迫って来るので、八穂は困ったように肩をすくめた。
「もう、三人とも。しつこいんだから」
「で?」
「それで?
「どうなの?」
「あのね、その」
「うん?」
「ガンバレ、ヤホ」
「ちょっと! リリイ」
「しょうがないわね、ヤホが困ってるからこれくらいにする?」
ミュレは、八穂の頭をポンポン叩いて、その場をおさめた。
「そうね、二人を見ていればわかるわね」
リリイも笑って、八穂の肩を叩いた。
「だいぶ前から、トーヤさん、ヤホを気にしてたの。私が気がづいたのに、ヤホは全然気づいてなくて、ヤキモキしてたわ」
呆れたように、ミーニャが額に手をやった。
「ヤホって、まわりの人には気をつかってくれるのに、自分のことになると鈍感よね」
「あー わかる、それ」
「リリイったら、もう」
「まあまあ、女子が集まれば、こういう話題はつきものでしょ」
ミュレが年長者らしくたしなめた。
これ食べてみて、見た目は派手だけどおいしいのよ」
ミーニャはテーブルの端に積んであった、赤紫色の果物を、三人の前に並べた。
「冒険者ギルドで見たことはあるけど、食べるのは初めてだわ。皮をむいて食べるのかな」
ミュレは、興味深そうに果物を眺めた。
「そうそう、へこみがあるでしょ。そこから剥きやすいわ」
ミーニャが見本を見せると、他の三人も、果物を手に取った。
「そういえば、ミュレは何歳で結婚したの?」
ミーニャが尋ねると、ミュレは食べていた果物を、慌てて飲み込んだ。
「十八の時。夫とは幼なじみだったから。なに、今度は私の話なの?」
「いいじゃない、先輩の話を聞いてみたいのよ、参考に」
「なに言ってるの、ミーニャだって、この前、トルテ……」
「わあぁ!」
ミーニャはあわててミュレの口を押さえた」
「何々?、トルテ? まさか、ミーニャ」
「違うのよ、ヤホ」
「ミーニャったら、隠さなくてもいいのに、最近、ギルドでも、すごく仲良しなのよ、彼と」
「へえ、そうなんだ。気づかなかったな」
「うふふ、ミーニャたちも幼なじみでしょ」
「まあね、だから、ミュレはどうだったのかなと思って」
「ほうほう、悩み事相談受けたまわりますよ、先輩として」
「そうね、その時はよろしく」
ミーニャは、開き直ったように肩をすくめた。
「そういえば、リリイは、彼氏いないの?」
八穂が温かいお茶を用意しながら言うと、リリイは勢いよく手を振った。
「いないわよ。見習いお針子じゃ、そんな余裕ないわ」
「そうかな、屋台してた頃も、リリイ狙いの冒険者多かったけどね」
「ヤホ、そんなデタラメ言って」
「屋台近くをウロウロしてた人、何人かいたわよ」
自分がやられたお返しとばかりに、八穂がからかうと、リリイは真っ赤になった。
「何度か、声かけられたけど、簡単にお付き合いとか、できないから」
「ほら、やっぱり」
他愛いのないおしゃべりは、尽きなかった。
いつもは仕事がらみだったり、十矢やトルティン、ラングなどの男子が混じっていることが多いので、女子だけの砕けた話題は出にくかったのだ。
遊び疲れたのか、リクが足下で丸まっていた。イツもリクそばに寄り添って羽繕いをしていた。
暖かい春の日差しと、外の開放的な雰囲気が、四人を饒舌にしているようだった。
(終)
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