第7話ダンジョンの恵みミックスピッツア
Cランクパーティ「ソールの剣」のリーダー、トルティンから予約が入った。
食堂を一日貸し切りにしてくれとのことだった。
「ソールの剣」は、剣士トルティン、弓師ラング 魔術師ミーニャの三人パーティで、タウル町のダンジョンの第一発見者だ。
近くの森で薬草摘みをしていて、孤児院の子供たちのパーティー「トワの未来」が、魔獣エビルボアに追われているのを助けた。
森は安全で、魔獣など
その時、調査を依頼されたのが、「ソールの剣」だった。
結果、ダンジョンが発見されたことで、冒険者ギルドを中心に新しい拠点づくりがはじまり、現在のタウル町ができたというわけだ。
町はまだ建設途中で、施設もじゅうぶん整っていないし、人も少ない。ダンジョンでの稼ぎを狙った冒険者たちが、少しずつ増えてきているという状況だった。
そんな「ソールの剣」からの予約なのだから、もちろん喜んで受けた。
ただ、「何人集まるかわからないので、何人来ても、そこそこ食べられる料理を」という注文に、頭を悩ませた。
当日の昼前、「ソールの剣」の三人と、
小さな店の中だけでは足りないため、裏庭にテーブルを運び、なにやら工夫しているようだった。
八穂は料理に集中するようにと言われたので、そちらは任せて、キッチンで作業を続けていた。
料理は、大皿で用意して、取り分けてもらうバイキング方式にした。
大きな寸胴鍋に三種類のスープを用意した。
まずは、先日ダンジョンで採ってきた松茸みたいなキノコとエビルボア肉のスープ。いわゆる豚汁だが、味噌が使えないので塩味だ。
こんな時八穂は、故郷の醤油や味噌があればと考える。自宅には、一緒に転移してきた調味料が揃っているのだが、お店で出せるほどの量はない。
いつか、この世界に
それから、トマト味の野菜スープ、ミネストローネ。ドードー鳥のカレー風スパイシースープ。
寸胴鍋がかかっている
サラダも三種用意した。
千切りキャベツに、細く切ったじゃがいもを揚げてトッピングしたサラダは、初めて作ってみた。
他に、お店で好評のカリカリベーコン乗せ玉ねぎサラダと、蒸し野菜の温サラダ。
メインは、お馴染み、ドードー鳥の唐揚げを大量に用意した。
それから、おそらくこの世界で、初のお目見えになるだろう、ピッツアにした。
トマトと水、ハチミツで育てた天然酵母で、バイツ粉のピザ生地を作り、丸くのばして、トマトソースを塗る。
とろけるチーズと、ダンジョンで採れる食材をトッピングして焼けば、名付けて、ダンジョンの恵みミックスピッツアだ。
トッピングは、角の生えたウサギ肉、お化けキノコ、エビルボアのベーコンに、グレートクラブの脚肉、鬼帆立の貝柱等々、このエリーネルの世界ならではの食材だ。
大きめなのを六枚作ってみたが、一度に焼けないので、焼き上がったものは、こっそりマジックバッグで保管した。
ちょうど、最後のピッツアをオーブンに入れたところで、「ソールの剣」の三人が料理を運びに来た。
「うお、この匂いは、何の匂いだ? 腹が鳴るな」
弓師のラングが鼻をヒクヒクさせた。
「もう会場ができたの?」
八穂が聞いた。
「バッチリ」
ラングは、おどけたようにステップを踏む。お調子者だ。
「私なんか、十矢さんにビールを全部冷やせって言われたわ」
魔術師のミーニャが呆れたように笑った。
以前から
「それは、大変だったね」
八穂はミーニャにサラダの大皿を渡した。
「スープは重いから、トルティンとラングがお願い。十矢は?」
「十矢さんは、火の調整ができたら来るよ。石積みで竈を作ったんだ」
トルティンが言って、大きな寸胴を持ち上げ、裏庭へ出て行った。
そうこうしている間に、ピッツアが焼き上がって、空腹を刺激するような、良い匂いがただよってきた。
八穂は、誰が来るのか知らないが、気に入ってくれるといいなと思った。
すべての料理が会場へ運ばれてしまうと、八穂はさすがに疲れて、椅子に腰掛けた。まだ洗い物が残っていたが、ひと休みしてからにしようと考えた。
「八穂、何してる、みんな待ってるぞ」
十矢が裏口ドアから顔を出した。
驚いて見上げると、十矢が手を差し出した。
「主役が来ないでどうする」
八穂が彼の手を取らないと見ると、肘を持って引き上げた。
「ほらほら、行くぞ」
十矢に急かされて、八穂は裏口ドアから、会場の裏庭に出ようとした。
「え?」
八穂は裏庭に足を踏み出す前に、驚いて立ち止まってしまった。
そこには、三十人近くの人が、手にグラスや酒瓶を掲げて、八穂を迎えたのだった。どの顔も、見知っている町の住人や、馴染みのお客さんだった。
彼女が驚いている間に、ミュレがニコニコしながら近づいてきて、八穂と十矢に飲み物が入ったグラスを渡した。
「八穂、ほのぼの食堂の三周年おめでとう!」
「ソールの剣」のリーダー、トルティンが、進み出て叫んだ。
「おめでとう」
「おめでとう!!」
「いつもありがとう」
口々に祝いの言葉が飛んできて、八穂は驚きのあまり動けないまま、ただ目を見開くばかりだった。
やがて、アーモンド型の目から、ひとしずく、涙がこぼれ落ちた。
「ほら、何か言え」
わざと乱暴な言い方をする十矢を、チラリと睨んでから、八穂は一歩踏み出した。
「みなさん、ありがとうございます。こんなことだとは、まったく気がつかず、驚きすぎて固まっちゃいました。
そうか、もう三年になるんですね。みなさんが、美味しいと食べてくれるおかげで、続けてこられました。
これからも、喜んでいただける料理を作って行きます。よろしくおねがいします」
暖かい拍手が起きた。どの顔も笑っていて楽しそうだった。
「よし、みんな食おうぜ、八穂の特別メニューだ」
十矢が言うと、みんな歓声を上げて、待ってましたとばかりに、料理に群がるのだった。
(終)
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最後までお読みいただきまして、また、作品へのフォロー、応援やコメント★もたくさんいただき、ありがとうございました。少しでもお楽しみいただけましたら幸です。
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