第9話 好き

夏祭りが終わって1ヶ月後、時は9月、残暑と呼ばれる暑さが未だ残る時期。私は高校に赴き、下駄箱を開けた。すると、、、

「何かしら、これ、、、」

一通の封筒が入っていた。なんだろうと思い、それの封を開けてみる。中に入っていたのは、、、

「俺は線引(せんびき)リョータ。突然だがお前に伝えたいことがある。放課後A棟の屋上に来てくれ。頼むぞ」

私はその手紙をカバンにしまい、心に留めておくことにした。


私は午後、高校で国語の授業を受けていた。

「この少年は少女のことが好きだったんだ。異性としてね。次の授業までの宿題は、この少年の気持ちを50字以内で考えること、それじゃ、解散!」

私は困った。人を異性として好きになる気持ちなんて考えたこともない。次の国語の授業は2日後、とりあえずヨーコかケーコにでも相談しようか。


放課後、、、


私は手紙に記されていた通り、A棟の屋上を訪れていた。そこには1人の少年がいた。

「よう、水澄シロ。今日は来てくれてありがとうな。俺は線引リョータ。お前に言いたいことがあるんだ」

「何かしら、手短に頼むわ」

するとその少年は意を決したように言った。

「この前の夏祭りのファッションショー見たぞ。お前は凄く堂々として、めっちゃ立派でカッコ良かった。その時、俺は気づいたんだ、俺はお前のことが、、、好きなんだって!」

「!」

「出来ればお前と付き合いたい!俺が言いたかったのはこれだけだ、返事は急がなくていい、またな!」

リョータはそう言い残すとその場を急ぎ足で立ち去った。今、彼は、私のことを好きだと言った。それがどんな意味を持つかはさっきの国語の授業で少し学んだ。恐らく、異性として好きなんだろう。なんとなくそれは理解ができた、だが、詳しくは分からなかった。なので夕食の時に水澄一家に聞くことにした。

「今朝手紙をもらった同じ学年の少年から、放課後に屋上で好きだって言われたの、どうすればいいかしら?」

その発言で、ヨーコは固まり、セージは口に含んでいたビールを吹き出した。ケーコは必死に冷静さを保ち、私に言った。

「そ、それはあなた自身が考えるべき事よ。私たちに意見を求めるのは、な、何か違う気がするの」

するとヨーコも言う。

「そうだよ、それはシロ自身が決めないとね、うん、きっとそうだよ、そう思う」

セージも

「シロ、これは学生時代の一大イベントだ。心してかかれよ」

と言う。

「けれど、私は断ろうと思うの。こういう時はなんて返事をすればいいのかしら?」

するとヨーコは言った。

「そうだね。こんな時は、ごめんなさい、かな」

「そうなの、こういう時にもごめんなさいが使えるのね、便利な言葉だわ」


翌日の放課後、、、


「まさか、お前の方から声がかかるとはな、それで、昨日の返事を聞かせてくれるのか?」

校舎の屋上にて、私は線引リョータと正面から向き合っていた。

「その話だけれど、悪いけど、断らせていただくわ。ごめんなさい」

「そうか、、、」

彼は酷く落胆していた。

「けれど、勇気を出して想いを伝えてくれたことは素直に嬉しかったの。だから、友達にはなれるわ。どうかしら、、、?」

すると、彼は下げていた頭を勢いよく上げて言った。

「ほ、本当か!俺と友達になってくれるのか!?」

「ええ、それなら構わないわ」

「やったあぁ!シロと友達になれたあぁ!」

リョータは悲鳴を上げながら、校舎を走り回っていった。彼はどうやら喜んでいるらしい。私も何故か気分が良かった。もしかしたら明日の国語の宿題に活かせるかも知れない。線引リョータはこうして私の異性の友達第一号になったのだった。

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