08

 家族で向かった先はやはり王家だった。レジーナ姉様だけが首をかしげていたので、アーノルド兄様はなんとなく予想がついていたのだろう。


 両親は私だけを王家のメイドに預け、兄様と姉様は連れていかれた。きっと、レジーナ姉様が月の柱の婚約者となる発表をするのだろう。私も見たかったけど、おいていかれた。メイドさんが面倒見てくれているけど、1人でお茶とか暇だなぁ。


「…あの、お庭見ても良いですか?」

 婚約発表は見れなくとも、そのあとのイベントは先回りすれば見れるだろう。確かこのあとのイベントスチルは、王家の庭園だった。


 メイドさんは庭園なら自由に過ごしていても構わないですよ、と優しく微笑んでくれた。暇そうにしているのがバレていたのかもしれない。


 るんるん気分で庭園散策をしていると、月の剣がいた。金色の髪に青い瞳の、まるでお伽噺に出てくる王子様のような人だった。まぁ、王子ではなく騎士であるが。


「私がケイティ様を見ますよ。」

「…あら、剣の方にそんなことさせるわけにはいきませんわ。メイドとして任された仕事ですので……でも貴方がついているのが一番安全でしょうし…。」

 そうでしょうね。彼は20歳にして騎士長という肩書きをもつ人間である。私もメイドさんにぴったり見張られるのは気まずかったため、彼の側へ行った。その様子を見たメイドさんは別の仕事をするようで、一礼して私の側を離れていってしまった。


「…こんにちは、ケイティ様。私は月の剣の長を務める、ユリウスと申します。」

「こんにちは、ユリウスさん。えっと、何故、私のことを知っているのですか?」

 ユリウスさんと会うのは初めてだし、そもそも出会う運命じゃないからなぁ。どういう経緯で私のことを知っているのか…。


「主の婚約者様の御家族ですので。」

「やはり、レジーナ姉様は…。」

 私がそこまで賢い子とは思っていなかったようで、ユリウスさんは少し驚いた表情を浮かべた。そして、私のことを抱きかかえた。


「大丈夫です、月の柱はとても優しい御方ですよ。」

 不器用ながらも優しいのは知っている。だってゲームで攻略しましたし。ヒロインに対してとてもピュアな恋愛繰り広げていましたよ…。


「…ユリウスさん、ここに薔薇が咲く場所はありますか?」

「ご案内致します。」

 私が会話をそらしたことに、ユリウスさんは少し笑っていた。きっと私が姉様をとられて拗ねている子供に見えているだろう。


 本当はこのあと起きるイベントの場所まで早くついて隠れるためだ。子供の足では遅いが、今はユリウスさんに抱えられているからスムーズに着いた。

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