第31話 騎士見習いと呪いの絵(ブルームとライトの出会い)
ごきげんよう。
なにやら天候が落ち着きませんわね。
先日王国に戻って参りましたが、王国内でも何やら精霊達がざわついているようでしたし。
特に、変わったことは無いように見えるのですが。
あら、申し訳ございません。あなたにまで、ご心配をおかけしてしまって。
大丈夫ですわ。
両王国の結界は安定しておりますし。
さて、今回はブルーム様とライト様の出会いのお話、でしたわね。
では、早速・・・・
※※※※※※※※※
~3年前~
(綺麗・・・・)
同じ場所、同じ時間。
そこにはいつも、一心に鍛錬に励む青年の姿があった。
年の頃はおそらく自分とそう変わらないだろうその青年は、遠目でも分かるほどに良く日に焼けた精悍な顔立ち。
真っ白なタンクトップから伸びている腕は、鍛えられた逞しい腕。
青年の姿が良く見えるいつもの木陰に向かうと、イーゼルを立て、描きかけのキャンバスを乗せる。
赤みを帯びた柔らかなブラウンの髪を後ろで一つにまとめると、ブルームは筆を手にキャンバスに向かった。
人物画はもう描くまいと心に決めていたブルームだったが、一目見た時から心を奪われてしまったその青年の姿だけはどうしても描いてみたいと、青年の姿を見つけた翌日から、ブルームはこの場所に通うようになっていた。
(大丈夫。彼にさえ渡さなければ、きっと)
そう思いながらも、沸き起こる不安に思わず筆が止まる。
自分の描いた絵には不思議な力が宿る事を、ブルームは幼い頃から気付いていた。
「ほんとだよっ!絵が、喋ったんだっ!」
それは、幼い頃のある日の事だった。
似顔絵を描いてあげた友達が、そんな事を他の友達に喋っている場面に出くわした。
「あいつが描いたオレの絵が、本当に喋ったんだって!」
「そう言えば、わたしも・・・・」
そう言いだしたのは、やはり以前に、ブルームが似顔絵を描いてあげた友達。
「ブルームが描いたわたしの絵がね、何か怖いこと言った。夢でも見たのかと思ってたんだけど」
「違うよっ、絶対夢じゃないよ、オレ見たしっ!あいつの描く絵、呪いの絵なんじゃ・・・・」
「えーっ、やだー、怖いっ!」
子供というのは時に残酷な言葉を何のためらいもなく口にすることがある。
実際、ブルームが描く人物画は、描かれた本人が目にすると自分の中に抱えている悩みや苦しみと向き合う事となり、他人が描かれた絵を目にした際には、描かれた人物の本当の想いに触れる事となる、そんな不思議な力が宿るのだった。
その事が分かるのは、まだ先の事。
『呪いの絵』という言葉に少なからずショックを受けたブルームは、その日以来、人物画を描く事をやめてしまったのだった。
(どうしよう・・・・僕が彼を描く事で、彼が不幸になってしまったら・・・・)
筆を握りしめたまま、ブルームはじっと描きかけのキャンバスを見る。
そして。
パレットに出した黒い絵の具をたっぷりと筆に付け、そのままキャンバスを塗り潰そうとした時。
「おいおいっ、何するんだっ?!」
その手が、強い力に止められた。
いつの間にかすぐ側に立っていたのは、ブルームがキャンバスの中に描いていた、あの青年。
「おれのこと、描いてくれてたんだな」
「えっ?」
「いつもここで絵を描いてる人がいるなぁ、とは思ってたんだけど。まさか、おれを描いていてくれたとは」
ブルームの手を片手で押さえたまま、青年は照れたような笑顔を浮かべて、描きかけのキャンバスをじっと見ている。
方頬にえくぼのある、優しい笑顔。
どこまでも真っ直ぐで意志の強そうなその黒い瞳に、ブルームは心を奪われボウッとその顔に見惚れていたのだが。
ハッとしたように、片手の自由を奪われたままの状態で慌てて立ち上がると、体を使って青年の視界からキャンバスを覆い隠した。
「なんで隠すんだ?」
「知らないの?僕の絵は『呪いの絵』だって」
「知らん。なんだそれ?」
キョトンとした顔をすると、青年は掴んだままのブルームの手を強く引いてキャンバスから離し、バランスを崩して倒れそうになった体を抱き留めながら言った。
「おれ、キミのこの絵、好きだ。見てるとすごく、力が湧いて来る気がする。うん。弱音を吐いてる場合じゃないな、頑張るよ、今よりもっと」
後半は、まるで絵と会話をしているような青年に、ブルームは恐る恐る尋ねてみた。
「ねぇ、もしかして、絵が喋ったり、した?」
「あー・・・・そうかもしれない。ていうか、おれ自身の心の声が聞こえただけかもしれないけどな」
「怖く、ないの?」
「なにが?」
「絵が喋るなんて」
「すごいな、喋る絵なんてっ!」
至近距離で綺麗な黒い目を輝かせて自分を見つめる青年に、ブルームは慌てて青年の胸を片手で押し返すようにして立ち上がる。
「あのっ、もう手、離して・・・・」
「ああっ!ごめん、痛かったか?」
「大丈夫」
「この絵、塗りつぶしたりしないよ、な?」
ブルームの手を離しながら心配そうな顔を見せる青年に、ブルームは小さく頷いた。
とたん。
青年が見せた、弾けるような笑顔。
ブルームの胸の鼓動が、痛みを伴うほどに激しく高鳴り始める。
(そうか、この人が綺麗に見えたのは、きっと・・・・)
「おれ、ライト。今はまだ騎士見習いだけど、絶対に騎士団隊長になるって決めてるんだ。キミは?」
「ブルーム。一応、絵描き」
「そっか。なぁ、ブルーム。いつか絶対に、おれの肖像画、描いてくれよな。騎士団隊長になったら、さ」
「でも、僕の絵は」
「おれは、ブルームに描いてほしい。おれ、ブルームの描く絵、すごい好きだ。あるんだな、本当に。一目惚れって」
驚いて見開かれたブルームの瑠璃色の瞳に、ライトはうっすらと頬を染める。
「実は、前からずっと気になってたんだよ、ブルームの事。ここで絵を描いている人は、どんな人なんだろうって。良かった、思い切って声かけてみて。まぁ、せっかくの絵を塗りつぶそうとしてたから、驚いてつい声かけちまっただけだけど。だから、さ。良かったらまたここで・・・・会って貰えないか?」
「えっ?」
「ブルームの絵にも一目惚れしたけど、おれ、ブルームにも・・・・いやっあの、もっとブルームのこと知りたい、っていうか、なんていうか・・・・ダメ?」
「・・・・ダメ」
「えぇっ?!」
「じゃない」
「・・・・よかったぁ・・・・」
片頬にえくぼのある満面の笑顔で、ライトはブルームを眩しそうに見つめる。
「『呪いの絵』なんかじゃ、ない」
「えっ?」
「ブルームの絵は、おれにとっては『幸運の絵』だよ」
(やっぱり、綺麗だ・・・・)
黒曜石のように輝くライトの瞳に、ブルームは自身の淡い恋心を自覚したのだった。
※※※※※※※※※※
ブルーム様は、ご自身が一方的に一目惚れをされたとお思いのようですが、実はライト様も同じように、ご自身が一方的に一目惚れをされたとお思いなのですよ。
面白いですわね。
きっとお2人が同時に一目惚れをされたのでしょうね。
だからこそ、今でもあのように仲睦まじくいらっしゃるのでしょう。
羨ましいかぎりですわ。
はっ、私としたことが、つい本音が・・・・お恥ずかしい・・・・
どうぞ、今の言葉は、お忘れになってくださいな。
そうそう、次回はどのようなお話にいたしましょうか。
そうですわね・・・・影のお話、にしましょうか。
ヒスイ様とブルーム様も、関わりのあるお話となります。
よろしければ、聞きにいらしてくださいね。
それでは、また。
ごきげんよう。
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