第18話 ロマンス女王とギャグ王のお茶会 2/3 ~ロマンス女王の回想~

ごきげんよう。

いらしてくださったのですね。

先日は重たいお話をしてしまいましたから、しばらくは来てくださらないのではないかと。

え?

余計に気になってしまった、ですって?

・・・・本当にあなたは、お優しい方。

それでは、今日はロマンス女王のお話をいたしましょうか。

8年前のあの日の、ロマンス女王のお話を。


※※※※※※※※※※


-8年前 ギャグ王国 控えの間-


「チェルシー様、お加減はいかがですか?」


静かなノックの音の後、控えの間にやって来たのは、ギャグ王妃リアラ。


「ええ、だいぶ良くなりました。ありがとうございます」


体を起こしかけたチェルシーを、リアラはそっと制する。

その瞳に浮かぶのは、この先に待ち受けているであろう運命を既に受け入れている者の、静かな光。


「お気遣い、かたじけない」

「お気になさらないでくださいな、ラスティ様。チェルシー様にとって、今は大事な時。できることならば、穏やかにお過ごしいただきたかったのですが・・・・」

「致し方あるまい。今は我らの王国の存亡がかかっているのですから」


チェルシーの傍らでやりきれない表情を滲ませるラスティに、リアラの顔も悲しみに歪む。


「お産まれになるお子を、ラスティ様に会わせて差し上げたかった・・・・誰よりも、お誕生を待ち望んでいらっしゃるでしょうに」


そのリアラの手を取り、チェルシーは微笑んだ。


「彼は国王ですもの。もとより覚悟の上です。彼の覚悟は、リアラ様のお覚悟と同じです」

「チェルシー様」

「キャロラインもお腹の子も、カーク様やユウ様のご成長も、私は皆で・・・・ラスティやリアラ様やマイケル様と皆で共に見守りとうございました」

「私もですわ、チェルシー様。ですから、この先はラスティ様と私の分まで、あなたとマイケルで見守ってくださいな、私達の愛する子供達を。両王国の未来を」


お互いの目から、涙がこぼれ落ちる。

もし、ラスティやリアラの魂が少しでも恨みや憎しみによって闇に染まるようなことがあれば、チェルシーは何としてでもその闇を払うつもりでいた。

そのために、チェルシーは身重の体をおして、今日ここへ来たのだ。

だが、2人の魂からは闇の気配の欠片も感じられはしない。

感じるのはただ、

 大切なものを守り抜くという、固い覚悟

 慈愛に満ちた包み込むような優しさ

それだけ。

最愛の夫を、そしてリアラのような聡明で慈悲深い人間を、国を守るためとはいえ失って良いものか。

この誇り高く気高く、そして、愛と優しさに満ち溢れた魂を持つ人間を、失ってもいいものか。

チェルシーの心は再び揺らぎ始める。

その揺らぎを感じ取ったのか、リアラはチェルシーの手を強く握り返した。


「チェルシー様、元気なお子をお産みくださいませ。そのような暗いお顔をなさっていては、お腹に障りますよ?私達の大切な子供達が、愛する人達が、大切な民達が、これから先笑顔で暮らせる世界を守るために、私達は全力を尽くすのですから」

「そうだよ、チェルシー。我々は悲劇の内に命を落とす訳ではない。大切なものを守る為に力を尽くす。ただ、それだけだなのだから」

「リアラ様・・・・ラスティ・・・・」

「笑ってくださいませ、チェルシー様。大丈夫です、きっと上手く行きますわ、何もかも。これからは、あなたの笑顔が皆の心の支えになるのですから。どうか我が夫マイケルと共に、ふたつの大切な王国を守ってくださいませ」


涙を湛えながらも、リアラの笑顔はどこまでも前を見据えて輝いている。


「この先あなたが笑えないような世界になるのだったら、我々の努力も無駄になってしまうのだからね。辛くても笑うんだ、チェルシー。その笑顔はきっと、あなた自身の力になる。そして、両王国の皆の力にも」


既に迷いを断ち切ったのか、ラスティが見せる笑顔も晴れやかだ。


チェルシーは2人の真の強さを目の当たりにし、己の弱さを思い知らされた。

そして心から。

2人の、そして両王国を守るべく力を尽くす人達の想いに全力で応えていこうと、固く誓ったのだった。



※※※※※※※※※※


今でこそ、チェルシー女王は腹の座った真の強い女王としてロマンス王国を立派にお守りになっていらっしゃいますが、ラスティ国王がご存命の頃はまだまだ『可愛らしいお姫様』と言った感じの方でしたのよ。

8年前に起こった事が、チェルシー王妃を真の女王へと変えたのですわ。

それが良い事なのか悪い事なのか、私には何とも申し上げられませんが・・・・

ですが、ラスティ国王やリアラ王妃が託した『皆が笑顔で暮らせる世界』を、チェルシー女王もマイケル国王も立派にお守りになっていらっしゃいます。

私もいち国民として、誇りに思っておりますのよ。


さぁ、重たいお話はここまでにしましょう。

次は、チェルシー女王とマイケル国王のお茶会の様子をお話しようと思っております。

よろしければ、またお越しくださいな。

ではまた、ごきげんよう。

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