第19話 ロマンス女王とギャグ王のお茶会 3/3 ~穏やかな時間~

ごきげんよう。

今ちょうど、お茶を入れていたところですのよ。

ご一緒に、いかが?

抹茶のチョコもございますわ・・・・ふふふ、ご心配なさらないで。

わさび・チョコではございませんから。

遠慮なさらないで、お召し上がりくださいな。


今日はお約束通り、チェルシー女王とマイケル国王のお茶会の様子をお話しいたしますわね。

とても穏やかなお茶会ですのよ・・・・


※※※※※※※※※※


「今日もいいお天気ですわね」

「我らの日頃の行いが良いからではないか?」

「さぁ?それはどうかしら?」


ロマンス王国とギャグ王国の国境を跨ぐように造られた、広々とした公園。

その中心部にある茶室で、ロマンス女王チェルシーとギャグ国王マイケルは、毎年同じ日に茶会を開いていた。

それは、両国に結界が張られた日。

ロマンス国王ラスティ、ギャグ王妃リアラをはじめ、国を守るためにその力を捧げた術師達の命日。


「変わりは無いか?」

「ええ、なにも」


一国の女王と国王の茶会ではあるものの、茶室にいるのは二人だけ。

そもそもが、この平和な国において警護の必要など無いのだ。

故に、2人の会話も自然と砕けた口調となる。


「騎士団はまだ存続させるのか?」

「もちろん。ラスティのお願いですもの」


ロマンス国王ラスティは、8年前に結界師として命を賭して王国を守った。

だが、ロマンス王家の結界師はラスティただ1人。行く末を案じたラスティはチェルシーに言い残したのだ。

『王家を守る騎士団は今後も存続させるように』と。


「そうだな。少なくともカークがロマンス王国に入るまでは、存続させるべきだろうな」

「ふふふ・・・・まだまだ先の話ね」

「確かに」


香りの良い紅茶を飲み、両王国のシェフ自慢のスイーツを楽しむ。

とても穏やかで、満たされた時間。

この素晴らしい時間を、命を賭して守った者達へと、思いを馳せる。


「それはそうとマイケル様、例のものはちゃんとお持ちよね?」


チェルシーの言葉に、マイケルは大きく頷き、肌身離さず持ち歩いている藍色のクリスタルを、懐から取り出した。

それは、ギャグ王妃リアラが最期にマイケルへ託したクリスタル。

両王国の全ての術師の力を抑える力を持つものだ。


『これ以上、術師が犠牲になることが無いように。お願いです、皆を守って』


リアラはそう言ってマイケルにクリスタルを託したのだ。


「チェルシー様もお持ちかな?」

「ええ、もちろん」


マイケルの言葉に、チェルシーも肌見離さず持ち歩いている銀色の小さなハンマーを取り出す。

それは、ロマンス国王ラスティが最期にチェルシーに託したもの。


『もし再び術師の力が必要だと判断したのならば、リアラ様が遺した制御のクリスタルをこのハンマーで砕きなさい。あなたなら正しい判断を下すことができるはずだ』


そう、言い残して。


「まだお互いこれを使うことは無いようだね」

「ええ」


茶室の窓から見える景色は、平和そのもの。誰もが皆、温かな日差しの中で穏やかな笑顔を浮かべている。

この両王国で、8年前の王国の危機を知る者はほとんどいない。

それは、計画が関係者のみで極秘裏に進められていたからに他ならない。

遺されたチェルシーとマイケルは、臣下と共に情報開示について何度も話し合いを重ねた。

どこまでを、王国の民に開示すべきか。

そして出した結論は。


『両王国に途方もない厄災が降りかかる危機が訪れた。国内の術師達は、厄災から王国を守る為に、命を賭してそれぞれの力を捧げた』


既に、記憶師ライラによって、結界の外の人間達については、その多くの記憶から両王国の存在は消え失せている。

そうのような中、結界で守られているこの国を見つけ出し、侵略を計画する国など現れる事は無いだろう、との考えから出した結論だった。


「もし」


窓の景色を眺めながら、マイケルがいつもの言葉を口にする。


「またその時が訪れて、我らの下した判断が異なるものだとしたら」

「それはその時考えれば良いのでは?」


対して、チェルシーもいつもの言葉を口にする。


「そうだな。余計な心配をしているとシワが増えてしまうからなぁ」

「あら、でしたら良いシワ消しクリームがありますわよ。今度お持ちしましょうか?」

「それは是非。なるほど、それでチェルシー様はいつまでも若く見えるのだな」

「『見える』は余計です」

「これは失敬」


チェルシーとマイケルは、お互いに顔を見合わせて笑い合う。

穏やかで平和な時間。

この時間が末永く続くことを、胸の内で強く願いながら。


「そう言えば、カーク様はマイケル様に似てしまったようですわねぇ?」

「何の話だ?」

「『手が早い』という話です」

「・・・・はぁっ?!」

「全く、困ったものですわ。許嫁とはいえ、スウィーティーはまだ8歳だと言うのに」

「ちょっと待て、何の話だ?それに、私が『手が早い』とは聞き捨てならんぞ」

「あら~?私、リアラ様から全てお聞きしていますのよ?お二人の【馴れ初め】を」

「えっ・・・・いやっ、あれは、その・・・・」

「ふふふ・・・・」


笑顔を浮かべながら紅茶を口にするチェルシーに、マイケルはそっと額の汗を拭う。


(リアラよ・・・・チェルシー様にいったい何をどこまで話したのだ・・・・そしてカークよ、お前はいったい何をしでかしたのだっ?!チェルシー様は怒らせると手に負えない方なのだよ、怒りを沈められるのはラスティ様ただお一人であったというのに・・・・頼むから、チェルシー様をあまり怒らせないでくれ)


「マイケル様。どうかなさいました?」

「いや、なにも。ゼンゼン、マッタク」

「ふふふ・・・・おかしな方。あら、もうこんな時間。それではまた、来年の今日」

「ああ。また、この場所で」


こうして8回目のお茶会も例年通り穏やかな内に閉会となり、チェルシーとマイケルは、それぞれの国へと戻って行ったのだった。


※※※※※※※※※※


チェルシー女王もマイケル国王も、8年前のあの日の事は決して忘れる事はないでしょう。

ですが、お二人ともに、既に前を向いて歩き出しています。

本当に、お強いお二人です。

若干、チェルシー女王の方が、マイケル国王よりもお強いようですけれど・・・・ふふふ。

あら、もうこのような時間に。

私達のお茶会も、そろそろお開きにいたしましょうか。

ご一緒してくださって、ありがとうございます。とても、楽しかったですわ。

では、また。

ごきげんよう。

またのお越しを楽しみにお待ちしております。

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