第17話 ロマンス女王とギャグ王のお茶会 1/3 ~ギャグ王の回想~

ごきげんよう。

お待ちしておりましたわ。

ふふふ・・・・なぜかしら、そろそろいらしてくださるような気がしていましたのよ。

今日は何をお話しましょうか・・・・

え?

ロマンス女王とギャグ国王のお話、ですか?

そうですわね、まだお話しておりませんわね、ロマンス女王とギャグ国王のお話を。

そういえば、そろそろお2人のお茶会が開かれる頃。

では、今日はロマンス女王とギャグ国王のお茶会のお話をいたしましょうか。

このお茶会は毎年開かれてるのです。

両王国に結界が張られたあの日から、毎年同じ日に・・・・


※※※※※※※※※※


-8年前 ギャグ国王 会議の間-


ロマンス王国、ギャグ王国の王家、また国民が持つ不思議な力。

両国は、その力に気づいた列強各国からの侵略の脅威に晒されていた。

ロマンス王国の王族は、魂の闇を察知し闇を払う力を持ち、代々水・風・土・木の精霊との契約を結んで、その力を借りることができる。

ギャグ王国の王族は、魂の色を見る力を持ち、代々火の精霊との契約を結んで、その力を借りることができる。

また、両国の国民の中には結界師の力を持つ者もおり、中でも強力な力を持つ者は国ひとつ分の結界を張ることもできる。

そして、極稀に時間師や記憶師の力を持つ者もいる。

時間師は、時間を自在に操る力を持つ者

記憶師は、他人の記憶を自在に操る力を持つ者。

時間師も記憶師も、生まれ落ちた瞬間にその存在は精霊を介して両王室の知るところとなる。

そしてその力は国王の許可無しに使うことは許されていない。

ロマンス王国にとってもギャグ王国にとっても、この不思議な力は当たり前の日常に溶けこんでいたもの。

だが、列強各国にとっては、喉から手が出るほどに欲しい力。

ロマンス王妃によっていち早く闇の魂の集団接近を知った両国の国王と王妃は、ギャグ王国の会議の間で緊急の会議を開いていた。



「このままでは・・・・もはや火の精霊サラマンダーの力を借りて迎撃するしか」

「いけません」


苦し気に呟くギャグ国王マイケルを、凛とした声が制する。

ギャグ王妃リアラの声だ。


「しかし、我らを狙う敵国は既にすぐ近くにまで迫っているのだぞ!」

「たとえ敵だとしても、命を殺める決断を簡単には下さないでくださいませ」


焦りを募らせるマイケルとは対象的に、リアラは静かに微笑む。


「可愛い子供たち、愛すべき国民たちに、人の命の尊さを説くべきあなたが、率先して命を殺めるなど、あってはならないことです」

「しかし・・・・」

「ご安心くださいな。直に私の姉夫婦がこちらに到着いたします。あなたもご存知の通り、姉ライラは記憶師、夫ディーンは時間師です。ディーンが、我ら結界師が結界を張る時間を稼ぐために外界の時間を止め、その間にライラができる限りの人達の両国に関する記憶を操作します。ですから、あとはロマンス王ラスティ様のお力で、敵の足止めさえしてくだされば」

「リアラ様っ、それではあなた方はっ」


ロマンス王妃チェルシーの悲痛な声。

当然のことながら、術師が術を発動するには、それなりの代償を伴う。

2つの国を覆うような途方もなく大きな結界を、一時的ではなくできる限りの永きに渡って張るとなれば、どれだけの結界師が力を合わせたところで、無事で済むはずがない。

リアラは結界師の中でも特に強力な力を持っていた。

国民の中からも結界師の協力を募ってはいたものの、できる限り国民の犠牲を出さない覚悟であることは、リアラの瞳を見れば明らかだった。

また、記憶師や時間師にしても、王国以外の全ての国に術を発動するには想像を絶する力が必要だ。

おそらく覚悟の上の決断なのだろう。


「承知しております。精霊達が防御壁をつくり終えた後には、微力ながら私も結界師として力添えを」


リアラの目をしっかりと見ながら、ラスティが大きく頷く。

ラスティもまた、両国を守る為の覚悟を、既に固めているようだった。


「あなたっ!」

「精霊達との契約は、この子へ引き継ぐことにする。最後の務めを果たした後に」


泣き崩れる身重のチェルシーの肩を、ラスティがそっと抱き、大きく突き出たお腹に愛しそうに触れる。


「国王たるもの、国を守るのは私の責務。チェルシー、私はあなたを信じている。あなたならきっと、この後もロマンス王国を幸せな国へと導いてくれる。後のことは、任せたよ」

「いやです、私はそんな・・・・うっ」

「チェルシーっ!」

「いけないっ!ラスティ様、チェルシー様をこちらへ」


リアラの指示でメイド達に支えられてロマンス国王と王妃が会議の間を後にする。

入れ違いのように、一組の男女が会議の間に姿を表した。


「ライラ、来てくれたのね」

「ええ、もちろんよ」


ライラと呼ばれたリアラと瓜二つの顔を持つ女性は、ほんの一瞬懐かしそうな顔を浮かべてリアラの手を強く握ると、そのままマイケルの前にひざまずいた。

ライラはリアラの双子の姉。

早くから王国の外に居を構えていたために、その存在を知る者は国内でもごく僅かだ。

ライラと共に来た男性は、ライラの夫ディーン。元はロマンス王国の国民であったが、ライラとの結婚を機にライラと共に王国を後にしていた。

ディーンも共に、ライラの隣にひざまずく。


「国王様。王妃から事情は伺いました。この国を守る為でしたら、我らが力、我らが命、喜んで差し出す所存です。ですが、ひとつだけお願いがございます」

「私の力不足でこのようなことになり申し訳ない。私にできることならなんなりと」

「我が息子の事にございます。我ら亡き後、どうか国王にお預かり頂きたい」

「もちろんだ。我が子同様に」

「いえ、ただお預かりいただくだけで良いのです。息子は夫の力を継ぎ、時間師の資質を備えております。いつかこの国の役に立つこともございましょう。ですが、私は息子の記憶を封じる所存です。息子が誰も恨まぬように。ひとり悲しみに暮れぬように。彼の心を内から動かす存在に出会うまで、記憶を封じます。彼がその存在に出会えた時、自ずと記憶は戻るはず。ですから、このことは決して、誰にも口外されませんよう・・・・」


ライラの言葉に、ディーンも静かに頷く。

それは、夫婦で下した苦渋の決断だったのだろう。


「・・・・承知した」


マイケルにはただ、そう言って頷く他は無かった。


(私には何もできぬのか、何も・・・・)


握りしめられたマイケルの両の拳は血の気を失って白くなり、沸き起こる悔しさと虚しさで細かに震えていた。


※※※※※※※※※※

重いお話になってしまって、ごめんなさいね。

でもこれが、8年前に両王国に起こった事実なのです。

この事実の上に、今日の平和な両王国が築かれている。

そのことを、あなたにはお話しておきたくて。

結界の外の方々の記憶はライラ様に操作されていますので、ご存じない方がほとんどですから。

ああ、そのようなお顔をなさらないでくださいませ。

これは決して、悲劇の物語ではございませんのよ。

大丈夫ですわ。マイケル国王はお強い方ですから。

でも、そうですわね。

あまり楽しいお話ではございませんので、ロマンス女王のお話は、また次の機会にいたしましょうか。

それでは、ごきげんよう。

また、笑顔でお会いしましょうね。




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