響子さんとデート編
第17話 触りたいなら触ってもいいのよ?
あの一件から数日が経った。
顔の腫れはすっかりと引いて元の顔に戻っていた。
「うん。これなら一緒に歩いても問題なさそうだな」
お礼も兼ねて今日は響子さんとデートをすることになっていた。
あの日、響子さんが言ったように本当に山崎は警察に捕まったみたいだった。どうやら僕以外にもひどいことをしていたようで、それが決め手になったらしい。
そして、響子さん曰く、例の写真はもう山崎の手元にはないということだった。
これで、僕は何にも縛られることなく生きていけるようになったということだ。
本来なら、自分の手で何とかしたいとこだったが、それができなかったので僕は何年も山崎にこき使われてきたのだ。
自分の弱さを痛感するとともに、響子さんに感謝をしなくてはと思った。
「まぁ、あの二人には写真を握られてるんだけどな」
あの二人がネットに写真をばら撒くとかそんな悪質な行為はしないと思っているので今は特に何も言わない。
恥ずかしいけど、そこは僕が我慢すればいいと思っている。
それに山崎に持たれているよりかは幾分かマシだ。
「そろそろ来る頃かな」
そう呟いたところでスマホに響子さんからメッセージが届いた。
どうやらマンションの下に到着したらしい。
僕はそのメッセージに返信をすると下に向かった。
マンションから出るとすぐそばに響子さんのポルシェが停まっていた。
そのポルシェに近づくとサングラスをつけた響子さんが中から出てきた。
「おはようございます」
「おはよう。誠司」
今日の響子さんの服装は黒のボタンリブスリットスカートと無地の黒のプルオーバーニットだった。
スカートは大胆に切れ目が入っていて、そこから見える生足が眩しい。
そんな生足に僕が見入っているのを気がついたのか響子さんは誘うように足を動かした。
「触りたい?」
「はい・・・・・・いいえ」
思わず頷いてしまってから、ダメだと首を横に振った。
「どっちなのよ」
響子さんは可笑しそうに笑った。
「触りたいなら触ってもいいのよ?」
「こ、こんな場所では無理です!」
「ふ〜ん。ここじゃなかったら触るつもりなんだ」
「あ、いや・・・・・・」
「じゃあさ、車の中で触る?」
「触りません!」
「素直じゃないな〜。素直に触りたいって言ってくれれば、好きなだけ触らしてあげるのに」
からかい半分、本気半分。
響子さんが言うことはいつもそんな感じだ。
僕のことをからかって楽しんでいるのと本気で触らせてもいいと思っている。
だからタチが悪い。
半分本気でそれを言ってるから、少しでも気を許してしまえば、その誘惑に負けてしまう。
「ま、いいや。触りたくなったらいつでも言ってね♡ それじゃあ行こっか。デート♡」
車に乗るように促され僕は助手席に乗った。
ああ、ダメだ。どうしても響子さんの生足に目が言ってしまう。
そんな視線に気づかれて「やっぱり触りたいんでしょ」とからかわれた。
僕をからかって楽しそうに笑った響子さんは車を走らせる。
今日はどこに行くのか聞いてはいなかった。
「それでどこに向かってるんですか?」
「まずは映画館」
「映画館・・・・・・てことは映画見るんですか?」
「それ以外にやることある?」
「いや、ないですけど・・・・・・」
奈美さんとのデートした時のことが頭に浮かんだ。
あの時はカップシートに座った。隣に座っている奈美さんに見惚れて映画の内容覚えてないんだよな。
「あ、もちろん座るのはカップルシートだからね♡」
「えっ!?」
「奈美から聞いてるよ。カップルシートに座って一緒に映画見たって」
そういうことか。
てことは俺が上映中ずっと奈美さんの顔を見ていたことも伝わってるんだろうな。
「映画そっちのけでずっと奈美の顔見てたんだって?」
やっぱり伝わってたか・・・・・・恥ずかしい。
響子さんはケラケラと笑う。
「まぁ、その気持ちは分かるけどね〜。奈美可愛いもんね」
奈美さんのことを話している響子さんの横顔は楽しそうだった。
「響子さんって奈美さんの話をしてる時楽しそうですよね」
「そう見える? てか、私の顔見てたの?」
「ち、ちがっ!? くはないですけど・・・・・・」
「あはは。誠司ってからかいがいがあるね〜」
「からかわないでください!」
「ごめんごめん。恥ずかしがる誠司が可愛くて、ついね♡」
そう言った響子さんはチラッと僕の方を見て舌を可愛く出した。
「私が奈美の話をしてる時に楽しそうに見えるのは奈美のことが大好きだからかな。私にとって奈美は大事な妹で心の支えだから。奈美のためだったら私はなんでもやるわ」
奈美さんにとって響子さんは『憧れの存在』で、響子さんにとって奈美さんは『心の支え』か。
お互いのことを思い合ってるいい姉妹なんだな。
そういえば、奈美さんも響子さんの話をしてる時、楽しそうに話してたっけ。
「なんかいいですね。そういうの」
「誠司は兄弟いないの?」
「僕は一人っ子ですね」
「そうなんだ」
信号が赤になり、車が止まる。
響子さんが僕のことを見つめる。
この展開。奈美さんのさんとのデートでもあったな。
なんてことを思ってると、その再現のように響子さんは僕の足に手を置いてきた。
「寂しくなったらいつでも遠慮せずに言うのよ? 奈美も私もすぐに抱きしめに行ってあげるから。私たちのことを本当のお姉さんだと思ってくれていいからね」
そう言って響子さんはニコッと笑った。
お姉さんか。
僕と二人の関係はどう表せばいいのだろうかと思っていたけど、それが一番しっくり来るような気がした。
「あ、でも、お姉さんより、私たちとしては彼女の方が嬉しいかも」
「えっ・・・・・・」
「私も奈美も誠司の彼女になることを望んでるから♡」
「また、そうやって! からかわないでください!」
「残念でした〜。本気だよ。私たちが誠司君の彼女になりたいっていうのは嘘でもからかいでもないよ」
響子さんはサングラスを少しずらし、真剣な眼差しを向けてきた。
奈美さんのルビー色の瞳と違って響子さんの瞳は琥珀色だった。
綺麗な琥珀色の瞳から目が離せなくなる。
しばらく見つめ合っていると響子さんはニコッと微笑みサングラスをもとに戻して車を走らせた。
どうやら、信号が青になったようだ。
映画館に到着するまで僕の目には運転中の響子さんの横顔しか写っていなかった。
☆☆☆
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