第14話 待っててね。今行くから♡
新キャラのキャラが強いかも(笑)
☆☆☆
奈美が誠司と出会う少し前のこと。
『姉さん! 誠司君が、誠司君が!』
電話の向こうの奈美の声は今にも泣き出しそうなほど震えていた。
「まさか、奈美のもとにもあの写真が?」
『……うん』
許さない。
私の大事な大事な奈美のことを悲しませるなんて。
それに、誠司も。こんなに顔を腫らして。かわいそうに。
絶対に許さない。
妹と誠司を傷つけた報いはしっかりと受けてもらう。
「奈美。あなたは誠司のもとに向かいなさい。こっちは私が対処するから。それから、あの男のLINEは消しておきなさい」
『分かった。私は誠司君のもとに向かうね』
「うん。早く行ってあげなさい」
『姉さん』
「何?」
『いつもありがとう。気を付けてね』
「大丈夫よ」
奈美を安心させるために私は優しい声で言った。
「じゃあ、またあとでね」
『うん。またあとでね』
奈美との通話を終えた私はある人物に電話をかたけた。
ニコール目で電話に出た相手は寝起き声だった。
『おはようございます。姉御』
「起こして悪いわね。手伝ってほしいことがあるの」
『大丈夫ですよ。ちょうど起きようと思ってたところですから。ところで姉御何か怒ってます?』
「分かる?」
『分かりますよ。姉御と何年一緒にいると思ってるんですか』
電話の向こうの相手は男。
名前は
己龍とは数年来の付き合いだ。
腕っぷしが強くて、しっかり者の私のボディーガード。
「そうね」
『で、何に怒ってるんですか?』
私は己龍に何があったのかを話した。
『なるほど。姉御にもとうとう運命の相手が現れたというわけですか』
己龍は私を茶化すように笑った。
『了解です。すぐに準備して向かいます。呼び出された場所の住所を送っておいてください』
「いつもありがとね。己龍」
『何言ってんすか。俺は姉御に救われたんすよ。だから、その恩返しをするのは当たり前です。まぁ、一生かけても返しきれないと思いますけどね』
「それは大袈裟よ。あなたはもう一人前なんだから、いつでも私から離れていいのよ?」
『そんな寂しいこと言わないでくださいよ。俺は姉御に人生を捧げてるんですから。俺に彼女ができても、姉御に彼氏ができても、俺は姉御についていきますよ』
「その時は彼女を優先しなさい」
私が茶化し返すと己龍は楽し気に笑った。
「じゃあ、頼んだわよ」
『了解です』
己龍と電話を終えた私も着替えをして家を出ることにした。
胸元と背中が大胆に開いた真っ赤なドレス。
先日、誠司と出会った合コンで着たドレスだ。
そのドレスに着替えて私は愛車の黒のポルシェに乗ると、あの男に呼び出された場所へと向かった。
「姉御。こっちです」
私が呼び出された場所は人気のない倉庫だった。
少し離れた場所に車を停めて、先に到着していた己龍と合流した。
己龍はいつもの黒スーツに黒手袋姿だった。
「こんなところに姉御を呼び出して何をする気なんですかね?」
「そんなの決まってるじゃない。こんな人気のないところに呼び出してやることなんて一つしかないじゃない」
「あ~なるほど。姉御は美人っすもんね」
己龍は私の横顔を見て、納得と頷いた。
「まぁ、俺がいるから大丈夫ですよ」
「そこに関しては何も心配してないわ」
「信頼してくれてるんすね」
「当然じゃない」
己龍以外にも信頼できる人は何人かいるが、腕っぷしでなら己龍の右に出るものはいない。
「姉御に褒められると嬉しいっすね。しっかりと守らせてもらいますよ」
「頼んだわ。それじゃあ、行きましょうか」
「了解です」
私の一歩後ろを己龍はついてくる。
へらへらとその顔は笑っているが、しっかりと周りに目を光らせている。
私に何かあった時のためにすぐに助けれるように。
そんな己龍に安心感を覚えつつ、私はヒールを鳴らしながら倉庫の中へと入った。
倉庫の中は薄暗かった。
廃倉庫。そんな言葉がピッタリな場所だった。
そんな倉庫の真ん中に私のことを待っていた山崎とその取り巻き二人がいた。
三人ともあの時の合コンで見た顔だ。
「お、来た来た」
「うひょ~。この前の合コンでも思ったけど、めっちゃ色気あんな~」
「今からこの女を……」
山崎たちの顔を見たその瞬間、私は怒りに身を任せそうになった。
「姉御。落ち着いてください」
そんな私に気が付いて後ろから己龍が声かけてきてくれた。
それで少しだけ冷静になる。
山崎たちはまだ己龍に気づいていない様子だった。
三人は私のことを下から上まで舐めるように見てニヤニヤと笑っている。
「あんた流川とヤったんだろ?」
山崎が一歩前に出てきてそう言った。
その顔は下品な笑みを浮かべている。
何を勘違いしているのか分からないが私は誠司とはまだヤっていない。
「だったら俺たちにもヤら……」
山崎が下劣な言葉を言い切る前に、私の隣を颯爽と走り抜けていった己龍が、その顔面に綺麗なパンチを食らわせた。
突然のことで何もできなかった山崎は後方数メートルに吹き飛んだ。
「落ち着きなさいって言ったのはどこの誰よ。まったく」
私は呆れながらそう呟いた。
「姉御をそこらへんのビッチと一緒にすんじゃねぇ」
己龍の怒りの籠った低い声が倉庫の中に響いた。
「姉御に相手をしてもらいてぇなら、まずは気に入られろ。こんなクズみてぇなやり方じゃなくてな」
「何言ってんのよバカ」
私は先走った己龍の頭を叩いた。
「痛いじゃないですか。何するんですか」
「落ち着きなさいって言ったのはあなたでしょ」
「仕方ないじゃないですか。姉御のことをバカにされたら体が勝手に動いたんですから」
「はぁ~。まぁいいわ。どうせ誠司にしたことの倍返しをするつもりだったし」
己龍に吹き飛ばされて床に横たわっている山崎のもとに近寄った。
「覚悟はできてるんでしょうね。私の大事な人を二人を悲しませたんだ。この程度でで帰れると思うなよ。後ろの二人もよ」
私は山崎のことを見下ろしながら冷たい声でそう言った。
山崎が私のことを睨みつけて言う。
「な、なんなんだよ! なんであいつなんかのために……」
「そんなの決まってるじゃない。誠司のことが好きだからよ。それ以外に理由がいる?」
「ふざけんな! あいつなんかより俺の方がイケメンだろ!」
「どうでもいいわそんなこと。それに、あんたなんかより誠司の方がイケメンよ。あんた自分の顔見たことがあるの?」
私は山崎のことをバカにするように笑った。
誠司だってこの前の合コンでバカにされて笑われていたのだ。このくらいでは足りない。
「姉御。こいつらどうします? 逃げようとしてましたけど」
己龍が逃げようとしていた取り巻き二人の首根っこを捕まえて聞いてきた。
「そうね~。とりあえず、半殺しにしましょうか。本当に死なれたら私たちが犯罪者になっちゃうからね」
「了解っす。とりあえず、自慢っぽいこの顔はボコボコにしておきますね」
「あんまりやりすぎちゃダメよ」
「分かってますって」
三人を懲らしめるのは己龍に任せて、私は山崎から送られてきたメッセージに書かれていて『誠司の恥ずかしい写真』というのを山崎のスマホから探し出すことにした。
「己龍、そいつスマホ持ってるはずだから探してくれない?」
「了解っす」と己龍は山崎のポケットに手を入れてスマホを取り出して私に渡してくれた。
山崎のスマホにはパスコードがかかっていた。
「パスコードも聞き出してくれない?」
「おい、パスコードを教えろ」
己龍に殴られてすっかりと腫れあがった山崎の唇がもぞもぞと動く。
「七が四つらしいです」
「了解」
私はパスコードを入力すると、写真フォルダを見た。
一番最初に表示されたのは私たちに送られてきた顔を腫れあがらせた誠司の写真だった。
ああ、かわいそうな誠司。大丈夫かしら。ちゃんと奈美は誠司に会えたかしら。
私はその写真を消した。
「こいつ最低なやつね」
山崎の写真フォルダには誠司以外にもいじめにあっているらしい子の写真が一杯あった。中には女性の恥ずかしい写真もあった。
「クズが」
そう吐き捨てた私はその写真を全部消そうと思ったが、やめた。
これは証拠になる。
後であの子に来てもらおう。
そんな写真を見ながら私は誠司の写真を探した。
そして、見つけた。山崎が言っていた誠司の恥ずかしい写真を。
「これはっ……可愛い♡」
私はすぐさまのその写真を自分のスマホに送って保存した。もちろん山崎のスマホからは削除した。
「いいものを見ちゃった♡」
用済みになったスマホを己龍に返した。
「これはどうしますか? 壊しますか?」
「いや、そのままにしておいて。後で、彼女に来てもらうから」
「あ~了解です。俺、あの人苦手なんですよね~」
「あら、そうなの? 素直でいい子なのに」
「素直すぎるんですよね」
「そういえば、己龍はあの子に惚れられてるんだったわね」
「そうなんすよ」
山崎の背中の上に座っている己龍は苦笑いを浮かべた。
「でも、彼女が来るなら俺は残ってますよ。姉御は運命の相手のところに行ってあげてください」
己龍はすでに三人を半殺しにし終えていた。
三人の顔はすっかりと腫れあがていて、誠司よりもひどい顔になっていた。
「そうね。じゃあ、後は任せてもいいかしら」
「大丈夫っすよ」
「もう、それ以上はやらなくていいからね」
「分かってますって。さすがにこれ以上すると死んじゃいますから」
「それが分かってるならいいわ。じゃあ、またね」
私は己龍に見送られながら倉庫を後にした。
ポルシェに乗って、誠司の家を目指す。
「待っててね。今行くから♡ それにしてもいいものを見つけちゃったな~」
確かにこれは男の子がやるには恥ずかしいかもね。
別に私は変とは思わないけど。むしろ、恥ずかしがってる誠司が最高に可愛いと思ってしまった。
『誠司の恥ずかしい写真』とは、文化祭で誠司がバニーガールの恰好をした写真だった。
☆☆☆
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