第13話 誠司君は私たちに溺れなさい♪
前半部分は嫌な人は嫌な話かもです。
その辺をご了承の上、お読みください。
あ、でも13話だけなのでご安心を(笑)
☆☆☆
「おい流川。ちょっとツラ貸せよ」
二限目の講義が終わったところで、山崎に声をかけられた。
「な、なに……」
「いいからついて来いよ」
黙ってついて来いと言わんばかりに山崎は入口に向かった。
その背中を追うしか選択肢がない僕は山崎についていく。
山崎の後をついていて行きついた先は人気の少ない場所だった。
山崎の他にもそこには二人いた。先日、合コンに参加していたやつらだった。
「俺がなんでお前のことを呼び出したのか分かってるよな?」
分からない僕は首を振る。
本当に呼び出された理由は分からない。
あるとするなら、あの写真の件くらいだ。
「チッ。先日の合コンの件だ。お前とあの女のせいで、あの後どうなったか分かるか?」
「さ、さぁ……」
「台無しだよ。台無し! お前とあの女のせいでな」
山崎は怒気を孕んだ声でそう言うと睨みつけてきた。
睨みつけられても困る。
僕は何も悪いことはしていない。むしろ、バカにされた僕の方が怒るのが道理というものなんじゃないだろうか。もちろん怒ったりなんかしないけど。
「で、お前あの後、あの女とヤったのか?」
「はぁ!? 何言ってんだよ!?」
僕は思いっきり動揺する。
「なわけないよな。お前みたいなダサいやつがあんな上玉とできるわけないよな」
山崎は僕のことを指さすと腹を抱えて笑った。他の二人も僕をバカにするように笑っている。
「あ~腹いてぇ~。そして、お前の顔見てたらムカついてきたわ。殴らせろよ」
ひとしきり僕のことをバカにしたように笑った山崎はそう言って、僕の腹を殴ってきた。
「うぐっ……」
「前の席の女とせっかくいい感じだったのによ。お前のせいで台無しになったんだよ。分かるか? この気持ちが。分かんねぇよな。お前みたいなダサいやつには」
山崎はさらに何発か僕の腹にパンチをした。
耐えきれなくなった僕は地面に倒れこむ。
「なぁ、俺らもやっていいか?」
「おう、やれやれ。どうせ、こいつを痛めつけても俺たちに危害が加わることはないからな。俺はこいつの弱みを握ってるし、こいつは誰かに助けを求められるようなやつじゃないしな」
ケラケラと笑う山崎に加え、取り巻きの二人も僕のことを殴ったり蹴ったりしてきた。
「おい、こいつのスマホを取り出せ。もしかしたら、あの女の連絡先を持ってるかもしれねぇ」
どれだけ殴られただろうか。もう痛みも感じないくらいに感覚がない。
体も頭も動かない。
取り巻きの一人が僕のポケットからスマホを取り出した。
「なぁ、これじゃねぇか?」
「おいおい。なんだこのやり取り。こいつまさかあの女とヤったのか」
「見せろ!」
薄目を開けていることで精一杯だった。
おそらく、山崎はあのメッセージを見たのだろう。
山崎はニヤッと笑って時分のスマホを取り出した。
「お前みたいなダサいやつにあの女はもったいねぇよ。だから、俺がもらってやる」
「おい、山崎。もう一人ヤバいやつがいるぞ」
「へぇ~。お前も意外と隅に置けないやつだな。安心しろ。この女も俺たちがもらってやるから。お前は、そこで指でも加えてな」
カシャっと僕の無様な姿をスマホに収めた山崎たちは、僕のスマホをお腹の上に頬り投げると立ち去って行った。
ゆっくりと腕を動かしてスマホを手に取る。
「最悪だ……」
開いてすぐ現れたのは、奈美さんのLINEのトップ画だった。
☆☆☆
痛みがおさまってきて歩けるようになったのは数十分後だった。
まだ、出なければいけない講義が残っていたが、この顔ではとてもじゃないが出れないと僕は家に向かって歩いていた。
トイレの鏡で自分の顔を見たがひどいものだった。ところどころ赤く腫れあがっていて見るに堪えなかった。
まさか、山崎があそこまで凶暴なやつだったとは思わなかった。
高校の時は殴られたことなんてなかった。せいぜいパシリにされていたくらいだ。
「くそっ……」
僕が強ければ、あんなやつに奈美さんの連絡先を知られずにすんだのに。
「あの人にも迷惑をかけることになる」
たしか、響子さんという名前だったよな。
あれから一度も連絡はしてないが、僕と関わったせいで面倒なことに巻き込んでしまった。
ゆっくりとした足取りでマンションを目指していると、見覚えのある車がすぐそばで停まった。
水色のポルシェ……。
僕が今、最も顔を合わせたくない相手が運転席から降りてきた。
カツカツとヒールを鳴らしながら僕の方に向かって走ってくる。
「誠司君!」
そして、その勢いのままに抱きついてきた。
柔らかなおっぱいに顔が埋まる。
今ばかりはやめていただきたかった。至福な感触なんだけど、痛い……。
「な、奈美さん。痛いので、そのやめてもらいたいです」
「あ、ごめんなさい」
奈美さんは少し離れると、僕の顔の腫れているところを優しく触れた。
「痛っ……」
「許さない。誠司君の可愛いお顔をこんなにして。絶対に許さない」
そう言った奈美さんの怒りに満ちていた。
奈美さんの怒ったところを初めて見た。怒っている奈美さんの顔も美しかった。
そんなことより、なぜ奈美さんがここに?
しかも、僕の身に何が起きたのかを知っているようなこの口ぶりは……。
まさか山崎のやつ、もう奈美さんたちに連絡を?
「死ぬまで後悔させてやるんだから」
「な、奈美さん……もしかして何か知ってますか?」
「私に力があれば今すぐに復讐しに行くのに」
僕の言葉は奈美さんに届いていない様子だった。
奈美さんは一人でぶつぶつと呟いていた。
「でも、私にそんな力はないから復讐は姉さんに任せるわ。その代わり私は誠司君のことを思いっきり甘やかして癒してあげるの」
復讐は姉さんに任せる?
僕のことを甘やかして、癒す?
奈美さんの呟きに耳を傾けていると、またしても奈美さんに抱きしめられた。
しかし、さっきのように勢いに任せた抱擁ではなく、僕のことを包み込むような、そんな優しい抱擁だった。
「大丈夫。何があっても私たちが誠司君のことを守るから。だから、私たちに任せて。誠司君は私たちに溺れなさい♪」
優しい抱擁に頭がふわふわとしていた僕は奈美さんのその言葉に無意識に頷いていた。
もう、何もかもどうでもよくなった。
あいつに従うのはもうやめよう。
あの写真もばら撒かれてもいい。
今はただ、奈美さんに優しく包まれていたかった。
☆☆☆
次回は姉さんの反撃編です!
カッコよく書きます!(笑)
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