第20話 わたしが溶けちゃいますから――――!!!

「皆様遺恨なく愛する方との仲が深まったようで良かったです」


 にっこり微笑んで生徒会室を出ようとするわたしを、アポロニウス王子が見送ると言って追い掛けて来た。辞去の挨拶をして生徒会室の扉を閉めるなり、王子がいそいそと口を開く。


「まさかワインをあんな風に使うつもりだったなんて思ってもみなかったぞ。解決策に自信があるからこその祝賀用ワインかと思っていれば……まさか叔父上にっ」


 くつくつと喉を鳴らしている。どうやら、本命は見送りではなくこちらの方だったらしい。


「言わないでくださいね。今日のジアルフィー嬢との話で、自分の女子力の低さに改めて打ちのめされているところなんですから。まさか童話のお姫様の展開があるなんて思ってもみませんでしたよ!しかも口付けなんて……」


 後輩にすっかり先を越されてしまったわ。ちょっと前まではユリアン含めての三角関係でバタバタやってたはずなのに、いつの間にかうまく収まってるんだもの。


「童話なんて何の実利もないから、読んでなかったのに、その中にまさかヒントがあったなんて知らなかったわ」

「そんな大層なモノじゃないと思うぞ」


 悔しくて顔を覆って項垂れたわたしに、アポロニウス王子が苦笑交じりに声を掛けて来る――それすら悔しい。くぅっ……。


「ま、それがセレらしくて良いよね」

「え!?な……ハディ!じゃなくってハディアベス閣下?」


 いきなり響いた声は、卒業祝賀夜会で言葉を交わしたきり、バンブリア邸に戻る間もなく騎士団を率いてかぐや姫騒動の後始末に奔走していたハディスだ。

 久々に見るハディスの顔は幾分か疲れが滲んでいて、夜会の後、休む間もなく働き詰めだったことが良く分かる。けど、これだけわたしをモヤモヤ悶々させておいて、ただ爽やかにいつも通りに登場されても素直に喜んだりなんて出来ないワケで――


「御冗談は程々になさってくださいませ?わたし本当に大変だったんですから。手作りカツサンドを作って食べさせて差し上げたり、御髪を梳いて差し上げたり、ブーツの紐も結んで差し上げましたわねー。そんなアレコレをして差し上げるだけじゃなく、原因探しも一緒にやることになって大変だったんですよ!それだけ甲斐甲斐しくお世話をするわたしにハディって呼ぶなとも言われましたし全く報われないったらないですよね!だから正気に戻ったハディアベス閣下を羨ましがらせようと思って日記にやったことを事細かに記したんですよ!それなのにっ……童話の内容なんて思い出す気持ちの余裕なんてあったはずないじゃないですかぁぁぁ」


 へにゃりと眉尻の下がった困り顔で柔らかく口角を上げるハディスの笑顔を見てたら、言葉が次々に溢れて、ついでに目からもぼろぼろと滴があふれ出して来た。


「だからぁ―――、僕も一刻も早くセレに逢いたくって、変異の後始末を片付けた足でそのままやって来たんだからさ」


 言いながら頭に大きな掌を乗せ、ポンポンと軽く手を動かして撫でてくれる。小声で「枷もなくなったし」って聞こえたけどどう云うこと?聞きたいけど泣きすぎて喉の奥が熱くて声が出ないから、ただひっく・なんてしゃくり上げただけみたいになっちゃう。


「その日記、部屋に戻ったら一緒に読もう?残念だけど僕は何一つ覚えていないんだもん。だからさ、これからもう一度再現して欲しいな?セレが僕じゃない何かに、さっき言ったみたいなことをしてやったと思うと――ねぇ?上書きしなくちゃね」

「ひっく。は……?は……ディアベス閣下?」

「それはハディで」


 なんだろう?優しげだった笑みが黒くしか見えなくなってるわ。

 これは……貴族らしい微笑アルカイックスマイルなのに怒ってる?右大臣阿倍御主人に乗っ取られていた状態の怒りの表情は分かり易すぎたけど、今の笑顔の方が、とんでもない憤怒を抱えているように見えるんですけど―――!?


「あーそれと。呪いを解く方法も、もしかしたら間違ってたかもしれないね」

「っへ?」

 ぱく


 と、テンポよく繰り出された一連の動作に思考回路が静止する。

 いつの間にかアポロニウス王子は、わたし達から距離を取って後ろを向いている。


 間抜けに半開きだった口に噛み付かれた……だと?


「んー?やっぱり解けてるみたい」


 鼻先がくっつきそうな至近距離で、今度こそ蕩けそうな本当の笑顔が視界を埋める。


「わたしが溶けちゃいますから――――!!!」


 廊下に響き渡った声が、もう一度途切れたのはその後すぐのこと。







 女神が『かぐや姫』なんて!後日譚

 《完》





―――――――――――――――――――――――――



本編に引き続き、後日譚を最終話までお読みいただき感謝です!




本編で書ききれなかったハディスとセレネの婚約後の様子や因縁の卒業祝賀夜会と、かぐや姫と帝のその後でした。お楽しみいただけたなら幸いです。


番外編を始めてから、また新たに本編を読み始めてくださった方もおられるようで、本当に嬉しく思っております!


本編連載終了後からセレネのお話をお待ちくださった皆様、番外編の更新情報で新たにこのお話に興味を持ってくださった皆様へ、ありったけの「ありがとうございます!」を伝えたいです。




オルフェンズにも番外編でもう少し触れられたら……と思うのですが、セレネ&ハディスでしょうか。また何か書きましたら公開させていただきます。


ぜひブクマはそのままで……(。>ㅅ<。)






■ お願い ■




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次の番外編・後日譚への活力と云うことで、何卒……ご評価の程、よろしくお願いいたします!!




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女神が『かぐや姫』なんて! 弥生ちえ @YayoiChie

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