第19話 令嬢たちは『真実の愛の試練』に挑む!そして、わたしは打ちのめされる……。

 故に導き出されたハーレム解散に向けての計画―――それはズバリ帝とかぐや姫に誠心誠意ひたすら『謝る』こと!!「ひたすら謝りなさい!!!許されるまで帰ることは許しません!」とは母オウナが父を送り出した時の言葉だ。商人は信用が第一なのに、うっかりとは言え、他人の大切なモノを傷つけて知らぬ存ぜぬで新たな商売の糧にすることは断固として認められないのだと凄い剣幕だったわ……。


 そう言いつつも、王子とお父様の後を追って行く姿が見えたから、お母様も激怒しているだけじゃなく、ちゃんと心配しているんだろう。帝たちに渡すと言って、菓子折りを用意していたのは理解できなかったけどね。お母様にお2人は見えないだろうし、どうするのかしら。



 そして、ぐるりと周囲を見渡せば、ここだけでなく、ホール内のあちこちで婚約破棄と婚約解消の申し出による騒動が繰り広げられている。

 そのどれもが令息からご令嬢に向けての一方的な宣言で、令息の真実の愛の相手は何れのペアの元にも存在していない。


 ――婚約破棄のバーゲンセールなの?なんのお祭り騒ぎだって言うのよ。ったく我儘なお姫様のせいで……。



 で・も・ここからが見ものよ!



 今回の騒動の被害者となったご令嬢達にもしっかりと女神による『真実の愛の試練』の解き方は伝えてある。

 かぐや姫と帝の引き起こしたハーレム騒ぎは、様々な王国上層部の思惑により、女神や帝の威厳を貶めるものにはしたくないとの意図が働いて、真実を微妙に逸らした情報が拡散された。

 その情報って言うのが、昨年の婚約破棄騒ぎを憂いた女神が、真実の愛を今一度確かめ合うために、愛をぶつけて目を覚まさせる試練を与えた―――そんな眉唾物のお話。


 半信半疑だったご令嬢方も、わたしとハディスの顛末を見て、実行の覚悟が出来たんだろう。

 あちこちで婚約破棄を告げてきた令息に強い瞳を向けるご令嬢の姿が見受けられる。

 大丈夫!!ピッチャーとワインは充分な量を用意したわ!皆さんも、ここ1週間の憂さを晴らすといいわ!!


 そして――――






 わたしは打ちのめされることになった。






「わたしくをお忘れですか!?って口付けをしましたらなんと、正気を取り戻されたのです!」


 弾む声でキャッキャと報告してくれるのは、今回のハーレム構成員の一人だったカインザ・ホーマーズの婚約者メリリアン・ジアルフィー子爵令嬢だ。


 卒業祝賀夜会の翌日、放課後の生徒会室に集まっているのは、新生徒会メンバーと、新生徒会長アポロニウス王子、そして彼の側近候補達と、今回の騒動に巻き込まれたその婚約者および彼女とわたしの友人と主張する1人――ユリアンだ。友人ではないけど、カインザとメリリアンには少なからず関わりがある彼女なので、女神の試練である『真実の愛』とやらの行方がどうなったのかの確認も兼ねて同席を許可したのだけれど……。


「「負けたわ……」」


 期せずユリアンと声が重なって、揃って顔を見合わせる。

 卒業祝賀夜会に参加していた被害者たちの顛末は、ほぼ同様の解決策くちづけを解き、元サヤに収まったのは見届けた。

 けれど、後輩たちは……と心配になって、わたしの卒業後、順当に生徒会長になったアポロニウス王子に頼んで後輩の様子を見にやって来たのだ。

 卒業生をはじめとしたお姉様方に濃厚な愛の確認方法があったことは、まぁ、順当なところなのだろうとは思う。けどまさか、後輩達までもが口付けなんて甘い方法を取っていたなんて――――!

 わたしは残酷な事実に打ちのめされていた。


「だって、呪いのかかった愛するお方を救うのは、いつだって愛する思いを込めた口付けではありませんか。まさかわたくし自身が童話のお姫様の立場になるだなんて思ってもみませんでしたけれど、それだけわたくしも想われていたんだって実感出来て嬉しかったんです」


 愛らしく薔薇色に頬を染める彼女の可愛さに、更に敗北感が増す。


 ユリアンも、2人が上手くいったのは理解しているようで、カインザから手を引くことと、文化体育発表会の歌劇での評価の高かった歌に力を入れ、卒業までの1年で有望なパトロンに成り得る高位貴族を捕まえて、多数の男性を魅了し傅かれるプリマドンナを目指すのだと伝えて来た。目下の魅了したい第一候補はヘリオスらしい。しかしうちは子爵に上がることは決まっているけど、高位ではない。「また本命以外のキープにうちの天使を取り込もうと企むなんて、それは宣戦布告だと受け取ったらいいのかしら」と呟いていたら、王子は「パトロンは財力目当てなだけだから、本命がヘリオスだろう」って楽し気に笑っていたわ。

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