第17話 かぐや姫の脅威の正体は意外なところに転がっていた!

 あとは、彼らが繰り返さないように原因を断たなければならない訳だけれど……そちらの方が問題だ。多分、わたしならハディス1人を助けることは出来る。けど、この数日間だけで引き寄せられた人数を思うと、かぐや姫が護衛を集めようとするのを止めさせなければ被害は広がり続けてしまう。根本的解決には、彼女が恐れるモノを排除してやらないと駄目ってことだ。本当に手のかかるお姫様だわ。


 カタリ……


 静かに側の部屋の扉が開く。


「お姉さま?これはいったい」

「セレネ?ハディアベス閣下と喧嘩かい?」


 眉を顰めるヘリオスと、のんびりニコニコ微笑む父テラスが、腕を組んで溜息を吐いたわたしに近付いて来る。

 ハディスこと右大臣阿倍御主人あべのみうしと言い争っているあたりから気配には気付いていたけれど、明日を卒業祝賀夜会に控えた今は、ちょっとの手掛かりを得る時間が大切だったから敢えて無視させてもらった。言い合っている相手は気付いていないみたかったけどね。そこはやっぱりハディスとは違うわ。


「2人が研究で籠っている間に、ちょっとしたトラブルがあったんです。解決まであと一息のところまで来ているんですけど、決定的なピースが足りなくて――あれ?その手の中の物は何ですの?」


 ヘリオスの手の中には小振りな発光体が握り込まれている。

 電球と云うよりもサイリウムに近い物だ。これを集めていた竹から作り上げていたのね!


 魔法の文化のこの世界で、まさかエジソンみたいな発想に行き着くなんて思ってもみなかったわ。

 相変わらずうちの男性陣の思い付きと研究心は凄すぎる!鬱々した気持ちがいっぺんに吹き飛んでしまう物を創り出す素敵な開発者さんたちね。


「これが今回の研究成果ね!わたしの読み通り、2人が卒業祝賀夜会に間に合う今日で良かったわ。まぁ、開催自体が怪しい状況ではあるんだけどね」

「お姉さま?何があったんですか」


 ヘリオスの言葉に、また悪い思考がぶり返す。


 古代のすごい魔法には勝てないってところかしら……もう少しって気がしているだけに悔しいわ。最悪元を断つのは夜会以降にして現状のみの対処で取り敢えずの夜会を乗り切る?けどそれじゃあ国王に挨拶に行ってしまう高位貴族の招待客や父兄に被害が広がるわね。ううん、スバルのところみたいな遠方の方々はもういらしていて、異変が起こり始めてるわ。このままじゃあ間違いなく中止の連絡が来ちゃうわ……一刻も早く解決しないと――……


「なんでもないわよ、ちょっとバーンと派手にやりあっちゃったって言うか?ハーレムにどーんと突入して、この泥棒猫――って叫んだら何とかなるかなーなんて思ったり」

「お姉さま?隠し事がありますよね?」


 ヘリオスの天使ボイスが低い……地を這ってる。

 そろりと表情を窺えば、瑪瑙色の瞳が愛らしいはずの目が据わってるわ。


 ぱっと目を逸らして2人の背後、ちょっと前までヘリオスとお父様が引き籠っていた部屋の開け放たれた扉から見える室内へ視線を向ける。

 現実逃避?ううん、有効な回避行動よ!


「お姉さま?」

「―――っ、ヘリオス……いいえ、お父様?あれって……」


 目を逸らした先の、いつの間にか第2試作室にされていた玄関ホール近くの部屋――そこにあったのは、素材である山盛りの竹の束と試作品の山。


 胸騒ぎがして、ヘリオスの声を無視して室内に踏み入り、机上や床に転がっている試作品の数々を眺めて回る。

 サイリウムや電気のフィラメントの様に加工された物も勿論多いけれど、それよりも群を抜いて多かったのは――――裂けた竹。

 一節だけ切った竹に切り込みを入れた物が山の様に積み上がっている。

 まるで裂くことによって何か変化が起こることを確信しているかの様に、そんな形状の物ばかりが多種多様な竹で作られ、打ち捨てられている。


「これは……」


 足元の一つを取り上げると、益々見覚えのある形状に嫌な予感が確信へと変わって行く。


 新規開発品完成の興奮冷めやらない父テラスが、わたしの手の中の物を見付けて、得意げに近付いて来る。解説をしたいらしい。いつものことだけど、今日はちょっと時間が足りないから程々でお願いしたい。


「割ったところから発光する竹があるはずだったんだが、どうにも見付からないし、上手く加工出来ていないせいかもしれないと方向性を変えてみたんだ!そしたらこんな風に上手くいったんだよ!見てくれ、魔力を使わないから黒い魔力を発生させない、クリーンなエネルギーでの照明器具を!!」

「待って待って、お父様!それってもしかして……発想の元って―――」


 原因を見つけた―――――!!!

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