第14話 大人数での『だるまさんが転んだ』は、さぞやりがいがあるでしょう。
これまで円形庭園に集まる人と言えば、王城に仕事があったり、王様と直接謁見出来るような高位貴族だけだった。けれどここへ来て、隣接する王立貴族学園の令息までもが加わりだしてしまった。
「防犯的にどうなんですか?」
「……騎士団から女性隊員だけを中枢の警護には当たらせているが、人数的に苦しいな」
それも仕方ないだろうな、とは思う。官吏や使用人の男女比は半々に近いけれど、騎士団の様に体力武力を要する部門では、女性の方が少数なのは事実だから。暗にこの場所はかぐや姫と帝に明け渡す状態になったと言っているのか……死後も尚、人々を動かす力があるなんて恐ろしすぎる開祖だ。なんて人騒がせな。
「何でかぐや姫はいきなりハーレムを作り始めたんだと思います?昨日アポロン様が交渉した時、何か理由を言ってましたか?」
「私は『帰らせてやってくれ』と要望を伝えたのみだが、理由らしきものは何も――と言うか、石ではなく、
「恐らく。ネズミはハディス様の魔力の化身だから、あの黄金色のネズミから感じる魔力から、ハディス様の分を差し引いて感じ取ると、何度か触れる機会のあった帝の魔力とよく似てます。かぐや姫は、あのネズミが抱えている竹から出ている弱い魔力が、獅子の中で触れたかぐや姫の魔力と同じです」
それに「光る竹」なんて御伽噺と同じモチーフなんだもの。間違いないでしょ。
王子だって薄々気付いてはいたんだろうけど「やはりそうか……」なんて頭を抱え込んでしまったわ。
「それでですね、こんな風に無言、無反応でフラフラされると生ける屍みたいでとっても気持ちが悪いんですよ。ハディス様だけかと思っていたら、惹き寄せられて来た学園の令息たちや、ミワロマイレまで同じ状態だって聞いています。他の人達もきっとそうですよね?なのでもう少し自分の意思を表せるように調整がつかないか伝えてもらえませんか?」
ベストは術を解いてもらう事だけれど、ネズミ達は王子が何度訴えても聞き入れてはくれないらしい。対策は近衛騎士団までもがハーレムの一員に成り果ててしまった時点で暗礁に乗り上げている。だからこそ、意外性の力を持つわたしに賭けてみたいとアポロニウス王子は言うけれど――何故!?解せぬ。
まぁ、そんな訳で、交渉可能な相手ならば妥協案を受け入れてくれる様、働き掛けるしかないじゃない?
「――中途半端な解決策がどう転ぶか不安が大きすぎるが……現状打破に動くにしても、女神の影響を受けずに自由に動けて、尚且つ強力な魔力を持つ者は、私とバンブリア嬢、そしてオルフェンズ殿しか居ないからな」
「オルフェは動かないですよ?この状況に対しては無関心ですから。ハディスがおかしくなってからは特に絡んでもいないみたいだし、静かすぎるくらいだわ」
隙あらば攻撃と云う名の、ハリのある日常を提供しようとするオルフェンズが、ここ4日間静かなのだ。やっぱりハディスと仲良しの身としては、魅了(?)でボ――――ッとした状態の彼はつまらないのかもしれない。
「特に良い解決策が有る訳ではないからな……。わかった。交渉して来よう。だがセレネ嬢は近付くなよ?」
酷いなぁ、アポロニウス王子はわたしを何だと思ってるんだろう。
「昨日の一触即発状態を、この人数で作り出すのは止めてくれ」
「分かっておりますわ。この大人数での『だるまさんが転んだ』は、さぞやりがいがあるでしょうけど、我慢いたします!」
はっきりきっぱり力強く言ったのに、胡乱な視線が投げ掛けられた。
ホント、失礼しちゃうわ。
そうして王子が円形庭園中央に集う男性陣の狭い間を縫う様に進み、帝石と女神の御石の前で暫く何事かを話す。わたしはその交渉が上手く行く様に祈りつつ、ただ静かに待つだけだ。
待ちきれなかったわたしが、そっと庭園の芝に足を踏み入れようとした途端、間近の10人位が凄まじい形相で威嚇するようにこちらへグルリンッと顔だけを向けて来て、慌ててその足を地面に付けずに引き戻したのは内緒だ。下手な怪談よりも怖かったわ……。
「多分、聞き入れてもらえたと思う」
戻って来たアポロニウス王子が呟くのを皮切りに、あちこちからザワザワと男たちの雑多な言葉が漏れ始めた。
「良かった、これでちょっとは人間らしくなったかしら」
「だと良いが」
不安気なアポロニウス王子と共に、わたしは随分賑やかになった庭園を後にした。
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