第7話 弱化黄金ぴかぴかフラッシュ!!

 我ら?我が君?ムルキャンの言う我が君って、イシケナルのことよね?


「セレネ嬢、確かに公爵はそこに居るな」

「へ?」


 間の抜けた声が零れ出たのは仕方ない。確かに二列目くらいに紫髪の大分見慣れた顔はある。ついでに言うなら黄髪の長身美丈夫も、藍色髪の中性的な美人さんも見付けた……それはさておき。なんで隣の領地の公爵で、しかも魅了の魔力持ちのイシケナルがわざわざ王都にやって来て、他人のハーレムの一員になってるの??


「やだぁ、魅了勝負のガチンコ対決の結果の完全敗北ってこと?」

「んなぁぁぁっっ!!!」

「ちょ……セレネ嬢!?」

「あ」


 しまった、またポロリンと思ったまんまが零れ落ちてた……。笑って誤魔化せないかな?生成なまなりの怒り顔が、半端無く人外で怖すぎるんですけど!?


「てっ……てへ?」

「こぉーむぅーすぅーめぇぇぇ―――ぃ!!」


 ムルキャンの四肢が、彼の怒りに呼応してピキパキと音をたてながら変化して行く。最初は、色合いは土気色だったり緑だったりしたけど、まあ、人間っぽかった。けど今は、脚がタコのようにうねり、木の根のようにしなって這うスタイルに変わり、全身のあちこちに棘が突き出たり、腕が増えたりしてる……。顔はムルキャンのままなのがシュールだ。口は大きく裂けてるけど。


「うわぁ、おっきなお口ー……。どうして貴方のお口はそんなに大きいのー?」

「生意気な小娘めぇぇぇぃ……!今度と言う今度は、お前のその減らず口を叩けなくしてやるわぁぁぁぁ!!!」


 ムルキャンの脚がわりの根が、一気に四方へ広がり、わたし目掛けて伸びて来る。


「おい!守り人!!ここは城中だぞ!!!」

「問答無用ってワケね!いいわ、受けて立って差し上げるわ!!」

「差し上げるな!!!」

「むっふぅ、その言葉ぁぁぁ!後悔させてやるぞぉぉぁあ!!」

「ふんっ!そっくりそのままお返しするわ!!」


 全体像を見れば怯みそうになる人外要素満載なムルキャンだけれど、攻撃は目に見える打撃と突きだ。視力と全身の筋力を強化して避けつつ、懐に入り込んでの・


「お前たち、いい加減にしないかぁぁぁ――――――っっ!!!」


 珍しいアポロニウス王子の怒声と共に、金色の閃光が辺り一面を覆って、ビカビカと明滅した。


 アポロニウス王子の使う魔法、『弱化』が顕現した光だ。


 オルフェンズの白銀色の魔力とは似ても似つかない力強い輝きに全身が包まれる。けど覆われた時の嫌悪感は他と一緒で最悪だ。他人の魔力ってどうしてこうも気持ちが悪いの!?いえ、全身の力が無理矢理ひっぺがされるみたいに、強引に体内を巡る魔力を消し去って行くから、更に不快!!!


「あ゛あ゛ぁぁぁあ!!!!」


 耳をつんざく絶叫が、脳天を突き抜ける。

 けど叫んでるのはわたしじゃない誰か。声の位置からするとムルキャンだけれど、眩しすぎる金色の光で目が利かない。

 何が起こっているの―――――!?





 眩しすぎる黄金ぴかぴかフラッシュが消え、全身の倦怠感と吐き気がおさまったわたしは、そろりと立ち上がる。


 うん、自分でも無意識の内に地面にしゃがみこんでいたみたい。


 茶色い地面が凄く近かった。


 んん?茶色?


「あぁ……芝生がみんな枯れちゃってる」


 円形庭園全域に渡って張り巡らせてあった、瑞々しい芝生の緑が、みる影もなく朽葉色になっている。


 座り込んでいた男達は、何事もなかったように身じろぎひとつしていないのもまた異様だ。わたし以外の2人を除いて。

 すぐそばに倒れ混んでいる黒髪に一房の金色メッシュが入る少年――アポロニウス王子はまだ分かる。離れた所でうつ伏せに突っ伏している、あのグレー髪で、白いローブを纏った男は……もしや。


「…………」


 何も言わず、ムクリと男が起き上がった。

 ムルキャンだった。無口だけれど、間違いなくムルキャンだ。生成なまなりでもない。

 ――久し振りに見る、人間の姿だ。


 彼は周囲の男たちと同じく、わたしの背後の御石に虚ろな視線を向けて、静かに体育座りをした。


「ぅ……」

「アポロン様!」


 みじろきする王子の背を支えて上体を起こそうとするけれど、ここ最近特に筋肉も付いてガッチリとしている身体は意外に重い。魔力を込めて筋力を上げようとしても、王子の弱化は無意識下でもちゃんと仕事をしていて、全く持ち上がらない。


「大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」

 むにむに


 頬を両手で挟んで何度も押してみる。

 ホントなら叩きたいところだけど、王子にソレはまずいものね。妥協案よ。不敬?いいえ、緊急事態だもの!引き締まってるのに意外に柔らかいな、なんて楽しんでないからっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る