第5話 かぐや姫ハーレム再来!
青年は陶酔した表情でぼんやりと石を眺めながら、ただ静かにその場に座り込んでいる。
「寸劇『手の届かない相手に恋した男』第87幕終演ってところかしら」
「セレネ嬢は辛辣だな」
「婚約者が第32幕を演じるところを見た身としては、仕方ないと思いませんか」
2つの石の程近くには、ひと際目立つ赤髪が在る。まぁ、他の面々と比較すればよく耐えた方なのだとは思うけれど、それでも御石ハーレムの仲間入りを果たしてしまった。
「体力、魔力だけでなく精神的にも鍛えられた騎士団の者たちまでが、まさかこんな事になるとは思ってもみなかったのだ。許せ」
「許すも何も、女神達のせいなんでしょう?アポロン様だって迷惑を被ってるんですから」
ため息はハディスが加わるようになった初日で吐くのを止めた。だって、嘆くだけじゃあ、何の利益も出ないもの。対策して改善あるのみ!そのために、わたしと王子は予定の合間を縫って、ここへやって来たんだから。
そもそもの異変の始まりは誰にも分かってはいない。このフージュ王国の開祖『帝』と妃『かぐや姫』の遺骸が変容した『帝石』と『女神の御石』を、彼らが永年鎮護の術を行使していた円形庭園に設置すべく、整備されたのは当然の流れだったのだろう。愛情故のすれ違いがあって、良い別れではなかった2人が1000年の時を超えて再び並べるよう配慮されたのも、王国の為にその身を捧げた崇高な志と功績を思えば、心情的になんら問題のあることではないとも思う。
獅子の中で触れたかぐや姫の記憶は、大切な
造園師や造城技師が、2つの石を設置して、庭園を整える過程では、何の問題も起こってはいなかった。
だからデウスエクス国王も「魂も魔力も残っていないとは云え、崇高な志をもってフージュ王国にその生命を捧げた2人を祀り、後世に正しく伝えたい」と、より多くの人たちに二人の真実の想いを伝えるべく、石への拝謁の機会を与える仕組みを作ろうとしていた。その
一般公開はまだだったけれど、王城勤務の官僚や騎士、侍女ら使用人たちが、空いた時間に足を運ぶことは黙認されていた。これだけ開放的な造りの場所だから、隠す方が難しい。そしたらなんと、あっという間に、この御石ハーレムとも言える変異が起こった訳よ。
また一人、職員が引き寄せられるように庭園へ入って行く。今度は高齢男性だ。石の回りには老若問わず男性のみが引き寄せられている。
「かぐや姫ハーレム再来ね」
「なんだそれは?」
「異界では、あの女神の寵愛を得たくて、地位と財力のある貴公子たちが失敗必至の無理難題を喜んで聞き入れる異常事態が頻発した事があったのよ」
「それは恐ろしい事態だが、異界?何の話だ」
「――はっ!?」
ぽろりと考えなしに唇から言葉が零れ落ちてしまったみたい……。取り敢えず「気のせいです」と適当に誤魔化しておく。胡乱な視線には気付かないふりだ。
「実際に目にするまで信じられなかったが……。まさかセレネ嬢の洗礼を受けた者までが、こうも易々と『円形庭園の異変』に堕ちるとはな。叔父上も、変異を探るためにわざと堕ちたフリをしているのかとも考えていたんだが、これはいよいよ本格的に心移りなさったか――これは平民の言い回しを借りるならワンチャンと云うやつでは……」
「アポロン様?聞き逃せない箇所が幾つもあるんですけど?」
静かだなーと思ってたら、オルフェンズまでがニヤリと悪い笑みを浮かべてるし。そもそも王子に「ワンチャン」なんて教えたのは誰だ!?
「今日は卒業祝賀夜会まで唯一の、高位貴族教育休暇日ですからね!今日中にケリをつけて、今年の夜会こそは普通にエスコートされて参加しますからっ!!」
「仕方ないね」
「私は見守っておきましょう」
オルフェ……そこは協力してくれないのね。しれっと姿を消しちゃうし。
「だから、今は一分一秒も無駄に出来ないんだったわ」
「ふむ、セレネ嬢は何か良いアイディアがあるのか?」
「ふっ……」
アイディアは、ある!
不敵な笑いを浮かべて見せた。
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