第141話 わたしをお城へ連れてって!
いつの間にか広場に戻って来ていた人々が、こちらに歓喜の表情を向け、手を叩き、歓声を上げている。
――まずいわ、式典前だって云うのに魔物やムルキャンと遣り合う所を見られちゃった!?
魔物撃退に続いての、ムルキャンとわたしの喧嘩じみた会話を終始眺めていた王都警邏隊の面々はどこかポカンとしており、オルフェンズは学習参観で我が子がきちんと発表出来たのを満足げに眺める親の表情になっている。くそぅ、このスパルタ暗殺者め!魔王め……!と、心の中で悪態を吐くも、集まる人は数を増やし、状況は悪化して行く。
焦り、急いでこの場を立ち去りたい衝動に駆られるわたしを余所に、戻って来た人々が凄い勢いで周りを取り囲んで来た。
「「「継承者様!!ありがとうございます!!!」」」
「「「歌の通り、素晴らしいお方だ!」」」
「「「6人目の継承者様!万歳!!」」」
一瞬、息が止まる。向けられる好意の数々に胸が熱くなる。
――わたし、認められてる!こんなに大勢の心に響いたんだ―――!
「私に対する賛辞ではないなぁぁ」
「ムルキャン、あなた途中参加でよく言ったものね」
「きっ……気のせいではないかぁ?この通り、私は後始末も請け負うからなぁぁ。これで此度の遅参は帳消しだぁぁぁぁぁ」
早口で言うなり、魔物を根っこで器用に引っ掴むと、ムルキャン・トレントは来た時と同じ穴を通って、静かに消えていった。今からお食事タイムなのだろう。
あちこちに飛び散った巨大獅子の黒い魔力だけでなく、この地上には自然発生的に生まれる黒い魔力や、魔道具の使用によって生まれる黒い魔力がある。だから、途切れることなく魔物や魔獣は生まれ続ける。
どれもすぐに消せるものではないけど、危害を与える存在になってしまったなら、今は鍛えられた戦士や守備兵、防備の魔道具による撃退・討伐で対応できる。
更に、フージュ王国王家の血筋を汲むポリンドやイシケナルに忠義を捧げる
人の努力と
「セレ!!」
いつの間にかわたしを取り囲むように出来上がった人垣の向こうに、ひと際高い位置から聞きなれた声が響いた。
「追い付いたと思ったら、もぉ倒しちゃったのぉ――」
へにゃりと眉根を下げた愛らしい表情をするのは、わたしの婚約者となったハディスだ。
どうやら、わたしが一番速い足である青龍を取ってしまったので、馬を飛ばして駆け付けてくれたみたいだ。
それにしても、婚約者の危機に白馬に乗って駆け付ける騎士なんて……なんて攻撃力が高いの!?正直、さっきの魔物よりも強力だ。足元から力が抜けてフラリとよろめいてしまう。
「ハディ!そんなことっ……。偶然よ偶然、ちょっと放り投げた石ころにそんな殺傷力があるわけないじゃないっ」
照れ隠しに口速に告げると、警邏隊員がざわつく。
「凄いぞ!あの兵器並みの攻撃力が、ちょっとの力だと!?」
「さすが神器の継承者のお力だ!」
「あの時、我々を助けてくださった神秘の力は健在だな!!」
好意的だけれど、令嬢に対するものではない称賛が並んでとても複雑だ。けれど、それを聞いていた人々の視線は眩しいものを見るものに染まって行く。
「はっ……ハディ!わたしをお城へ連れてって」
手を伸ばす。多分、青龍に乗る方が速く行けるとは思うけど、こんなに人が密集した中、ヒラヒラスカートのドレスで飛び上がる程、女子力はまだ低くないつもりだ。
「あぁ、そのつもりで迎えに来たよ」
伸ばした手が、馬上から差し出されたハディスの手に触れる。すると、彼の纏った儀礼用の騎士服の袖口がどこか傷んでいるような気がして、思わず問う視線を向ける。
「あぁ、これ?」
わたしの視線に気付いたハディスが袖口とオルフェンズを交互に見ながら、軽く鼻にしわを寄せる。
オルフェンズはその視線を受けて機嫌良さげに笑みを深めている。何があったのだろうと考えているうちに、手早くハディスの前に横座りで同乗させられていた。
「僕のことはさておき……まずセレは、なぁーんで護衛を置いて行くかなぁ?」
至近距離になった途端、くっついて座るわたしにしか聞こえないひそひそ声でのお小言が早速始まった。
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