第120話 素人ならではの発想を期待されているのね!!

 不満を訴えたのはわたしだけで、王子は神妙に頷き、ヘリオスは「まだそこまでの自覚はありませんが、僕の力を買っていただけるのなら全力でお応えしなければなりませんね」なんてヤル気に満ちてキラリと光る瞳をハディスに向けている。


「巨大な魔力塊である獅子を小さく切り刻んで、黒い魔力の影響を減らしたい。一つ所に集まりすぎているから、影響が大きくなっているんだ。分散させれば、立てなくなるほどの獅子の魔力による不調から回復する者が増える。」

「あのー?ちょっと良いかしら。協力はするんだけど……今の話の中でわたしにできる事ってあった?わたし戦闘は素人よ?」


 皆のやる気を削ぐ真似はしたくないけど、わたしに斬撃を期待されても困るので、おずおずと挙手しつつ主張してみる。

 全員のなんとも言えない視線がわたしに集中する。この土壇場での戦力外の告知が申し訳なくて、居たたまれない思いだけれども、こう言う重要なことは早めにしっかりと報告すべきだと思う。報連相は大事だ。


 轟々と風を切る早さで飛んでいる青龍の背になんとも言えない沈黙が降り注いで、気まずい空気に包まれる。

 それを破ったのは気遣いのできる強引男、ハディスの凛と通る声だった。


「セレは――――――」

「ん」

「――うん、…………――――セレは、とにかく僕たちを応援していて?」

「は?」


 ――わたしに対する指示が粗いんですけど―――!??まぁ、自分でも指示待ち人間ではないとは思うくらいには、何かやることを見付ける事は出来ると思うわよ?けど、戦闘で令嬢放置なんて、畑違いすぎて全く何をやったら良いのか……はっ!そうなのね!?素人ならではの発想を期待されているのね!!


 ハディスの隠された意図を読めた!!!と、拳を握りしめて力強く頷いてみせると、訝しげな視線が返ってくる。


「お姉さま、応援ですよ?がんばれーって気持ちを送る、あの応援です。それ以上では決してありませんから」

「なんでそんな不安気なのよ、ヘリオス。わたしは出来る商会令嬢よ?任せておいて?」


 自信満々に告げるわたしにオルフェンズが満足そうな笑みを浮かべる。苦労性で、いつもわたしの心配をしすぎるせいで、今も不安そうなヘリオスとは違って、こちらは理解がありそうだ。


「まぁ、任せといてよ!」


 ヘリオスを励ますために、明るく声を弾ませて胸を逸らしてみせた。








「お姉さまぁぁあぁ―――――――――――――っ!!!?」

「何やってんだよぉぉぉおぉ―――――――――――――――っ!?」


 ヘリオスとハディスの叫びが夜空に響き渡る。







 時はほんの少し遡る。


 あの後、青龍に乗って周囲を旋回しつつ獅子の背を見下ろす高さにまで達したわたし達は、ハディスの指示に従って3班に分かれようとした。

 魔力を纏って獅子の体表に捕まり、外から身体を切り刻んで行くハディス、ヘリオス班。

 王子の空けた獅子の腹部の穴から潜り込んで、体内を切り刻むアポロニウス王子、オルフェンズ班。

 外からの支援及び救出担当のポリンド、わたしの班。


 けど、その組み合わせで問題が生じた。

 アポロニウス王子とオルフェンズの組み合わせだ。


 赤銀の2人の様にじゃれ合うこともないけれど、帝の子孫と、その子供の組み合わせだ。うまくいくと思ったんだけど、全く駄目だった。無関係、無関心も過ぎれば冷戦状態にしかならない。ある意味ケンカしあうよりも質が悪い。感情を表に出さない同士の間に漂うギスギスした空気の痛さよ―――。

 で、わたしが限界を迎えた。いや、顔を突っ込んだ。


 王子を抱えて、獅子の中に突っ込んだ。


 結果、ちゃんとオルフェンズも後を追って来てめでたしめでたし、とは行かなかった訳で……。


「待て待て待て待て!!バンブリア嬢!貴女には淑女の恥じらいや慎みが無いのか!?」

「桜の君のなさることにお前の様な青二才が黄色い嘴で水を差すようなことを囀るな。」

「あるから!ちゃんと乙女してますから!ハディの計画を成功させるのに手伝ってるのよ!!」


 今のわたしは、弱化の魔力を放つ王子を肩車しながら、獅子を標的にしつつスーパーボールも真っ青の跳躍、貫通、落下を繰り返す人間反射兵器状態になっている。

 青龍からの跳躍を皮切りに、まずは獅子に王子の魔力で切り込み、落下したら手近なバルコニーや、壁、屋根を蹴って、再び獅子に切り込む。小刻みな跳躍と体内への刺突を繰り返して少しづつ獅子へダメージを与えて行くのが狙いだ。

 オルフェンズならもっと高い位置まで飛んで、一気に大きなダメージを与えられると思うんだけど、わたしには撥ねて弾むくらいしか出来ることが無いから、これが精いっぱいだしね。戦闘の専門家じゃないから剣は振るえない。殆ど平民みたいなわたしだから、肩車だって平気で出来ちゃう。これぞ、わたしならではの貢献の仕方よ!


 そう思うんだけど、ハディスとヘリオスは絶望的な叫び声を上げていた。

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