第112話 すぐに、僕の側に戻すことまでが条件だ。 ※セレネ視点~ハディス視点
勢い良く吹き飛んで行った石の行く先は、あっという間に泥濘に隠されて見えなくなってしまった。
それでも、モヤモヤとした気持ちごと吹き飛ばせた爽快感はしっかりと胸に湧き上がって来て、自然と笑顔が浮かぶ。
「は―――っ、スッキリしたぁ!大きな獅子に化けて、王国中の人を怯えさせたり、黒い魔力を吐き出して周り中を魔物化させそうになってたのは、あんな鬱々した独り言と、文句しか言わない石が元になってるからよね。全く、なんであんな石が特大の月の魔力を纏ってるのよ!」
ふんっ、と鼻息も荒く言い放って、ふと気付いた。
――あれ?月の魔力を纏ってる?黒い大きな石って……帝石に似てる?
―――!!
――― ハディスside ―――
その時、迫り来る何かを感じ取り、嫌な予感に心がザワついたのは、僕の普段の行いに感銘した女神が授けてくれた褒美だったんだろう。
咄嗟に半歩下がったその爪先の真ん前から、獅子の背を突き抜けて、大人程の高さのある黒い卵型の石が飛び出して来た。石は、僕の鼻先を掠めて夜空に弧を描きながら、王城を囲む森の何処かに落ちて行く。
「っぶな!!」
「何!?今の、中の子猫ちゃんからの攻撃!?早く助けろってこと?!一生懸命やってるとこなんだけどぉ!?」
間一髪大石を避けられたけれど、そんな物騒なモノが、何もない場所から急に飛び出してきた心理的衝撃で、瞬間的には立ち直れない僕よりも、側で目撃していただけのポセイリンドの方が逸早く再起動して、攻撃に対する抗議の声を上げる。
――何であんなでかいものが、急に飛び出て来るんだ!?出るとこなんて何もない背中のど真ん中だぞ?普通の動物じゃなくて魔獣の類いだろうから、構造が違うのは有り得るけど、にしてもどうなってるんだよ!
緩みそうになっていた剣の握りに再び力を込める。
僕は今、獅子の中に潜り込んでしまったセレネを助けるために、剣で突破口を切り開こうとしているところだった。
けれど、獅子の身体は切っても切っても血も出なければ、引き裂く肉もない、ただの黒い物が詰まっているだけだった。しかも、切った側から黒いモノが溢れ出て、その痕をすぐさま埋めて皮膚や体毛に至るまでを、すぐに復元してしまう。
「んもぉ、いい加減子猫ちゃんも苛立ってて攻撃してくるくらいなんだから、この
石の飛んでいった先を見ながら、
「駄目だって!それじゃあ中に入ったまんまのセレに当たっちゃうかもしれないだろ!?」
そんな危惧から、ちょつとずつ掘り進めるように、必要最小限に獅子を切り開いて、セレネの救出を試みようとしている。切って戻る前に更に切り込んで、けど2撃目を入れるのと塞がるのが同時で、大きく切り開けない状態を繰り返している。
「っだぁーもぉーっ!いい加減にしてくれ!」
「私が桜の君のもとへ参りましょうか」
一見親切なオルフェンズの申し出に、ポセイリンドが「なら……」と言い掛けるのを、咄嗟に伸ばした手で塞いで黙らせ、ジットリとした視線を冷々としたアイスブルーの奴の瞳に合わせる。
「
「ならばこの話は無かったことに」
しれっと疚しいコトをしようとしていたのを暴露しつつ流そうとする。セレネと関わるようになってから、この男の嗜好は随分まともになった様だが、まだまだ油断出来ない危うさを孕んでいる。
「それに、さすがは桜の君と言いましょうか。赤いのがまごまごしている内に、自身で切り開かれた様ですね」
「なんだって?」
愉快そうに口角を上げるオルフェンズに問い返すけれど返事はない。ただ、その視線の先を辿って足元の獅子の姿にじっと目を凝らすと、どことなく、その姿がぼやけた様な感覚に襲われた。更によく見れば、獅子の身体の中に黒い濁流のうねる姿が透けて見える気がする。
なんだ?これは―――と、じっと目を凝らしていると、鋭い気配が投げつけられて来た。
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