第93話 何百年単位で孤独に鬱々しそうだったから、強引ではあったけど一緒に飛び込んでみたわ。
「あ゛ぁぁぁ―――っっ!!やっと出て来た!強力な魔力使いの君達が、揃いも揃って何やってくれてんの?私は戦闘向きじゃないんだからね?子猫ちゃんよりもずっと嫋やかで可憐で、持つ魔力も慈悲深い癒しの力なんだよ?私と青龍は!」
何だろう、白銀の紗から出た途端色々文句と悪口を言われた……。
「オルフェを逃がさないために必要だったんですよ!って言うか、さりげなくわたしを下げるの止めてもらえません?」
「何よ!子猫ちゃんは、美しさで私に勝てると思ってるの!?」
「そもそも勝負する気はないし、なんでポリンド講師とわたしが美しさで勝負なんて話になってるんですか!?」
「その場で最も美しい者が場に君臨する
「……ポリンド講師、素直じゃないのね。心細かったなら素直にそう言えばいいのに」
「だっ……誰がそんなことっ!美しい王弟の私がそんなヤワな訳無いしっ!?」
結構なお冠のポリンドだけれど、わたし達が消えていたのは1分くらいじゃないだろうか。
少なくとも、わたしに出会う前までのオルフェンズだったら、目に留まったり、気に入ったりした人間は自分の紗の中へ引き込んで、気が済むまで傍に置いていたみたいだった。けれど、わたしの護衛になってからは、何故か思い通りにならない事の楽しさに気付いたらしく、昔の凶行はかなり鳴りを潜めているみたいだ。
けど、オルフェンズ自身、未だそんな自分に戸惑っている様で……。
さっきも、わたしを本気で閉じ込める気はないだろうことを指摘したら、困惑したオルフェンズが反射的に一人で白銀の紗の中に閉じこもろうとしてた。オルフェンズの場合、自分に戸惑って引き籠っちゃったら、何百年単位で孤独に鬱々しそうだったから、強引ではあったけど一緒に飛び込んでみたわ。わたしを掴んだままだったハディスが一緒に付いて来ちゃったのは想定外だったけどね。
「ひとりで考えさせてもいただけませんか?」
人間臭い苦い笑顔を浮かべたオルフェンズが、わたしを見詰めて尋ねる。けどわたしは常々貴方達に言ってるはずだ。
「わたしの護衛を名乗ってる時点で、勝手な行動は許さないって言ってるじゃない。あれはハディだけじゃなく、貴方にも有効よ?」
「あぁ、そうでした。桜の君は、突然本来の仕事に取り組む為にお側を離れた赤いのにも、そう言って怒っていらしたんでしたね」
「え!?僕のことぉ!?」
「あ、オルフェ!しいっ!!」
「ちょっと!?突然1人で取り残された私に対して言うことはないの!?」
オルフェンズの突然の暴露に、ハディス同様、わたしも焦っていたけど、そこに抗議を唱えるポリンドが入って来る。混沌としつつも話が紛れそうな状況に、ちょっぴりホッとする。
ハディス、オルフェ、わたしが消えたことで、突然ワイバーンの暴れるその場所に、継承者としてただ1人取り残されたポリンドは相当焦っていたみたいだ。助けに来たつもりが、急に理不尽な状況に取り残された混乱が分からないでもないけど。うん、ごめん。
継承者3人と候補1人が消えたり現れたり、ギャアギャア騒いでいる混沌とした状況に、兵士達は距離をおいてくれているらしい。
けれど、そこに敢えて突っ込んでくるモノが居た。
『ギャギャギャォォォ―――ス!!!』
鳥とも動物ともつかない甲高い咆哮を上げながら、上空からワイバーンが急降下して来る。
「鬱陶しいですね」
呟くオルフェンズは、目を伏せ、静かに深呼吸するように下げた両腕を僅かに体の外へ開く。深い呼吸がピタリと止まった瞬間、見開かれたアイスブルーの瞳が、白銀を帯びて、ギラリと残忍な輝きを放つ。
「セレ、よく頑張った!あとは任せて」
未だそこに転がるベヒモスの
全身に力を漲らせてピタリと動きを止めたハディスからは、炎の蜃気楼が立ち昇る様に、紅色の魔力が溢れ出す。
「こんな2人が居るなら、私の力までは不要だと思うけど」
ポリンドが妖艶にニヤリと笑って真っ赤な舌で唇をぺろりと潤す。すると、その無造作に下ろされたつややかな藍色の髪が意思を持ったかの様に何束にも分かれて空中にふわりと舞う。髪束はやがて蛇の様な顔を顕現させて尚動き、ポリンドを包み込む様にとぐろを巻いて一束に纏まって青龍の形へと変化する。そのままポリンドの身から離れた青龍は、紺色の魔力を飛沫の様に振り撒きながら、ゆったりと宙を泳いでわたし達や、この場で戦う兵士たちの周囲をぐるりと巡って行く。
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