第83話 特別な魔力のフルコース
一仕事終えた安堵と、改めて自覚した自分の気持ちに自然と微かな笑みが浮かぶ。けど、令嬢らしい嫋やかな笑いじゃない。令嬢らしくないことをやらかしたっていうのと、理想と現実は思うようにいかないなっていう自嘲に近い、呆れたような笑いだ。
「まいったなぁー」
思い付かない解決策に、空を見上げてつい愚痴る。無造作に顔にかかった桜色の髪を、風がさらりとはらってくれる。
そよ風よりも少し強い、汗ばんだ肌には心地好い風にひと息ついて、心の中を整理しようとしていると、一際強い風が吹いて、同時に微かな嫌悪感―――ザラリとした物で全身を撫でられた様な感覚に襲われた。
ハッと目を見開いて魔力を込め、遠視の魔法を効かせてきょろりと空を見回す。
すると、遠くから物凄い勢いで黒い影が近付いてくるのが見えた。影が大きくなるにつれて嫌悪感が強くなってくるから間違いない。最初、米粒ほどの大きさだった影はあっという間に
「え……何!?うそでしょ?有り得ないわよね?!」
間違いなく魔物襲来を伝える嫌悪感だけれど、たった今、月の忌子を苦労の末に倒したばかりで、疲労も癒えていないこんな時に襲撃されたくない!もしかしたら通り掛かっただけかも!
そんな希望を持ちたくて、わたしと同様に、この気配に気付いているはずのオルフェンズに視線を向ける。
オルフェンズは、柔らかな表情で空に向けていたアイスブルーの瞳を、地面に横たわったまま縋るようにじっと見詰めていたわたしに向け、おもむろに口を開く。
「可能性としてなら充分にあったかと思いますよ?
綺麗な笑顔で誉められた……。
嬉しくないし、嫌な予感の実現予告に、わたしの顔はきっと絶望感で酷いものになってるだろう。今更オルフェンズに取り繕う気はないし、もともとの顔の造作が完全敗北してるから気にするだけ無駄だ。
「先程の戦いで、桜の君は今までに見たことの無いほどの強い桜色の魔法を使われました。すでに黄と紫の魔力の影響を受けているムルキャンに。そして奴には一時的に赤いのの眷属が力を貸し、さらには私までもがここに居る。どういう事かお分かりになりますね?」
丁寧なオルフェンズの解説を聞きながら、さあっと音を立てて血の気が引いて行くような感覚を覚える。
ここでも、スパルタ暗殺者の本領発揮か、見惚れる様な綺麗な笑顔で、非常に不味い現実をどんどん突き付けてくれるのはさすがだ。わたしのメンタルをゴリゴリ削って追い詰めてくれる……。
「いや……分かりたくないわ。ココに青以外の神器の魔力が、一時的にでも集結しちゃったってことぉー!?」
「はい、桜の君の力強い強化の影響を受けたものですから、ただの継承者の魔力よりも、ずっと強化された状態のものが、この場で、発現されたばかりですね」
先程の、スパンコールのようなきらめきを纏ったムルキャンの姿が脳裏をかすめる。
「魔力好きの
「いやぁぁあ!!はっきり言わないで―――――!!」
たまたま通り掛かった訳でなく、遠く離れた場所からわたしたちの魔力を感知して、わざわざ近付いてきていると!?
それって逃げよう無くない!??
体中を駆け巡るぞわぞわとする嫌な気配と、足元から這い上がる悪寒が、近付いて来るモノがとてつもなく不味いものだと伝えて来る。
黒い点はさっきよりも、随分大きくなって、着々と近付くその全容をぼんやりとではあるものの、把握出来るまでになっている。上下に動かす羽の様子も分かる様になってきた。
しかも、うっすらと捉えられる気配は一つではない。しっかりと正体が捉えられるほどになってきた魔物――ワイバーンの他にも、どんどんと強くなる、こちらへと向かってきているらしき気配が複数……。空から、草原の向こうからと、不穏極まりない気配が感じ取れるようになってきている。
勝鬨をあげる兵士達のなかには、空から近付いてくるワイバーンに気付き始めた者も出だした。
けれど、遠くに感じる複数の魔物の気配はまだ感じ取っていないのか、空の一点へ向けての警戒体制が取られ始める。
違う……そこだけじゃないのよ!空もあちこちからヤバイ気配を感じるんだけど、どうしたら良いのぉぉ―――!?
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