第72話 スライムやトレントの幼木を狩るのとは勝手が違いすぎるわ。
これ以上強力な魔道具の開発は止めて、神器の継承者の魔力を活かした戦い方をすべし。
帝からの助言は、フージュ国王勅命として
それにより、どんどん高い効果を付加した魔道武器を開発導入しようとしていた気運は、神器の魔法を主軸にした戦い方へと一気に転換されてしまった。つまり、ハディスとは益々会えなくなってしまったと云う事で……。お陰で最近のわたしは、何とも言えないモヤモヤ感に苛まれている。
高くなった陽の光の降り注ぐ城内の鍛練場には、朝の鍛錬の様子を伺わせる道具が2、3残ってはいるものの、今は人ひとり居ない静かな空間だ。もともと王族や客人だけが使用している場所だから使用頻度は高くないのだろう。鍛練用の木剣を剣立てから手に取り、思いつくまま振ってみる。
「せめて、人並みに、使えるように、ならないとっ」
ビュン・ビュン・ビュン・ビュンッ
ハディスからは、少なからず好意を持たれているとは思うし、わたしも率直に表すことは出来ないけど憎からず思っている。この気持ちを育てる気が無いわけじゃないけど、商会を盛り立てる夢だって捨てるつもりは無いわけで。
気持ちの区切りや、考えをまとめるために、まずは当人と会ってみたいのだけれど、全く会えない現状……。ならばどうするか、よ。卒業まで半年を切り、ハディスの護衛契約完了も同様に期限の迫った今、このまま継承者候補なんて曖昧な立場だけで、卒業を迎えたとする。そうしたら、わたしに残るのは男爵令嬢の肩書だけで、とてもじゃないけど王弟のハディスの側に居る事どころか、近付くことすら出来なくなるんじゃないかって思う。王様と話せる権利はあるらしいけど、この前みたいに
ビュン・ビュン・ビュン・ビュンッ
「イメージはしっかりしてるのにー……。けど下手でも、何度かやってれば上手くなるわよね!きっと」
バンブリア家……いや、わたしが立身出世すれば何も憂うことはなくなる。折しも今は
「まさか、私にした説教の内容を忘れたわけではあるまいな?」
「ひゃっ!?」
ふいにアポロニウス王子の声が近くから響いて、令嬢らしからぬ声が出た。考え込んでいたせいで、全然気付かなかったみたい。
「確か……討伐隊に自己流で尚且つ戦闘慣れしていない者が混ざることによって、全体のバランスを崩して戦闘力を下げてしまうことに繋がるとか、自己満足の愚行だとも言っていたな?」
「サスガ オウジサマ スバラシイ キオクリョク デスワネ……」
いつも通りの一部の隙も無いきれいな笑顔で、以前のわたしの言葉を使って注意して来るなんて……。一気にわたしのチャレンジ精神が削がれてしまったわ。くぅっ。
「じゃあ、剣以外の方法を考えますよ」
「じゃあって……私が来なければやったかもしれなかったんだな?」
やばい。
そろーりと視線を逸らすと、いつの間にか頭から降りた大ネズミまでもが、疑わし気にわたしを見詰めて来る。
「神器の継承者候補であるバンブリア嬢が、
王子の言うことはもっともだ。けどそれじゃあ、半年後にはハディスに会えなくなってしまう。それを防ぐために足掻けるのは、今のうちだけなのよ!
「思うことがあって……じっとしていられないんです。わたしには魔法効果を強化する力があるんですよね。それって汎用性の有る大きな効果だと思うんです。だから行けば何か出来るだろうし、その機会を手に入れる好機が今だって思うんです。それに何もせずに後悔することが起きたりしたら嫌ですから」
ヒュンッと振り上げた木剣を振り下ろす。
ワイバーンを両断したハディスの剣筋の鋭さに比べたら全然劣ってしまう勢いに、つい溜息が零れる。気持ちや、イメージだけじゃどうにもならない壁があって、剣を使った戦いのセンスはわたしには無いみたいだ。スライムやトレントの幼木を狩るのとは勝手が違いすぎる。
剣を見詰めながらウムム……と眉を寄せていると、「バンブリア嬢は何処を目指しているんだ」と、アポロニウス王子が頭痛を堪える様に額に手を当てているのが目に入った。
より良い将来のために、出来ることからコツコツとやってるだけですけど!
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