第67話 人を非常識代表みたいに言うなんてひどくない?
王都上空に美青年2人の眼福な姿が現れて、休講や外出自粛で鬱々としていた街の人々の歓心を集めた数日後。バンブリア邸では、セレネを訪ねての急な訪問者が客室に通され、その部屋には彼女と共に当主代行としてヘリオスが同席していた。
母オウナ・バンブリアは、魔物除けの新商品をはじめ、魔物を撃退する魔道具の流通が急務だと判断して、ここのところは商会本部に寝泊まりしているし、父テラス・バンブリアは少しでも効果のある魔物撃退グッズを開発するために、現地調査で魔物被害の多い辺境を飛び回っていると聞いている。
なので、頼りになる父母が居ない今、面倒事を持ち込まれるのは切に勘弁して欲しいのだけれど、目の前の青年は憮然とした表情でわたしを見据えて、遠慮なく要求を突き付けて来る。
「王様の様子がおかしい?それってわたしになにも関係ないですよね。」
「なにもってことはないと思うぞ、一応自国の国王だからな?」
我が家の応接室のソファーに身を沈めたギリムが、引く気はない様子でじっと視線を合わせて来る。
数日前、帝石の破損と前後して、夜空にくっきりと浮かぶ様になった天の川から幾つもの流れ星が零れ落ちる光景が、王国中で目撃された。
数日に亘って降り注ぐ流れ星は、ここのところ聞きあきるくらい耳にする
その時流に旨く乗ったと言ってはなんだが、あの日ヘリオスとの会話の中からアイディアを固める事の出来た魔物対策グッズは、急ピッチで商品化され、順調な売り上げの伸びを見せている。
各町では小動物が変化したような魔物は撃退グッズで退け、それでも手強ければ地区毎の自警団が追い払い、更に手に負えないとなって始めて警邏隊に依頼をかける。そんな対処循環が出来上がりつつある。
「何で神殿のマイアロフ様がそんな重要機密っぽいことを知ってるの?何でそれを男爵令嬢でしかないわたしに言っちゃうの?」
「それに答えるとするなら、順序立てた道理や、魔法の影響ならば王城に使える魔道士や役人での対処で充分だが、それで解明できないから女神頼みで神殿に声が掛かった。けれど神殿側からしても国王陛下の様子に思い当たるものも無ければ、治療の遣り様もない状態だった。そしてバンブリア嬢は継承者候補であり、数々の不可思議な出来事に関わっている。それで説明としては充分だと思うぞ。」
「知識や常識で対処出来なかった事を、イレギュラーしか起こさないお姉さまの非常識に期待して声が掛かったと言う理解で宜しいのですね?」
「ヘリオスぅ!?人を非常識代表みたいに言うなんてひどくない?」
「この短期間で王城でやった事だけを思い起こしてみても、同じことが言えますか?」
落ち着き払った様子のヘリオスの問いかけに、さっと思考を巡らせる。
王城でやった事‥‥青龍に乗った。緋色ネズミでお手紙を書いた。帝石が割れる原因を作った。王妃の目の前から隠遁の魔力で逃げ出した―――うん、ちょっと色々やっちゃったかな?
ごくりと生唾を飲み込んだわたしを、ちろりと横目で見遣ったヘリオスは、ギリムに改めて向き直る。
「まぁ、お姉さまがとんでもない思い付きで行動して、思いがけない結果が出てしまうことは無かったとは言いません。けれど、お姉さまの
「いや、閃きよ!?こうしたら出来るかもってタイミングで脊髄反射的に出て来るアイディアであって、考え無しの思い付きじゃないからね!?」
「それは分かっている。」
ギリムの言う「それ」って一体何を指しているのかは疑問だけれど、深刻そうな声音にわたしとヘリオスは取り敢えず話の続きを聞くことにした。
「病的なものでお身体が弱っている訳ではない。思考が出来なくなる様な精神的な疾患でもない。けれど身近な者‥‥この話を俺に伝えて来たアポロニウス王子の目から見れば、どこかいつもの国王陛下とは違うらしい。」
「心境の変化じゃないんですか?ここの所、ゴタゴタしていますから。心労が溜まったり、考え方を変えないと対応出来ない事が続いているから、結果としてどこか違ったような印象を受けるようになったんじゃないんですか?」
「それよりも、王様は無事意識が戻ったのね。ポリンド講師の青龍が間に合ったみたいで良かったわ。」
何はともあれ生命の危機を脱したって事が重要なんじゃないかしら。
そう思うのに、ギリムの表情は深刻なままで「一度国王を視て欲しい。出来ればオルフェンズ殿も一緒に」と繰り返すのだった。
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