第68話 いや、分かる気もするけど敢えて分からない・と自分に言い聞かせる。
医師でも何でもないわたしに、ギリムやアポロニウス王子は何を期待しているのか‥‥。
「一度国王を視て欲しい。出来ればオルフェンズ殿も一緒に。」
その言葉に引っ掛かりと云うか、興味を覚えてしまった。
わたしとしては数日前に脱出した王城に戻るのは、物凄く気が進まないのでお断りしたいんだけど、オルフェンズの同行を求められるって云うのはひょっとしなくてもそう云う事よね?
日を改めて、まだ朝早い時間のうちに万全の準備を整えたわたしたちはギリムに伴われて王城を訪れた。門番が見知ったギリムに向ける視線とは異なる、怪訝な目を向けられて怯みそうになるも、グッと堪えて愛想良くニッコリ笑顔を向ける。
――そう、こんな時のための万全の準備よ。誰にも疑われず、尚且つ好感度の高さで多少の怪しさも押し切ることの出来る格好をすること!
「お疲れ様です!僕たち
元気良くペコリとお辞儀をしたわたしの隣に並んだヘリオスが、小声で「ちょっと!」と言いながら肘でわき腹を突いてくる。ちなみに、今日のわたしとヘリオスは双子かわいい神官見習いがコンセプトだ。服装は
こんなのは、ビクビクせずに堂々としていた方が疑われないのに、何を怖がっているのかしらね。
「済まない。まだまだ見習いに入りたての者達なのだが、神殿の業務も多忙になるばかりでな。ほんの僅かでも見込みのあるものを育てるのが急務なのだ。」
ギリムがわたしの前に立って門番の視界を遮り、ヘリオスも揃ってわたしを後ろに下げる様に肩を前に割り込ませて来る。なんで腫れもの扱いなのかは分からないけど門番はその説明で納得したらしく、揃って入城を許された。
門番たちの視線を感じてちらりと振り返ってみれば、彼らが見ていたのはわたしやヘリオスではなく、麗しい巫女姿となったオルフェンズの方だった‥‥。
「何か?」
「ううん、何でもない。何でもないけど、なんかこう‥‥何とも言えない敗北感よ。」
薄い笑みを浮かべて小首をかしげた儚げな巫女姿の美女オルフェンズを見て項垂れたわたしに、ヘリオスとギリムが送ってきた視線が気の毒なものを見るものだったのにも、少し落ち込んだわ。
アポロニウス王子の私室に通されたわたしたちは、その場に宰相令息のロザリオン・レミングスまでが居たことに若干驚きつつ、柔らかなソファに腰かけて王子の話を聞いている。
「むっ‥‥無理を言ってしまったようだな。」
久しぶりに顔を合わせたアポロニウス王子までが、何故かオルフェンズとわたしの間に交互に視線を走らせながら謝罪じみた言葉を口にするのはどう云う事か‥‥。思わず胡乱な目を向けそうになったわたしにヘリオスが「自業自得ですよ。これに懲りたら悪乗りは程々に。」などと小声で注意してくる。
全く意味は分からないけど‥‥いや、分かる気もするけど敢えて分からない・と自分に言い聞かせる。
国王の普段の姿なんてわたしは全く分からないけど、王子の話によれば未だ体調が優れない国王は、殆どの時間を執務室ではなく自室や書斎などでゆったりと過ごしているらしい。ただ、部下へ必要な指示を行うことは出来ており、その内容の的確さなども全く問題ないことは宰相令息であるロザリオンが父親へ確認済みの様だ。それだけ聞けば病み上がりの身としては何ら問題無いように思える。
「父上の主治医は問題無いと言う。宰相も問題なく執務をこなしていると言う。だが、どこか余所余所しいと云うか‥‥特に母上に対しての態度に違和感を感じてしまうのだ。」
「それって―――家族以外が踏み込んだらダメな事なんじゃないで・」
「お姉さま!?」
強めな声を被せてきたヘリオスと、わたしにアポロニウス王子が苦笑を向ける。
「そんな話ではないのだ。叔父上たちにも相談出来たら良かったのだが、父上が目を覚ましたのはお2人が辺境への
「王子の思い悩むご様子に気付いた俺たち側近候補が、バンブリア嬢に声を掛けることを進言した。そして、オルフェンズ殿にも来ていただくことは王子のご希望だ。」
なんだか色々と期待されているみたい。オルフェンズは分かるけど、わたしは余計なことをしちゃいそうな予感がするわ。ヘリオスの「なんでそんな重要なことをお姉さまに?!」って言わんばかりの困惑した視線が、わたしと同意な事を物語ってるしね。
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