第64話 眩き桜の舞い散る如き魔力に彩られた美しき君との良き想い出として私の脳裏に刻まれております。
「オルフェ!?ひょっとしなくてもここって王城も有る大門の中よね!?」
「ですから、あの時のデートは国王直属の近衛騎士専用の建物からが続きとなりますので、敢えてここへご案内させていただきました。」
戦慄くわたしに構わず、いい笑顔を向けてくるこの男は本当にわたしの護衛なのかしら?!
「あの時の桜の君の素晴らしき俊足、そして常識に捕らわれない奔放な剣捌き、そのすべてが赫々とした神々しい輝きに包まれておりました。眩き桜の舞い散る如き魔力に彩られた美しき君との良き想い出として私の脳裏に刻まれております。」
うっとりと吟う様に言葉を連ねるオルフェンズに、思わず脱力する。
そっか!オルフェンズのデートの想い出がさっき言った通りなら、確かにこの近衛騎士本拠地がデートの最後の訪問地になるわね。そっかぁ‥‥そんな認識になっちゃうのね‥‥とほほ。
まぁ、お家でまったりがデートの人もいれば、登山したり海へ行ったり、ショッピングしたりがデートの人もいる。それはまあ人それぞれなんだけど、ちょっと一般的とはかけ離れすぎじゃないかしら。
「桜の君はどのようなデートがお好みでなのですか?今後の参考にお聞かせ願いたいですね。」
「そうねー、どちらかというと一か所に留まらないで思うまま、あちこちを回ってみたりとかしたいかなぁ‥‥。」
色々何でも見て回れば市場で必要とされるもの、人気を集めているものが読み取れて見る目が養われるし、それが根拠となって開発・投入していく商品を検討して行けるもの。考えることに疲れたわたしは、つらつらと思い付くままを特に何も考えずに言葉にのせて行く。
「成る程、一所に留まらないで、あちこちを‥‥ですか。」
若干意図的に張ったオルフェンズの声にふと違和感を感じて、まさかと隣の男の顔を見上げると、形のいい薄い唇が綺麗な弧を描くのが目に入る。
「誰だ!」
建物の中から鋭い
ちょっと待って!?オルフェンズ、今、わざと気配を漏らしたわよね?捕まると困るのが分かってて、そんなことする理由なんて普通は無いけど、まさかこの男また―――。
「多少のアトラクションは、無味乾燥なデートなる行動の程良いスパイスになりますので追加させていただきました。」
「そんなオプションいらないわ――――!!」
殆ど間をおかずに、側の建物から騎士見習いのローズグレイの隊服を着た5人の青年が勢い良く出て来る。
けれどもわたしはその前に手近な建物の陰に身を潜めることができていた。見習い騎士たちは怪訝そうな表情で辺りの見回りを始める。
「感心ですね。ほんの数か月前なら侵入しても気付きもしない愚鈍な集団だったのに。微かな違和感すら見逃さず、実際に何も居ないと判断できるまで用心深く確認行動を取る程度の動きは出来るようになったようですね。多少は『
「安心しない!感心しない!うれしくないっ!!何、あの人達!全っ然、諦める気配が無いじゃないっ!?」
徐々に人数を増やして不審者探しの手が強まり続ける中を、物陰から物陰へと必死に逃げ回る。勿論、隣の男もちゃんと隠れられているかなんて心配する余裕なんて無いけれど、楽し気な余裕の表情を崩さないままヒラヒラと捜索者の眼を搔い潜り続けてる。
「オルフェは『蓬萊の玉の枝』の継承者だけど、今まで何度かあったって文献にも残ってる『
「それは王家が勝手に決めた役割でしょう?私の知ったことではありませんね。ただ、父母が心安く在る様、努めては来ましたが。」
それは身勝手なようでいて、当然の人間らしい感覚だと思えた。義務や条件に囚われた押しつけじゃなくて、自分自身こう在りたいから行動するって云う、王妃から逃げ出したわたしと同じ行動原理だ。
継承者だからと言って、王家や世のため人のために滅私奉公することを強制されるのは嫌――わたしとオルフェンズはどこか似ているから嫌いにはなれない。
「仕方ないなぁ‥‥わたしと同じだものね。自分のやりたいようにやる事でしか納得出来ないのは。」
「それは光栄ですね。」
余裕の笑みを浮かべたオルフェンズは、一つに束ねた腰までの銀髪をひらりと靡かせて別の建物の陰に移る。すると、オルフェの居た方向から微かに騎士の足音が響いてきて慌ててわたしも姿を隠す。そんな事を何度か繰り返したわたし達は、なんとか無事に大門の外まで脱出することに成功した。
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