第62話 そうか、敵認定されたんだ‥‥。 ※アポロニウス視点
バンブリア嬢が突然、王城内の居室に宛てられた部屋から姿を消したと騒ぎが起きてから数日後。
今まで一度も踏み込めなかったことが嘘のように、初めてバンブリア嬢達と共に訪れて以降、すんなりと近付ける様になった円形庭園へ足を運ぶ。いつもは少数の近衛騎士を伴っているけれど、今日は少し顔ぶれが違う。私と一緒にひび割れた帝石の元へ来ているのは、眉間に皺を寄せた叔父2人だ。
つい先刻このフージュ王国の国王を、青龍の癒しの魔法で生死の境から救い出したにも拘わらず、突然王城へ姿を見せた時と余り変わらない厳しい表情は継続中だ。
「まさか叔父上達が、このように早くお戻りになるとは思っても見ませんでした。」
「予定にはなかったからねー。それに以前までなら無理だったけど、今の僕らにはとんでもない手段が有るからさぁ。まぁ、色々不本意な状況にはなるけど。」
「私だって御免だね!こんな美しさの欠片もない屈辱、何度も‥‥っ!見たかい!?城下のあの者達の顔っ!」
「だぁーかぁーらぁ、高く飛んだ方が良いって言ったのにぃー。僕だって不本意なんだよ。」
「お前は私の心臓を止める気か!?あんな高い場所、人が辿り着いて許される場所では無いだろ!!」
仲悪そうにいがみ合っている叔父2人は、少し前に仲良くお姫様抱っこで城下の町の上を飛んでいる姿を、貴族平民問わず大勢に目撃されている。そんな羞恥プレイのリスクを侵してまで、出来得る限りの大急ぎで王城まで戻って来てくれた。そのこと自体は有り難いのだが、甥の前でこうも大人げなく言い合うのは止めて欲しい。何ならここには帝そのものであった帝石だって在ると説明したばかりなのに‥‥。
実を言えば、そのお姫様抱っこと云うものも、年長の方の叔父で、龍の頸の珠の継承者であるポセイリンド叔父上の魔力の化身である青龍に、火鼠の
「ただ、ほんの少し前だったら、こんなに早く辺境に散っていた叔父上達が数日のうちに揃って王城へ戻るなんて有り得ない事でした‥‥。手段はともかく本当に驚くべき魔法の進化だと言えます。」
「僕だって、王国中に癒しの魔力を行き渡らせる尊い神器の化身に乗るなんて発想は、全く無かったからねー。」
「それよりも、急に着ている外套が燃え出した私の恐怖を理解して欲しいものだよね!不審火か怪奇現象だよ!?私が冷静なお陰で、すぐに緋色ネズミに気付いたから良かった様なものだけどさぁ!」
「なんのお話ですか?」
ポセイリンド叔父上は一体なんの話をしているんだ?緋色ネズミに不審火だって?
「何でもない、何でもないよー。」
「ハディアベス叔父上?」
ハディアベス叔父上は適当に誤魔化そうとしてるけど、何となく普通の笑みとは違う含みを持った微笑みな気がするんだが‥‥。その魔法を思い出すのが嬉しそうと言うか、私には分からないだろう的な愉悦感?――まったく、本当に大人気無い。
「どうせバンブリア嬢絡みの事ですね?青龍に乗り始めたのだって彼女からだったんですから。それに、文化体育発表会の閉会式での炎の花はまだ記憶に新しいですからね。」
「あー‥‥そうだったねぇ。」
ちょっとだけ悔しそうなハディアベス叔父上に、ほんの少しだけ溜飲を下げられた気がする。
「とにかく、近くの物が急に燃え出しても、側に緋色ネズミがいたらそれは誰かさんの意図的なものだと覚えておくことだね。叫び声を上げたりしたら、誤魔化すのが大変になるだけだから。」
ふふんと、偉そうに言うポセイリンド叔父上だけど、それって自分がそうだったと告白してる様なものなんじゃないのか?いや、まさか‥‥と思ったけど、ハディアベス叔父上も私と同じ目を向けてるから間違いはないな。とにかく、遠隔地の緋色ネズミに火を使った魔法で何かをさせる事が出来るようになったと云うことか。とんでもないな、バンブリア嬢‥‥。
彼女の魔力の性質が『強化』だと云うことは知っている。けれど、彼女が関わることで、ただの強化に留まらない『変化』が神器達に起こり続けている。彼女に該当するような神器はどれだけ古い資料を探しても見付かることはなく、依然として継承者
「渡さないよ?妙な色気を出して黄色い嘴を挟むんなら、排除対象と捉えるからねー。」
思考の海に沈んでいた私に、ぞくりとする冷たい空気を纏った言葉が投げ掛けられる。表情と話し方はいつも通りの飄々としたハディアベス叔父でしかないのに、決定的な何かが違う‥‥。
「甥に殺気飛ばしてんじゃないよ!」
「てっ!」
すぱーんと、良い音が響いてハディアベス叔父上が頭を抱え、ポセイリンド叔父上が右腕を振り抜くのが静止画像の様に視界に映ると、再び叔父2人のじゃれあいが始まる。
そうか、敵認定されたんだ‥‥。
私の知らない間に彼女との交渉に臨んだ母上は、やはりと云うか失敗したようだったけれど、この状況は想定していたんだろうか?
「はは‥‥。」
乾いた笑いが知らず唇から零れた。
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