第61話 いや、当然のように隣に座ってるとまでは思わなかったけどね!?
わたしが商会に拘ったら商会を潰してでも手に入れようとするだなんて、それは後先を考えなさすぎという物じゃないかなぁ。だってそんなことされたら余計に反発するだろうし、なによりそんな行動を起こされてむざむざ滅ぼされるまで大人しくしたりはしないもの。バンブリア家も商会に関わるみんなも。
「正直、実感がわきません。」
「
王妃様が、わたしのためを思って話してくれてるんだろうな、ってことは大体理解した。けど、実感もなければ、王妃様の話くらい大事になる前に何とか出来るとも思ってしまう自分もいるのよね。
もう少し意図を読み取りたくて王妃様にじっと視線を合わせていると、こちらの返答を促すように、微かに笑みを象った唇が更に弧を描いて柔らかな印象に形を変える。その反応を見て何故かアポロニウス王子の笑顔が思い浮かんだ。
穏やかそうで王族に相応しい懐の深さを感じさせるけれど、そこには否やを言わせない意図を含ませる彼等ならでわの食えない表情。
―――さすが王妃様、百戦錬磨の営業職以上の曲者ね、思わずただの優しさかと勘違いするところだったわ。当たり前ね、この人は国を治める国王に並び立つ存在なんだもの。ただの優しい人な訳は無いか。優先順位はほぼ平民な最下層男爵令嬢なんかよりも国益にあるのが当たり前、じゃないとフージュ王国王妃なんて名乗れないものね。この話がただの王弟、王子選り取り見取りな乙女ゲームかって言いたくなる様な婚約の打診な訳じゃない。王妃の思い描く計画に国益はあっても、わたしの夢の入る余地は無い。言われたままの意味だけに受け取るわけにはいかないわ。
「色々考えて頂けて身に余る光栄‥‥?だとは思うのですが、わたしはやっぱり自分の思う道を進みたいんです。」
申し訳なさげに眉を下げて、令嬢としてそつない微笑みを浮かべてみせると、王妃は聞き分けの無い子供の言い分を聞く母親の様な笑みで、敢えて何も言わずにこちらの考えが変わるのを待つ様な姿勢を見せる。と同時に、それまで静かにではあるものの茶器の用意に楚々と動いていた侍女もぴたりとその動きを止めたのが視界の隅に映る。
室内には、意図したかのような静寂が訪れて、王妃に付き従ってきた騎士は勿論侍女さえも微動だにせず、ただじっとわたしの一挙手一投足を見詰める。部屋中の全ての人間が『こうあるべき』との答えをわたしに出させるべく、ただの重苦しい空気に包まれる。
まぁ、部屋割りの時点から意図された圧迫空間なんだろう。あとはこちらが何も言わない王妃に委縮し、反省して折れれば万事計画通りなんだろうけど残念ながらわたしにはその計画に乗るつもりは勿論ない。
「それにわたしには王妃様の想像のつかない手段も、あるんです。オルフェ!いるんでしょ?」
何もないはずの空間に向かって声を掛けると、直ぐ隣で、気持ちの悪い魔力の歪みが生じて、すぐに思い浮かべた通りの男の声が響いた。
「はい、桜の君。」
いや、当然のように隣に座ってるとまでは思わなかったけどね!?
『ぢぢっ』
大ネズミも現れて頭の上に飛び乗ってくる。隣から微かに舌打ちが聞こえるけど気にしない。この大ネズミが居ないとわたしも正直この隣に密着している爆弾男に頼るのは心配が有るからね。
ちらりと王妃様を見れば大きく目を見開いて微笑みが崩れているし、侍女は勿論ただ慄き、女性騎士はわたしとオルフェンズの親しげな様子に不審者扱いをして良いのか考えあぐねて剣の柄に手を掛けただけの状態だ。
―――それでも王妃様ならすぐに思考回復して何とかしようとするわよね。だから、具体的に何をするかとかは、ここでは言えないわ。
「オルフェ、取り敢えずデートの続きよ!
「貴女の望むところならどちらへでも。ネズミ付きならば尚面白い趣向ですね。」
くすりと笑いながら肩を抱こうとするオルフェンズを躱すようにサッと立ち上がり、王妃に向けてにこやかにカーテシーをしてみせる。
「お心遣いありがとうございました。」
言い終わるや、視界一面が白銀の紗に包み込まれた。
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