第55話 偶発的な事故じゃなくって、オルフェンズの計画のもとの必然だったのかも?
気が付いた王子が開口一番吐いた台詞は聞き捨てなら無いものだった。
「え?待って、アポロニウス王子!その声って本当に国王陛下の声だった?」
「なんっ‥‥掠れていて途切れ途切れだったが、近くから響いたんだ、父上じゃないの‥‥か?」
必死なアポロニウス王子の言葉に被せる様に思わず声を上げてしまったけど、追及してみれば王子も今一つ確信が持てないみたいだ。
「許さないで・か、許さない・かは分からないけど、繰り返し言い続ける声は、わたしも魔力の暴発が起こる前に帝石の所で聞いているのよ!多分、何か帝からのメッセージ‥‥?これを何とかしたら、王子や国王陛下の中に入り込んだ魔力がどうにかできると思わない!?ポリンドは居ないし、いつ戻るかも知れないこの状況じゃあ、国王陛下は回復も難しいらしいし‥‥。なら、今出来る事を確認すべきだと思わない?」
体調がかなりきつそうなのは見ればわかるけど、それでも言外に、帝石への同行を提案してみる。
ミワロマイレの「なかなかの
国王の容態も思わしくない今、一刻の猶予も惜しいとばかりに、わたしたちはその足で帝石のある円形庭園へ移動した。アポロニウス王子は、真新しい傷跡も顕な庭園の様子にしばらく言葉を失っていたけど、すぐに切り替えて帝石に案内する様に王子自身から促されて踏み入る。王子が来たのはこれが初めてだと云う事だったけれど、この土地を護るために代々の王だけが踏み込める場所が在るとは聞いていたらしい。ミワロマイレと王妃はそのまま王様の居室に残り、ギリムと3人の騎士がわたしたちと一緒に帝石の元へ向かうことになった。
体調不良からふらふらしながら進む王子が、凸凹の地面に足を取られない様ハラハラしながら進んで行くと、すぐに前方に目的のものが見えて来て―――。
目的の石のそばで、悠然と薄い笑みを浮かべながら立っている銀髪の美丈夫の姿に思わずため息を吐きたくなって堪える。一体彼はわたしに何をやらせたいのかしらねぇ?と。
「――オルフェ。」
「やはりバンブリア嬢の護衛だったか‥‥。私に父上の処へ行く様告げたのは彼だ。」
そうだった、王子にも声を掛けたんだったわね。余裕の
同行した騎士たちが色めきだして剣に手を掛けるのを、アポロニウス王子が制する。
「貴方はどうして私を父上の元に向かわせるように仕向けたんだ?この魔力が私に入ることは想定内と云う訳でもないだろう?過去にこんな例は無かったはずだからな。」
興味深そうにアポロニウス王子の姿を眺めるオルフェンズはどこか満足気だ。
「依り代の候補になる人間は1人でも多い方が良いと思っただけですよ。今の王家の人間で帝と同じ魔力を継いでいるのはどうやら、貴方と国王だけの様ですからね。だから試したんです。」
その言葉にハッとした。依り代――物騒な言葉だけど、つまり封印の礎になっている帝の役目を代わる人間の事だろう。オルフェンズは父母が礎となって苦しみ続けるのをなんとか終わらせようとしているから。
――と言うことは、もしかするとここで帝石なる巨大黒曜石が壊れる事になったのも、わたしが引き起こしてしまった偶発的な事故じゃなくって、オルフェンズの計画のもとの必然だったのかも?オルフェンズのバックハグから逃げたわたしがつんのめって手を付いたせいじゃないのかも!?
「わたしたちが来て帝石が壊れるのはオルフェの思い通りだったって訳なのね!」
「あ、いえ。――それは全く以って予想外の事態でしたね。流石は桜の君と言ったところでしょうか。」
謎は解けた!って気になって力いっぱい断言したのに秒で返されたし、嬉しくない――!!じゃあ、あれはやっぱりわたしのドジによる事故が原因ってこと!?居た堪れない‥‥。
「じゃっ‥‥じゃあ、王様に石の中にあった帝の魔力が入ったことは?」
「それも驚きでしたよ。ただ礎として機能できなくする方法を、これまでの幾年月模索してはいましたが、桜の君が来ることによってこうもあっさり解決するとは。桜の君の取られる選択の全てが、私の予想もしない素晴らしい成果を上げてくださる‥‥。貴女は本当に目が離せないひとです。」
いや、ほんと嬉しくない‥‥。
何がって、オルフェンズの言う幾年月は神話の時代以降のとてつもない時間のことで。それだけの時間をかけても変わらなかったことが、まさかのわたしの
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