第54話 そのセリフって、なんだか聞き覚えがあるんですけど―――?

 結果から言おう。

 ―――王と王子、2人とも寝込んでしまった。


 ハッキリと名指しはされていないものの、ほぼ間違いなくオルフェンズであろう人物の助言によってデウスエクス王の元を訪れたアポロニウス王子が、心配のあまり父王の手を取った。そしたらなんと、その手を介して帝石から国王に乗り移っていた魔力が2人に分散され、薄まってめでたしめでたし‥‥とはいかず、それでも強すぎる魔力によって国王は寝込んだまま。王子は国王の手を取った格好のまま昏倒してしまった。


 そんな状況だから、周囲の騎士たちも下手に触れられないと思ったのか及び腰になり、アポロニウス王子はいまだ国王のベッド脇に膝を付き、シーツの上に頭を突っ伏して国王と手を繋いだ状態だ。


「誰かっ!アポロニウスを放してあげてっ。」


 王妃の悲痛な叫びに、部屋に詰めている近衛騎士たちは一瞬息を飲むけれど、手を差し伸べる勇気が出ない様でたじろいでいる。いや、ちょっと前に医師が王様に触れて診察していたよね?騎士の人たちもここへ王様を抱えて来たよね!?


 心の中で突っ込みを入れつつ、けれど余り出しゃばって目立たないようにグッと我慢して様子を見ていると、一際厳めしい面差しの、この場のどの騎士よりも勲章が多く付いた薄紅色の騎士服の男が、覚悟を決めた様子で踏み出して、そろそろと手を差し伸べ――‥‥

 ―――って!


「金色の魔力は危険物じゃないですよ。ましてやこの王国は何千年もこの帝の魔力で護られて来ているんですから。それなのにそんなに怯えるなんて薄情じゃありませんか?」


 ひょいっと、我慢し切れなくなったわたしが、王子をお姫様抱っこで持ち上げる方が早かった。部屋に居る全員がぎょっとした様だけど、王子を床に寝かておくわけにもいかないじゃない。

 まぁそれよりも、さっきの帝石の魔力の暴発の時に、周りはボロボロになったけど、その場に居たわたしたちは怪我一つなかったから、人を護る意思のある力なんじゃないかなぁなんて何となく信じてみたくなったりしたのよね。


「なんともないのか?」


 ギリムに問いかけられて、うーんと首をひねる。


「なんともないことはないかなぁ。身体強化で力を増して王子を抱えてるんだけど、強化を掛けるそばから王子の弱化の魔力で相殺されて行ってる感じだから、結構重いわ。あと他人の魔力は気持ち悪いわ。だから早く寝室に連れて行ってあげたいんだけど。」


 言うなれば、王子は今、金色の「弱化」の魔法が駄々洩れている状態で、しかも帝石から乗り移ったのも同じ種類の魔力なのか、先日ワイバーンを倒した時よりも強力になっている気がする。そして、強化を掛けても一瞬の後には効果が切れる感覚があるから、常に新たな強化を掛け続けている感じだ。効率が悪すぎる。こんな非効率を続けるのはちょっと耐えられない。


「ま、いっか。」


 王様に寄り添う王妃が跪いている反対側のベッドサイドへ王子を運んで、よいしょっと転がせば、周囲の近衛騎士たちがようやく「何をやっている!!」と反応しだした。いやだって、ずっと男の子を抱えているのも令嬢としてどうかと思うし、なかなか寝室に案内してくれないし、案内されてもやっぱり令嬢としてはそこへ入るのは抵抗が無いわけじゃないからね?

 それにベッドは広いし、同じ帝石の魔力を纏っちゃっているなら一緒にしておいたほうがいいかも、とも思うし。


「「う‥‥」」


 2人分の声がベッドの上から聞こえた。


「あなた!!アポロン!!」


 王妃の2人を呼ぶどこか明るい声が寝室に響き、デウスエクス王とアポロニウス王子が揃って目を開けた。すかさず王家の主治医と魔導士長が歩み寄って2人を診る。結果、国王は体内に抱える魔力の量に些少の減退が見られるものの、相変わらず予断を許さない状態ではあるらしい。もう一方のアポロニウス王子は、魔力過多の状態ではあるものの、国王の様に生命を脅かすほどの量ではないとの事だった。


「ぅぐ‥‥何なんだ?――この無理やり身体に入り込んでくる魔力は。む?‥‥どうしてバンブリア生徒会長がここに?」

「アポロン!?良かった!あなたは大丈夫なのね!?」

「母上?え?ベッドの上――‥‥はっ!」


 朦朧としつつ王妃の声に答えた王子は、そこでようやく現状を思い出したらしい。


「父上は!?声を‥‥声を聞いたんだ!だから父上は大丈夫だって‥‥!?」


 辛そうに頭を片手で押さえながら上体を起こしたアポロニウス王子は、そこでようやく未だ微かな呻き声を発するだけのデウスエクス王に気付いたみたいだった。「なんでまだ父上は横たわっておられるのだ‥‥?」ショックを受けたように呟くけれど、そもそも国王はここへ運ばれてから呻き声しか発してはいない。


「父上!?話してくださいましたよね!『許さないでくれ』と‥‥!何故そんなことを仰るのか、聞かなければと必死で意識を繋ぎ止めたのですよ!?」


 え!?そのセリフって、なんだか聞き覚えがあるんですけど―――?

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